前科とは?生活への影響など
前科がつくと、生活上色々な不利益があるといった話を聞いたことがある方は多いと思います。
しかし、そういう話は聞いたことがあるけど具体的にどんな不利益があるのかよく知らないという方や、不利益があるのはわかったけどどうすれば前科を回避できるのかといった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
ここでは、前科がつくと生活にどのような影響が出るのか、また前科を回避するにはどうすればよいかについて具体的に解説します。
Contents
前科とは
「前科」という言葉ですが、これは法律用語ではありません。
「前科」という言葉が用いられたとき、それは、①裁判所で有罪判決の言渡しを受けたこと、②懲役、禁錮及び拘留といった身体の自由を奪う刑罰の執行を受けたこと、③後述の犯罪人名簿に名前が載っていることのいずれかの意味を示します。
この記事に出てくる前科という用語は、上記①の意味、すなわち裁判所で有罪判決の言渡しを受けたことという意味で主に使っています。
前科と前歴の違い
「前科」と似たような言葉に「前歴」という言葉もあります。しかし、「前科」は、検察官によって裁判所に起訴され、有罪判決の言渡しを受けたことを意味するものですから、起訴の有無と関係のない「前歴」とは異なります。
前歴について詳しく見る前科の記録は残るか
前科がついたという事実は一生残ります。しかし、罰金以上の刑を受けないで一定期間たつと、後述の犯罪人名簿に載った名前が削除されます。
犯罪者名簿とは
「犯罪人名簿」について以下解説します。
「犯罪人名簿」とは、市区町村長が、検察庁から前科情報を取得し独自に作成した名簿で、前科情報が記録されています。
この「犯罪人名簿」は、選挙資格の調査や職務上前科が欠格事由となっている職業の欠格事由の有無の調査等のために作成されています。
犯罪人名簿から削除されるとき
いつまでも「犯罪人名簿」に名前が載り続けるわけではありません。刑の執行猶予期間が満了したり(刑法27条)、刑期を満了して罰金以上の刑を科されることなく一定期間経過した場合(34条の2)には、刑の言渡しの効力がなくなるので前科情報が削除されることになります。
インターネット上に情報は残る可能性はある
一方、「犯罪人名簿」ではなく、インターネットに載った前科情報について、完全に削除することは困難です。一度インターネット上に前科情報が載ってしまうと、その後、別のウェブサイト上にその前科情報に関する掲示板等が作成されたりしてどんどん拡散していくからです。
前科情報がどこに掲載されているのかその全てを特定するのは難しいので、インターネット上に残った前科情報を完全に消すのは困難です。もっとも、掲載サイトが特定できたものについては、サイトの運営側に依頼して削除してもらえることもあります。
したがって、インターネット上の前科情報を削除したいというときは、弁護士に相談しサイト運用側と交渉することも検討しましょう。
前科がつくことによる生活への影響
就職に不利になることがある
職業の中には、例えば教員のように一定の前科がつくと就職できない(学校教育法9条1号)とされているものがあります。このような前科による就職制限は、罰金以上の刑を受けることなく一定期間が経過し、刑の言渡しの効力がなくなった時まで続きますので、それまでは上記のような職業に就職できません。
上記のような職業でなかったとしても、履歴書に賞罰欄がある場合や会社から申告を求められた場合などには前科があることを申告しなければなりません。企業は、賞罰の有無も含めてその労働者を採用するかを決めますので、仮に前科があることを黙ったまま採用されてしまうと、前科を隠したとして懲戒解雇されてしまうリスクもあります。
前科は離婚の理由になるか
裁判で離婚する際には、民法の離婚事由が必要ですが、前科があるからといって直ちに民法上の離婚事由には当たりません。しかし、以下のような場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」という民法の離婚事由になってしまう可能性があります。
- ・懲役刑に服したことで家族を扶養することができなかった場合
- ・犯罪行為ないし服役により配偶者の名誉を傷つけたりした場合
ローンは組めるか
金融機関がローンの審査をする際、個人信用情報機関が個人信用情報機関に登録された情報をもとに調査した取引残高情報や延滞事故情報の有無を参考にします。しかし、個人情報機関に登録される情報には前科・前歴の有無はありません。したがって、前科があったからといってローンが組めないということにはなりません。
生活保護や年金はもらえるか
生活保護の受給要件は資産や能力等あらゆるものを活用することであって、前科の有無は関係ありません。年金の受給要件についても、加入期間等であって、前科の有無は関係ありません。したがって、前科があっても、生活保護や年金は受給できます。
海外旅行はできるか
海外旅行をするには、パスポートの発行を受けて渡航先の入国審査を通過する必要があります。
しかし、例えば、A国で過去麻薬の違法所持で刑罰を受けているのに、「麻薬の取締まりに関するA国の法令に違反した者の入国を拒否する」という法律が施行されているA国に再度渡航しようという場合等(旅券法13条第1項各号)には、パスポートが発行されないことがあります。
また、仮にパスポートが発行されても、渡航先の入国審査で前科があるとして入国が認められないこともあります。
前科は回避できるのか
不起訴処分となれば前科はつかない
日本では起訴された場合の有罪率は99.9%といわれており、起訴された場合、前科がつかないようにするのは非常に困難です。他方、不起訴処分、つまり検察官が裁判所に事件を起訴しなかった時には前科はつきません。検察官が不起訴処分をするのは、以下の3つの場合です。
- ・被疑者が真犯人ではないと分かった時
- ・被疑者が犯罪をしたと証明できるだけの証拠がない時
- ・示談等が成立しており、起訴の必要がない時
不起訴処分になるには、検察官に対しこれら3つの場合に当たることを主張していくことが必要ですから、そのためにも早期に弁護活動をすることが必要です。
不起訴処分には示談の成立が重要
示談には、被害を弁償したという内容や被害者が被疑者を許すといった内容が盛り込まれることがあります。このため、示談があれば、検察官は起訴の必要がないとして不起訴処分をする可能性が事案によっては十分あります。また、仮に起訴されてしまっても、被害を弁償しているといった示談の内容を裁判官がみて、言い渡す刑が軽くなる可能性が高くなります。
そして、このような示談交渉を行う場合、弁護士であれば、被疑者本人に代わって示談交渉を持ち掛けることができます。
前科がつくのを回避するには、弁護士へご相談ください
前科がついてしまうと、就職の際に不利になったり、インターネット上で前科情報が拡散されたりと生活上色々な影響が出てきます。
前科がつくことを回避するには、検察官に不起訴処分をしてもらうことが重要です。
弁護士であれば、検察官の判断のポイントを踏まえつつ不起訴処分の理由があることを検察官に対し的確に主張することが可能です。
前科の問題は、人生に深くかかわってくるため、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。