前歴とは?前歴は消せるのか、回避するには
「前科」とは過去に犯罪を起こしたことを意味すると考えている方は多いと思います。それでは、似たような言葉である「前歴」は、どういった内容を意味するのでしょうか。同じ意味だと思った方も実は多いのではないでしょうか。
この記事では前歴とは何か、前歴と前科の違いは何か、また前科がつくのを回避にはどうすればよいのかについて具体的に解説します。
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前歴とは
「前歴」とは、簡単に言えば、捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられ取調べ等をうけたものの、結局犯人として起訴されることはなかったような場合につくものです。
つまり、捜査機関から嫌疑をかけられて捜査を受けた履歴のことです。例えば、万引きをして警察に捕まり検察庁に送られたけれど、検察官が裁判所に起訴せず不起訴処分で事件が終了したといった場合には、捜査機関である警察・検察から嫌疑をかけられて捜査を受けているので前科はつきませんが、前歴はつくということになります。
前科と前歴の違い
「前歴」と似た言葉に「前科」という言葉がありますが、これらは全く違います。
具体的にいうと、「前科」は検察官が犯人として裁判所に起訴して裁判所が有罪判決を言い渡したときにつくものですが、「前歴」は裁判所が有罪判決を言い渡すかに関係なく無罪判決が出ても、捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられ取調べ等を受けたときにつくものです。
前歴がつくことによるデメリット
ここまで解説したように、前歴は、前科とは異なります。したがって、前歴がついたからといって、前科がついた時のように教師等の一定の職業に就くことができないといった不利益は生じません。
しかし、ここまで説明したような前科と前歴の違いが正確に広く理解されているとはいえません。このため、例えば、無罪判決を得て前科がつかず前歴に留まるのに、前歴があると伝えるとあたかも過去に犯罪を起こして処罰された問題のある人と思われてしまう不利益を被ることがあります。また、以下のようなデメリットが生じることもあります。
インターネット上に記録が残る可能性がある
まだ裁判所が有罪判決を出していないのに、ニュース等で容疑者として捜査機関の捜査を受けたことが報道されることがあります。
そして、この報道をもとに、「容疑者〇〇が、警察等から捜査を受けている。」といった内容の書き込みがSNS等にされることもあり、どんどんインターネット上で拡散していくこともあります。
このようにインターネット上に拡散してしまうと、どこに拡散したのかその全てを把握することは非常に難しいので、完全に情報をインターネット上から削除するのは困難です。
その情報が載っていることが確認できたサイトについては、サイトの運営者に依頼してその情報を削除してもらえる可能性があります。しかし、サイトの運営者の中には削除依頼に簡単に応じないケースもありますので、交渉のプロである弁護士に相談しサイト運用側と交渉することも検討しましょう。
再犯の際に不利になる
前歴は警察、検察で管理されており記録が残るため、後に罪を犯して処分を受ける際に不利に働くことがあります。
例えば、以前万引きをしたけれども起訴猶予処分にとどまり前歴がついた状態で、また同じような万引きをすぐにしてしまったとしましょう。
検察官は、以前反省の様子があったから起訴猶予処分にしたのにまたすぐ同じような万引きをした以上、今度は起訴の必要なしと判断できないとして起訴処分をする可能性があります。
前歴は調べられるか
前歴がつくと、警察や検察のデータベース上にその旨が記録されます。前歴は他人に知られたくない情報の最たる例ですから、一般人である第三者が警察等に照会をしても、警察等は照会に応じません。しかし、報道等により前歴がついたことがインターネット上に拡散してしまったような場合には、探偵の徹底的な素行調査等により第三者に知られてしまう可能性はあります。
前歴は消せるか
残念ながら前歴は本人が死亡するまで消えることはありません。他方、前科については抹消されると聞いた方がいるかもしれません。前科がつくと、市区町村長が作成する犯罪人名簿に氏名が載りますが、罰金以上の刑を受けることなく一定の期間が経過すると「刑の言渡し」が失効し、この犯罪人名簿から削除されます。このことを前科の抹消といいます。
前歴は履歴書に書く必要があるのか
企業が賞罰欄の記載のない履歴書を指定している場合には、わざわざ前歴を履歴書に記載する必要はありません。また、企業が賞罰欄の記載のある履歴書を指定したとしても、前歴を履歴書の賞罰欄に記載する必要は基本的にはありません。
なぜなら、裁判例上、履歴書の賞罰欄の「罰」とは、裁判所から有罪判決を言い渡されたこと、つまり前科を指していて前歴を意味していないとされているからです。
前歴があっても海外旅行はできるか
海外旅行にはパスポートが必要ですが、前歴の有無は基本的にはパスポート発給の制限理由ではない(旅券法第13条1項各号)ので、前歴があったとしても大抵はパスポートが発給されます。
しかし、渡航先によっては、パスポートに加えビザ等が必要になるケースがあり、ビザ等の取得に当たり前歴が不利に扱われる可能性があります。例えば、アメリカに渡航する場合ESTA又はビザの取得が必要ですが、一定の前歴がある場合原則としてESTA申請による渡航は認められません。
前歴に留め、前科を回避するには
前歴ではなく前科がついてしまうと、履歴書の賞罰欄への前科の記載が基本的には必要となります。前科を記載することは、自らに有罪判決を裁判所から言い渡されたことがあることを明らかにする行為です。
企業は、有罪判決を過去に受けたか否かも含めて採用するか判断しますから、有罪判決を受けるような人との評価がされ、就職に不利に働く可能性が高くなります。
前科は有罪判決を言い渡された時につきますが、日本の起訴された場合の有罪率は99.9%ともいわれています。このため、前科をつけないためには、検察官が事件を裁判所に起訴しないという判断、すなわち不起訴処分を目指すことが重要です。
前歴で留め、前科がつくことを避けるには弁護士へご相談ください
ここまで解説したように、前歴で留め、前科がつくことを避けるためには検察官が不起訴処分をすることが非常に重要です。しかし、検察官が不起訴処分をするには、当該事件について起訴の必要はないという判断をする必要があり、そのための材料が必要です。
専門家である弁護士ならば、検察官の判断のポイントを踏まえつつ、そのような材料があり起訴の必要はないことを的確に検察官に対し主張することができます。
前歴に留まらず前科がついてしまうと、解説したような就職の際の不利益以外にも様々な不利益が生じますので、前科がつくことを避け前歴で留めたいという場合には、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。