監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
交通事故の示談では、加害者の保険会社から賠償金の提示をされてはじめて慰謝料額を知ります。被害者は、慰謝料を提示されたとき、相場を知っておく必要があります。相場を知らないと、低額な慰謝料を提示されていても気づかずに示談に応じてしまうことがあるからです。被害者が、請求できる慰謝料額の相場を知っていれば、保険会社から提示された慰謝料が相場より低い場合、保険会社と交渉できます。
また、正しい相場で慰謝料を獲得するためには、適切な頻度で通院をすることがとても大切です。そのため、怪我の治療で通院中の方も、慰謝料相場を知っておいた方がよいでしょう。ぜひ最後までお読みください。
Contents
算定方法によって慰謝料の相場は大きく変わる
交通事故の損害額を計算する算定基準は3つあります。どの算定基準を用いるかによって、慰謝料の相場が大きく変わります。それぞれの算定基準の詳細は以下のとおりです。
【自賠責基準】
- 自賠責保険が定める算定基準
- 自賠責保険は自動車の保有者に加入が義務付けられている保険
- 人身事故の場合、傷害部分に対する補償の上限金額は120万円までと決まっている
- 必要最低限の補償であるため、算定額は低い
【任意保険基準】
- 任意保険会社が独自に定める算定基準
- 任意保険は交通事故で自賠責保険の補償額を上回る損害が出たときに備えて加入する任意の保険
- 自賠責保険と同額か若干高い金額が算定される
【弁護士基準】
- 裁判で用いられる算定基準
- 過去の判例をもとにした基準のため、慰謝料の適正な相場を算定できる
- 損害賠償額が一番高額になる算定基準
実際に慰謝料の相場を比較してみよう
自賠責保険は交通事故の被害者にとって最低限の補償をするものです。補償の上限額が定められているため、被害者にとって十分な補償が受けられない場合があります。任意保険は、自賠責保険よりは若干高くなる程度です。
3つの基準の中で、損害賠償額が一番高額になる算定基準は弁護士基準です。
実際に3つの基準を用いて慰謝料を算定した場合、どのくらい差が出るかを比較してみていきましょう。
怪我をした場合の慰謝料相場
交通事故で怪我をした場合、入院や通院によって受ける精神的苦痛への補償として「入通院慰謝料」を請求できます。
入院期間1ヶ月、通院期間3ヶ月、実通院日数40日の場合
自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準を用いた慰謝料の相場は下記のとおりです。
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 51万6000円 | 60万円程度 | 115万円 |
【自賠責基準】
入通院慰謝料は日額4300円と決められています。実務上、4300円に入通院期間か実通院日数×2のうち少ない日数のほうをかけて計算します。 上の例では、入通院期間4ヶ月(30日×4=120日)、実入通院日数(入院1ヶ月+通院40日)×2=140日のため、少ない方の入通院期間120日を4300円にかけると、51万6000円になります。
【任意保険基準】
任意保険の算定方法は会社独自の基準になるので非公表となっています。以前あった統一基準だと自賠責と同額か少し高い金額が算定されていることから、ここでは「およそ60万円」としています。
【弁護士基準】
通称「赤い本」に掲載されている入通院慰謝料算定基準別表Ⅰ・Ⅱをもとに算定されます。裁判において慰謝料を算定するにあたり、弁護士や裁判官が用いる基準です。
軽傷(擦り傷、打撲等)の慰謝料相場
弁護士基準の場合、怪我の程度が擦り傷や軽い打撲、他覚所見のないむちうちなどの「軽症」か、骨折などの「重症」かによって慰謝料相場が変わります。
軽症 | 重症 | |
---|---|---|
弁護士基準 入通院慰謝料相場 | 83万円 | 115万円 |
同じケースの自賠責基準、任意保険基準の入通院慰謝料はそれぞれ51万6000円と60万円程度ですので、弁護士基準の軽症の場合と比較しても金額は20万円以上差があります。弁護士基準以外は怪我の程度に対する違いはありません。このように、弁護士基準で算定された慰謝料額が最も高額となるため、被害者が受け取るべき適正な相場といえます。
後遺障害が残った場合の慰謝料相場
交通事故の怪我で後遺症が残り、後遺障害等級認定申請によって、後遺障害等級認定された場合、「後遺障害慰謝料」を請求できます。3つの算定基準とも等級ごとに慰謝料相場が決まっています。一番軽症の14級では、自賠責保険と弁護士基準では、慰謝料相場に3倍以上差があります。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
1級 | 1150万円 (1650万円) |
1600万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 (1203万円) |
1300万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1100万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 900万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 750万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 600万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 500万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 400万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 300万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 200万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 150万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
※上表は令和2年4月1日以降に発生した事故の後遺障害慰謝料額
※自賠責基準の( )括弧内の金額は介護を要する後遺障害に適用される金額
以前、任意保険には統一基準がありました。平成11年以降、統一基準(旧任意保険基準)が廃止され、各保険会社が自由に算定基準を決められるようになりました。上表は、旧任意保険基準をもとにした慰謝料相場の目安です。任意保険会社によっては自賠責基準と同額の算定基準を用いているところもあり、後遺障害の残った被害者への慰謝料相場は弁護士基準に比べて低いです。
複数の後遺障害が残った場合の慰謝料相場は?
交通事故では同時に複数箇所を怪我してしまう場合もあります。複数箇所の怪我について、それぞれが後遺障害等級に認定された場合、それぞれの等級を「併合」という処理をして一つの等級にまとめて認定し、併合後の等級に対応する慰謝料額が被害者に支払われることになります。
複数の等級ごとに後遺障害慰謝料が算定され、それらの額をすべて足した慰謝料がもらえるわけではありませんのでご注意ください。
この「併合」とは、異なる部位に複数の後遺障害が残った場合の認定方法です。等級を併合する際の基本的な繰上げのルールは以下の通りです。
- 後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級になるのが原則。
- 13級以上の後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を1級繰上げる。
- 8級以上の後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を2級繰上げる。
- 5級以上の後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を3級繰上げる。
<例>
後遺障害等級9級と12級が認められた場合
× 9級:690万円、12級:290万円⇒690+290=980万円(後遺障害慰謝料)
〇 併合8級⇒830万円(後遺障害慰謝料)
※慰謝料額は弁護士基準で算定したもの
死亡事故の慰謝料相場
交通事故で被害者が亡くなられると、「死亡慰謝料」を請求することができます。死亡事故の場合、慰謝料の請求は遺族が行います。自賠責基準の死亡慰謝料は被害者本人の慰謝料に加えて、遺族固有の慰謝料を請求できます。任意保険基準、弁護士基準の死亡慰謝料は「被害者本人の慰謝料」と「遺族の慰謝料」を合算したものです。下表ではそれぞれの基準の死亡慰謝料をまとめています。
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|---|
一家の支柱 | 400万円 | 1500万~2000万円 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 1300万~1600万円 | 2500万円 | |
その他 (子供、高齢者、独身の男女) |
1100万~1500万円 | 2000万~2500万円 | |
遺族固有の慰謝料 ※請求できる遺族 ①被害者の父母 (養父母含む) ②配偶者及び子 (養子、認知した子 供含む) |
請求権者1名: 550万円 ※被扶養者がいるとき さらに+200万円 |
上記慰謝料の中ですでに考慮済 | 上記慰謝料の中で すでに考慮済 |
請求権者2名: 650万円 ※被扶養者がいるとき さらに+200万円 |
|||
請求権者3名以上: 750万円 ※被扶養者がいるとき さらに+200万円 |
【任意保険基準、弁護士基準】
被害者本人の死亡慰謝料は被害者の家庭内での役割によって決まっています。役割とは被害者が一家の支柱(家計を支える人)なのか、母親・配偶者なのか、子供なのかといった家族内の関係性のことです。
【自賠責基準】
役割に関わらず、被害者本人の慰謝料は一律で決まっています。もし被害者に残された家族がいた場合には、上表のとおり、遺族固有の慰謝料を別途請求できますが、被害者本人と遺族固有の慰謝料を合計しても、弁護士基準よりは低額であり、遺族の将来を支えるには十分な金額であるとはいえません。
弁護士基準の相場がこんなに高額なのはなぜ?
弁護士基準の相場が高額になるのは、過去の裁判例をもとに慰謝料が算定されているからです。弁護士基準は裁判所が用いる基準と同じです。裁判で交通事故の慰謝料を争った結果、認められた金額を参考にしているので、弁護士基準で算定したものが、本来被害者が受け取るべき、正しい慰謝料相場になります。
自賠責保険は被害者のための最低限の補償であり、補償の上限金額が定められているので、慰謝料額が弁護士基準よりも低くなります。任意保険は補償に上限金額はありませんが、自社の利益を優先するために自賠責基準に寄せた金額を提示する傾向にあります。そのため、弁護士基準よりも低額になるのです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
正しい相場で慰謝料を獲得したい場合、どうしたらいい?
ここまで、3つの算定基準で慰謝料相場を比較しましたが、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料ともに一番高額になるのは弁護士基準です。そのため、交通事故の慰謝料は弁護士基準で算定されることが重要になります。では、実際に正しい相場で慰謝料を獲得するには、どうしたら良いのか解説します。
弁護士へ依頼をする
弁護士基準の正しい慰謝料を獲得するためには、弁護士へ依頼しましょう。被害者の方ご自身が、示談交渉の中で、相場を調べて、弁護士基準で算定した慰謝料を請求することも可能ですが、相手方の任意保険会社がこれに応じることはまずないでしょう。
これに対し、弁護士が被害者の方の代理人として交渉すれば、保険会社は、裁判への移行を回避するため、示談交渉段階においても、弁護士基準で算定した慰謝料額で示談に応じる可能性が高まります。
通院中の人ができること
通院中の人であっても、「慰謝料」について注意しておくことがあります。怪我の完治にむけて治療を続け、医師の指示に従い、適切な頻度で通院することです。交通事故で怪我をすると、治療が必要にも関わらず、「痛みを我慢できるから」「仕事を休めないから」といって、通院しない、または通院を途中でやめてしまう方がいます。
しかし、通院頻度があまりに少ないと、保険会社から、「通院しないということは、怪我が軽傷で、通院する必要がないということだ」などと疑われて、治療費の支払いを打ち切られるだけでなく、慰謝料を減額される可能性があります。このように、通院頻度は、受け取れる慰謝料に影響することがあるので、先を見据えて、医師と相談しながら適切な頻度でしっかり通院しましょう。
適正な通院頻度を保つ
適正な通院頻度は怪我の程度や治療経過によって違うので、基本的には医師の指示に従ってください。しかし、通院頻度が少なすぎると、慰謝料が減額される可能性があるので、あくまでも目安になりますが、3日に1回程度は通院するようにしましょう。
一方で、「慰謝料をもらうために、できるだけ通院した方が良いなら毎日通院しよう!」などと考えて、治療の必要がないのに毎日のように通院を続けると「過剰通院」を疑われる可能性があります。とくに医師の指示もなく、過剰通院すると、保険会社から「本来は必要のない治療、通院であった」と判断されて、慰謝料が減額される可能性があります。
もっとも、目安である通院頻度3日に1回を下回っても上回っても、通院の理由を医学的、客観的に説明できれば、正しい慰謝料は受け取れるはずなので、ご自身の怪我の状態に応じて、医師の指示に従い、適切な通院頻度を保ちましょう。
後遺障害等級を認定してもらう
交通事故の怪我で後遺症が残った場合、「後遺障害等級認定」を受けましょう。交通事故による後遺障害等級が認められると、身体的・精神的苦痛に対して後遺障害慰謝料が支払われます。 「後遺障害慰謝料」について知らずに、慰謝料で損をすることがないように気を付けましょう。
なお、後遺障害の中には「むちうち」のように、自覚症状のみで、症状を裏付ける他覚所見(画像や神経学的検査における異常所見)がないものがあります。このような症状の場合は特に、通院中から、医師にご自身の怪我の症状を詳細に伝える必要があります。自覚症状をしっかり伝えておかないと、症状の残存を医学的に説明できないとして、後遺障害等級が認定されない場合があるため、注意が必要です。
弁護士なら、適正な慰謝料相場に向けて様々な場面でサポートが可能です
交通事故の慰謝料相場で不安な場合、弁護士に依頼することで、
- 弁護士基準で慰謝料を算定、保険会社と交渉
- 通院頻度についてのアドバイス
- 後遺障害等級認定に必要な書類の確認
など、交通事故の状況や被害者に合わせたサポートができます。
弁護士法人ALGでは、交通事故の慰謝料についての交渉や増額実績があります。交通事故に特化した弁護士が被害者の状況や意向に合わせた交渉を行うことができますので、慰謝料について不安や提示額に疑問があるようでしたら、示談成立前に一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)