監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
親は、自分と同じ水準の生活を子供に保障する、強い義務(生活保持義務)を負っています。これは、夫婦が離婚して、子供と離れて暮らすことになっても変わりません。
そのため、子供が自立するまで、子供の生活費・教育費・医療費などの養育費を支払うことになります。
離婚後の養育費について、「支払いに応じてもらえない」、「約束したのに支払ってもらえない」などのトラブルは、残念ながら少なくありません。
そんな養育費に関するトラブルを解決するために、家庭裁判所の調停手続(養育費調停)を利用する方法を、今回はご紹介します。
離婚後に養育費の取り決めを希望される方、取り決めた内容の変更を希望される方のご参考になれば幸いです。
Contents
養育費調停でできること
離婚して、子供と離れて暮らすことになったからといって、子供の親であることは変わりません。 子供が社会的・経済的に自立するまで、養育費を支払う義務が消滅することは基本的にありません。
離婚後の養育費について、両親の話し合いで解決ができない場合には、裁判所の調停手続を利用することができます。
調停手続では、調停委員が間に入るため、当事者が直接顔を合わせて話し合う必要がありません。
調停委員が、双方の主張と争点を整理して、ときに助言をしたりして、解決に向けた話し合いが行われます。 次項から、具体的にどのような請求ができるのかをみていきましょう。
養育費の請求
離婚後に養育費の支払いを求める場合、養育費請求調停を利用することができます。
裁判所を通さずに、夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合に、あらためて調停の場で取り決めることも可能です。
未婚のまま子供を産んだ母親が、子供を認知した父親に対して養育費を求める場合も、養育費請求調停を申し立てることができます。
なお、婚姻中(離婚前)であれば、離婚調停の中で、養育費について取り決めることになります。
《養育費請求調停で話し合う内容》
- 養育費を支払うかどうか
- 養育費の金額
- 養育費の支払期間
- 養育費の支払方法
養育費の増額
一度取り決めた養育費の増額を求める場合は、養育費増額請求調停を利用することができます。
取り決め時に予測できなかった特別な事情の変更が認められる必要があります。
《養育費の増額が認められやすいケース》
- 子供の大きな病気(怪我)で、高額な医療費が必要になった
- 子供が進学することになって、取り決めた教育費では不足する
ただし、私立高校や大学進学のための教育費については、義務者の承諾があった場合、または義務者の収入・地位・学歴などから進学が合理的と認められる場合に、養育費の増額が認められる可能性があります。 - 病気や怪我、あるいは会社の倒産などで、子供と一緒に暮らす親(権利者)の収入が大幅に減少した
- 養育費を支払う側(義務者)の収入が、昇級や転職で大幅に増加した
養育費の減額
一度取り決めた養育費の減額を求めることも可能です。
この場合は、養育費を支払う側(義務者)が、養育費減額請求調停を申し立てることになります。
養育費の増額同様に、取り決め時に予測できなかった特別な事情の変更が認められる必要があります。
《養育費の減額が認められやすいケース》
- 支払う側(義務者)の収入が、やむを得ない事情(倒産やリストラなど)で、大幅に減少した
- 支払う側(義務者)の病気(怪我)で、不測の高額出費があった
- 支払う側(義務者)が再婚して、再婚相手の連れ子と養子縁組をした
- 支払う側 (義務者) が再婚して、再婚相手との間に実子が生まれた
- 子供と暮らす親(権利者)が再婚した、子供と養子縁組をした
- 子供と暮らす親(権利者)の収入が、昇級や転職で大幅に増加した
養育費調停の申立てに必要な書類
養育費調停の申し立てに必要な書類は、以下のとおりです。
必要書類や、書類の記載例が家庭裁判所のホームページで公開されているので、ご参考ください。
申立人が作成する書類 | 申立書、およびその写し1通ずつ |
---|---|
事情説明書1通 | |
進行に関する照会回答書1通 | |
連絡先に関する届出書1通 | |
標準的な申立添付書類 | 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)1通 |
ご自身の最新の収入を証明する書類のコピー ※源泉徴収票、所得証明証、直近3ヶ月以上の給与明細など |
※このほか、裁判所から必要に応じて追加の書類提出が求められる可能性があります
※これらの書類は、原則相手側から閲覧が可能です
「養育費調停・審判事件」
養育費調停にかかる費用
養育費調停を申し立てる際に必要な費用は、以下のとおりです。
収入印紙 | 1200円(未成年者1名につき) |
---|---|
郵便切手 | 704円(内訳:140円切手×1枚、84円切手×6枚、10円切手×6枚) |
戸籍謄本取得費用 | 450円(1通につき) |
その他 | ※収入証明書類の取得に必要な費用 |
※広島家庭裁判所における郵便切手代は704円ですが、手続の進行に応じて郵便切手の追加が発生する可能性があります(2023.9現在)
調停の流れ
ここからは、養育費調停の具体的な手続の流れをみていきましょう。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
「養育費の請求」、「増額請求」、「減額請求」、それぞれを希望する側が、養育費調停を申し立てることになります。
調停の申立ては基本的に、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書などの必要書類を、持参または郵送で提出します。
事前に相手と話し合って合意した家庭裁判所に申し立てることも可能です。
通常、申立てから2週間ほどで、裁判所から申立人と相手方に、第1回調停期日の日時を知らせる「調停期日通知書」が郵便で届きます。
なお、第1回調停期日は、申立ての約1ヶ月後に設定されるのが一般的です。
第1回目養育費調停に出席
申し立てた家庭裁判所にて、指定された日に、第1回目の調停が行われます。調停は、当事者同士の話し合いの手続で、調停委員会(裁判官1名と、男女の調停委員1名ずつ)が介入して進められます。
第1回目調停期日の冒頭では、調停手続の流れについて調停委員から説明を受けた後は、基本的には、申立人と相手方から別々に、子の人数や年齢、双方の収入、希望する養育費の金額などについて、調停委員が話を聞き取ります。
申立人と相手方にはそれぞれ別の待合室が用意されており、基本的には、調停手続の説明を受けるとき以外は、相手と顔を合わせることのないよう配慮されています。
1回の調停期日にかかる時間は、待合室での待機時間も含めて、だいたい1時間半~2時間程度となります。
第2回目以降の調停
第1回目の調停期日で話し合いがまとまるのは極めてまれなケースです。ほとんどの場合は第2回目以降も調停期日が続行されます。
一般的には、前回期日から1ヶ月~2ヶ月ほど間を開けて次の期日が設定されます。
第2回目以降の調停も、第1回目同様、相手と顔を合わせずに、調停委員を介して、合意に向けた話し合いが進められます。
調停の成立
調停での話し合いの結果、双方が養育費について合意し、調停委員会も合意内容が相当と判断すると、調停が成立します。
裁判所の書記官によって、合意内容をもとに調停調書が作成されると、調停が終了します。
作成された調停調書は、裁判の判決(確定判決)と同じ効力を持つことから、債務名義となるため、調停で取り決めた内容が実行されない場合、最終的に強制執行手続をもって、強制的に約束を実行させることが可能になります。
《調停成立以外の調停終了》
- 調停不成立
裁判所が、話し合いによる合意が困難と判断した場合、調停不成立となって、調停が終了します
- 調停取り下げ
調停が成立もしくは不成立になるまでの間、申立人の意思で、取下書を提出することで
相手方の同意なく、調停を取り下げることが可能です
取り下げられた調停は、最初からなかったものとして扱われます
不成立になった時はどうなる?
調停による話し合いがまとまらず、合意が得られない場合、裁判所の判断によって調停が不成立となります。
調停不成立後、自動的に審判手続が開始されて、調停の経緯や、双方から提出された証拠などをもとに、裁判所の総合的な判断をもって、養育費の支払可否や条件の決定が下され、不服申立てがなされなければ、審判書が作成され、終了となります。
なお、審判内容に納得できない場合は、審判結果を受領してから2週間以内に、不服の申立て(即時抗告)をすることが可能です。
この場合、上級の裁判所(高等裁判所)にて、養育費について審理されることになります。
養育費調停を有利に進めるポイント
「子供のため」というだけでは、養育費の請求を認めてもらう正当な理由になりません。 養育費についてよく理解し、主張すべきポイントをおさえる必要があります。
ここからは、養育費調停を有利に進めるための具体的なポイントをいくつか紹介しますので、ぜひご参考ください。
養育費の相場
養育費の金額は、法律で規定があるわけではありませんが、相場から大きく外れた金額を調停で請求しても、相手はもちろん、裁判所も応じてくれることは、ほぼありません。
そのため、ご自身で養育費の相場を知っておくことが重要です。
養育費の相場を知るためには、裁判所が公開している、養育費算定表(こちらから)を参考にします。 この養育費算定表は、裁判所の調停・審判・訴訟においても、参考に用いられています。
《相場の求め方》
- ご自身の家族構成(子供の人数・年齢)に合致する表を選択します(例:子供10歳➡表1)
- 子供と同居する親(権利者)の職業・年収を、横軸から選択します(例:給与年収150万円)
- 子供と離れて暮らす親(義務者)の職業・年収を、縦軸から選択します(例:給与年収500万円)
- 横軸と縦軸が交わる枠が、養育費の相場です(例:4~6万円)
調停委員を味方につける
調停委員は、公正中立な立場から、調停を円滑に進めるために、双方からそれぞれの言い分を聞き取り、すりあわせを行い、助言や解決策を提案する、いわゆる仲介役です。
原則、どちらか一方の味方をすることはありませんが、調停委員も人間ですから、あまりにも相場から外れた希望を押し通そうとしたり、感情的な主張を繰り返すようだと、不信感を抱かれるおそれがあります。
客観的な証拠に基づいた、論理的な主張を丁寧に心掛けることで、調停委員に事情を理解してもらい、共感を得ることができれば、相手方を説得してくれる可能性もあります。
調停委員の情に訴え、かつ、相手の主張に耳を傾けて協力的な姿勢を示すことも大切です。
養育費の請求が正当であることの証明
証拠や根拠もなく、ただ主張するだけでは、正当性があるとはいえません。
ご自身の請求を理由付ける、客観的な証拠が重要となります。
《証拠となるもの》
- ご自身の収入を証明する書類
源泉徴収票や所得証明書、収入変化前後の給与明細など - 相手の収入を証明する書類
源泉徴収票や課税証明書、確定申告書など
※調停委員をとおして、相手に提出を求めることも可能です - 増額・減額を求める事情を証明するもの
病院の診断書、医療費の明細書、学費に関する資料、戸籍謄本など
審判を申し立てることを検討しておく
通常、審判や訴訟を起こす前に、調停手続を経なければならない「調停前置主義」という制度がありますが、養育費に関しては、この調停前置主義が適用されません。
相手が調停に出席する可能性が限りなくゼロに近い、話し合っても合意できる見込みが明らかにない場合は、調停を経由せずに、いきなり審判を申し立てることが可能です。
この場合、申立先は、子供が実際に居住している住所地の家庭裁判所になるため、ご注意ください。
審判では、双方の主張と証拠をもとに、裁判所が総合的な判断を下すため、相手が応じない場合でも、結果を得ることができ、早期解決が見込めます。
弁護士に依頼する
離婚や養育費の問題に精通した弁護士に依頼することも、調停を有利に進めるうえで、重要なポイントのひとつです。
請求する理由をどうやって伝えるのか?有効な証拠は具体的にどんなもの?証拠をもとにどうやって主張するの?
実際はこのように、不安や疑問が多いのではないでしょうか。
弁護士であれば、証拠の収集や書面の準備、適切な主張まで、幅広く、柔軟に対応できます。
相手と顔を合わせるのが不安な場合にも、弁護士が代理人として、調停に出席することが可能です。
なにより、弁護士を立てていることで、調停委員や裁判官に本気度を示す効果が期待できます。
よくある質問
養育費調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
調停は、平日の日中に行われるため、仕事の都合などでどうしても出席できない場合も想定されます。
この場合、やむを得ず欠席する旨を事前に連絡していれば、期日が変更されることもあります。
期日変更がなされなくても、出席した側の主張のみが聴取され、次の期日を双方が出席できる日程で調整し、次回調停期日にて話し合いが進められます。
もっとも、相手が調停に一切応じるつもりがなく、無断欠席が続くようであれば、裁判所が「話し合いによる合意が困難」と判断し、調停は不成立となって終了します。
調停不成立後は、自動的に審判手続に移行されます。
審判では、相手が出席しなくても、調停の経緯や、出席した側の主張・証拠をもとに、裁判官が判断を下します。
欠席をして主張できなかった側が不利になる可能性は高いですが、かといって、出席した側の主張が100%認められるとは限りませんので、ご留意ください。
養育費調停で決めた金額を払わない場合はなにか罰則などはありますか?
養育費を受け取る側(権利者)が、強制的に養育費を回収する法的手段をとる可能性があります。 具体的な内容は以下で紹介しますが、このような事態を避けるためにも、養育費は滞ることなく支払うようにしましょう。
場合によっては、遅延損害金を請求されるおそれもあります。 もしも支払いが困難な場合は、減額交渉をする、調停を申し立てるといった対応を検討ください。
《権利者がとる対処法》
-
①履行勧告
家庭裁判所から、養育費を支払うよう勧告を受けます
※履行勧告に従わない場合(ペナルティはありません)
-
②履行命令
家庭裁判所から、養育費を支払うよう命令を受けます
※履行命令に従わない場合(10万円以下の過料が課されます)
-
③強制執行
地方裁判所の強制執行手続をもって、給料や預貯金や不動産などの財産が差し押さえられて強制的に養育費が回収されます
特に給料が差し押さえる場合は、過去の未払い分だけでなく、支払期間終了までの将来の養育費分についても、勤務先から支払われる給料を差し押さえることが可能です
養育費の調停について弁護士にご相談ください
養育費は、子供が自立するまで長期間に渡って支払いが発生することや、養育費の取り決め時には予測できなかった事情の発生で増額・減額を求めざるを得なくなるなど、問題が生じやすいといえます。
こうした問題も、養育費調停を利用することで、解決できる可能性があります。
調停が成立すれば、合意内容は法的な効力をもち、約束が守れなかった場合に強制的に支払いを実行させることも可能になります。
養育費は、子供が健全に成長するうえで欠かせないものです。
だからこそ、お悩みを抱えている方も多いのだと思います。
弁護士法人ALGは、多くの離婚・養育費問題に取り組んだ経験から、それぞれのお悩みや、個々のご事情に寄り添ったサポートが可能です。
弁護士に依頼するのは抵抗を感じられるかもしれませんが、調停を有利に進める方法の選択肢のひとつとして、ぜひご検討ください。
-
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)