監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
今回は後遺障害等級認定に対して異議申立てをする方法について解説します。
後遺障害の認定結果に納得できなければ「異議申立て」というものをして、再審を申請できます。
異議申立てをするのは以下のような場合です。
- 後遺障害等級が非該当
- 希望よりも低い等級で認定された など
後遺障害は認定された等級に応じて、加害者の保険会社に後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの損害賠償を請求できます。
交通事故で残存したすべての後遺症に等級が認められるわけではありませんが、認定等級によって被害者が受け取る賠償金は増減します。納得できなければ異議申立てを検討しましょう。
Contents
後遺障害等級の異議申立ての方法
異議申立てには3つの方法があります。
- 自賠責保険に異議申立て
後遺障害等級の異議申立ては自賠責保険へすることが多いです。異議申立て方法には「事前認定」と「被害者請求」があります。自賠責保険への異議申立ては何度でもできます。 - 自賠責保険・共済紛争処理機構を利用
自賠責保険の結果に納得できない場合、自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請できます。自賠責保険の判断が適切であるか、紛争処理機構が審査します。紛争処理機構へ申請できるのは1回のみです。 - 裁判
基本的には、上記2つの方法でも納得できない場合、裁判で争います。裁判では自賠責保険の結果が重視されやすいですが、適切な立証ができれば自賠責保険の認定結果を上回る、納得できる後遺障害等級が認められる可能性があります。
自賠責保険会社に異議申立てをする方法
【事前認定】 加害者の任意保険会社が自賠責保険会社に申請
【被害者請求】 被害者自身が自賠責保険会社に申請
自賠責保険会社への異議申立ては「事前認定」か「被害者請求」で申請します。基本的には、後遺障害等級認定を申請した方法で異議申立てを行います。
ですが、初回が事前認定でも、異議申立てから被害者請求に切り替えることもできます。異議申立ての手続きを行う人が違うだけで、申請の手順は同じです。
異議申立て~審査完了までの流れ
【事前認定】
被害者は加害者の任意保険会社に異議申立書を提出。任意保険会社は異議申立書以外の書類を用意して損害保険料率算出機構へ送付。審査の結果を受けて、任意保険会社は異議申立ての結果を被害者に通知。
【被害者請求】
被害者は異議申立書とその他の書類を自賠責保険会社に提出。自賠責保険会社は、被害者から送付された書類を損害保険料率算出機構へ送付。審査の結果を受けて、自賠責保険会社は異議申立ての結果を被害者に通知。
異議申立てから審査完了までは2ヶ月から4ヶ月ほどかかりますが、後遺症の内容によっては6ヵ月ほどかかる場合もあります。
必要書類と入手方法
<必須書類>
「異議申立書」(入手先:加害者側の保険会社)
各保険会社から書式を取り寄せます
【事前認定】
加害者の任意保険会社から後遺障害等級認定の通知書と一緒に異議申立書の書式が送られてくる
【被害者請求】
加害者の自賠責保険会社から異議申立書の書式を取り寄せる
<任意書類>
- 交通事故証明書
(入手先:自動車安全運転センター、警察署)
(以下、入手先:受診する医療機関)
- 後遺障害診断書、診断書、カルテ、診療報酬明細書
- 主治医の意見書
- 各種検査結果(レントゲンやMRI、CTの画像など)
(その他)
- 陳述書
申立人本人や家族が、申立人の後遺障害の内容や程度、日常生活での支障について作成
異議申立書があれば申請はできます。ですが異議申立ては「等級の認定」「上位等級の獲得」を目指すために行うので、新たな書類をそろえる必要があります。
より詳細な書類で申請すれば、異議申立てが認められる可能性が高まります。
郵送先
申請方法により、書類の郵送先が変わります。
【事前認定】加害者の任意保険会社に郵送
【被害者請求】加害者の自賠責保険会社に郵送
事前認定では被害者は異議申立書を任意保険会社に郵送します。その他の書類は任意保険会社が用意して申請手続きが行われます。
被害者請求では異議申立書とその他の書類を被害者自身で用意して自賠責保険会社に郵送します。
審査に時間がかかる理由
異議申立てには、慎重で客観的な判断が必要なため審査に時間がかかります。
審査の専門性や客観性を保つため、日本弁護士連合会が推薦する弁護士や専門医、交通法学者など外部の専門家が参加して審査が行われます。
専門分野にわけて審査を行うため、初回の後遺障害等級認定よりも審査に時間がかかってしまうケースが多いです。
後遺障害の内容や異議申立ての内容によっても、審査にかかる時間は変わります。
自賠責紛争処理機構に申請する方法
以下のいずれかに該当する場合は自賠責紛争処理機構が使えない
以下に該当する場合、自賠責紛争処理機構に申請ができないので注意してください。
- 当事者間の紛争が解決しているとき
- 他の相談機関や紛争処理機関で解決を申し出ている
- 不当な目的で申請したと認められる
- 正当な権利のない代理人が申請した
- 弁護士法第72条に違反する疑いがある
- 自賠責保険から支払われる保険金・共済金等の支払額に影響がない
- 紛争処理機構ですでに紛争処理を行った事案
- 自賠責保険への請求がない、またはいずれの契約もない
- その他、紛争処理を実施することが適当でない
異議申立て~審査完了までの流れ
異議申立てから審査完了までの流れは以下のとおりです。
交通事故の事案によって変動しますが、異議申立てから結果が出るまでに2ヶ月から半年ほどかかります。
-
1、受理判断
・異議申立ての申請書が届いたら、加害者側に申請があったことを通知
・加害者の保険会社から事故に関する書類を取り寄せて受理するかを判断 -
2、受理
・判断の結果、調停の対象となったら被害者に「受理通知」を送付
・受理されなかった場合、「不受理通知」が送付される -
3、紛争処理委員会で審査(調停)
・受理されると紛争処理委員会で申請書類や保険会社から取り寄せた書類をもとに調停が行われる -
4、調停結果通知
・調停結果を被害者、加害者の保険会社などに書面で通知
必要書類と入手方法
【必須書類】
- 紛争処理申請書
- 別紙(紛争処理申請書・「⑥紛争処理を求める事項」について具体的に記載)
- 同意書
※代理人申請の場合には委任状や委任者の印鑑証明書が必要
下記サイトからダウンロードできます。記入例も解説されているので参考にしてください。
自賠責紛争処理機構<添付書類>
・交通事故証明書
下記URLから申請できます。
・保険会社から届いた通知書
【任意書類】
- 後遺障害診断書
- カルテ
- 意見書
- 陳述書
- 診療報酬明細書
- 各種検査結果(レントゲンやMRI、CTの画像など)
納得のいく後遺障害等級をもらうためには、異議申立てでも詳細な書類が必要です。医療機関や主治医にお願いして、等級認定に必要な書類をできる限り用意します。
郵送先
住んでいる地域によって申請書類の郵送先が変わります。
「近畿・中・四国地域」以外にお住まいの方
自賠責紛争処理機構 本部(東京)
「近畿・中・四国地域」にお住まいの方
自賠責紛争処理機構 大阪支部
郵送先の住所は下記をご覧ください。
紛争処理の申請について下記申請ページからモノクロPDFで該当エリアに電子申請ができます。
紛争処理の電子申請についてまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
裁判で異議申立てをする場合
異議申立てを裁判で行う手順は以下のとおりです。
- 被害者は裁判所に訴状を提出して手数料を支払う
- 裁判所から「口頭弁論期日」の通知が届く
- 期日までに被害者の主張や主張を立証する資料を用意して裁判に臨む
- 裁判所の判決
自賠責保険や紛争処理機構への異議申立てでは申請自体に費用はかかりませんが裁判では訴訟を行う費用がかかります。判決が出るまでに1年以上かかることもあります。
裁判所は基本的に自賠責保険の認定をもとに訴訟を進めます。ですが、裁判での主張・立証の内容次第では、自賠責保険の認定にとらわれない結果を得られる可能性があります。被害者の状況によっては有効な手段ですが、裁判をするかどうかは慎重な判断が必要です。
自分で後遺障害の異議申立てをするのは難しい
被害者自身で異議申立てをすることは可能ですが、書類の準備など、申請自体が難しい手続きのため成功率は低くなります。
損害保険料率算出機構が公表するデータによると、異議申立てで後遺障害の等級変更が認められたのはわずか15%(2020年度)です。等級の変更が認められる確率も極めて低いといえます。
異議申立てには3つの方法がありますが、どの方法でも初回の申請よりさらに詳細な書類を提出する必要があり、書類の作成一つとっても専門的な知識が必要です。
費やす労力や費用を考えても、異議申立てを被害者自身で行うのは難しいです。
異議申立ての書類に不足しているものや不備があるとまたやり直し
- 「後遺障害診断書」後遺障害の内容や症状などの説明が不十分
- 「各種検査結果」後遺障害等級認定に必要な検査を新たに受けていない
など、
異議申立ての書類に不足や不備があると、初回の認定と同じ結果になってしまいます。
異議申立ての結果にも納得できず、費用や時間を無駄にしないためにも、書類はきちんと確認してから申請しましょう。
裁判以外、異議申立て自体に費用はかかりませんが、診断書作成や各種検査を受ける費用は申立人がひとまずは自己負担することになります。
もっとも、異議申立てが認められた場合には、加害者側に費用を請求することができるため、領収書等はきちんと保管しておきましょう。
異議申立ての審査には時間がかかる
異議申立てから審査にかかる時間は、下記のとおりです。
【自賠責保険】2ヶ月から4ヶ月程度
【自賠責保険・共済紛争処理機構】3ヶ月から半年程度
【裁判】半年から1年以上
どの方法で異議申立てをしても、審査には時間がかかります。異議申立ての申請や申請書類に不足や不備があると、やり直しになることもあり被害者の負担が増えます。
異議申立てを成功させるためにも、弁護士に依頼するのがおすすめです。後遺障害診断書に書かれた内容に不足はないか、必要な検査結果がそろっているかなど的確なアドバイスを受けられます。
後遺障害の程度にもよりますが、異議申立ての手続きを弁護士に依頼すれば被害者の負担も減ります。
弁護士に後遺障害の異議申立てを依頼した場合
弁護士に異議申立てを依頼した場合、異議申立てが成功する可能性が高まります。一度下された認定を覆すのは簡単なことではありません。
弁護士の中でも後遺障害の認定基準を熟知し、相当な後遺障害等級を得るための対策ができる弁護士に依頼することが重要です。
弁護士事務所に依頼すれば、事務所ごとに設定された弁護士費用がかかります。最初は無料で相談できるところも多いので、まずは無料相談からしてみると良いでしょう。
また、被害者が加入する保険に「弁護士費用特約」がついていれば弁護士費用の自己負担なく依頼できます。弁護士費用特約を活用して異議申立てを検討しましょう。
異議申立てはいつまでにしなければいけないのか
後遺障害等級認定の異議申立てに期限はありません。ですが、後遺障害等級は自賠責保険会社から支払われる保険金や、加害者に請求する損害賠償額の算定に関わります。
そのため、下記の時効期間内に異議申立てを行って結果を得る必要があります。
自賠責保険の時効期間
症状固定日から3年
※時効期間が経過する前に自賠責保険会社に時効更新申請書を提出すれば時効期間をさらに3年延長できる
損害賠償請求権の時効期間
症状固定日から3年
異議申立てから結果が出るまで3年以上かかるのは稀ですが、再審査の結果にも納得できず何度も異議申立てを行うケースもあります。
そのような場合には時効を意識しておくと良いでしょう。
異議申立ては弁護士にお任せください
被害者の方が初回申請で用いた後遺障害診断書を弁護士が見ると内容が不十分であったり、記入漏れが見つかったりすることがあります。
医師であったとしても、後遺障害診断書の記載方法に慣れていて、適切に書ける人ばかりではありません。
交通事故の後遺障害等級認定は主に書類のみで審査されるため、書類の内容が認定に大きく影響します。
弁護士法人ALGでは、豊富な経験と実績から後遺障害等級認定の結果を分析し、異議申立てに必要な書類への助言や手続きを行います。
異議申立てが成功するよう尽力いたしますので、異議申立てを検討される場合は、一度、弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)