監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
交通事故で被害者が亡くなった場合、被害者だけでなく遺族の方にも耐えがたい精神的苦痛がともないます。
今回は、大切なご家族を失った遺族の方が請求できる、死亡事故の慰謝料について解説します。加害者の任意保険会社によっては、相場よりも低額な死亡慰謝料を提示される可能性がありますので、被害者側でも事前に慰謝料相場について理解を深めるとよいでしょう。
Contents
死亡事故の慰謝料と請求できる慰謝料の種類
被害者本人の慰謝料
交通事故の慰謝料とは、事故で受けた痛み、苦しみ、悲しみなどの 精神的苦痛に対する賠償金です。交通事故の慰謝料には、
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
の3つがあります。 死亡事故では被害者本人の「死亡慰謝料」が認められ、加害者の保険会社に慰謝料を請求できます。
遺族の慰謝料(近親者の慰謝料)
死亡事故の場合、被害者の慰謝料請求権は相続人である遺族が相続します。
加えて、事故によって近親者を亡くした遺族は、遺族固有の慰謝料を加害者側に請求できます。
被害者本人だけではなく、事故で近親者を亡くした遺族にも精神的苦痛が認められるからです。
死亡慰謝料の計算方法
死亡慰謝料の算定に計算式はありません。被害者本人の家庭内での立場により、慰謝料相場が決まっています。家庭内の立場とは大きく以下の3つになります。
- 一家の支柱
- 母親・配偶者
- その他(独身の男女、子供、高齢者)
被害者の世帯が主に被害者の収入によって生計を立てていた場合、被害者が「一家の支柱」になります。
死亡事故の慰謝料相場
慰謝料相場は算定基準によって異なります。
下表は「自賠責基準」と「弁護士基準」での慰謝料相場を比較したものです。
死亡事故の慰謝料相場
被害者の立場 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
一家の支柱 | 400万円 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 | |
その他 | 2000万~2500万円 |
【自賠責基準】
被害者本人の慰謝料は被害者の立場に関わらず一律400万円が支払われます。
被害者本人の慰謝料とは別に遺族固有の慰謝料も金額が決まっています。
【弁護士基準】
基本的に上記の金額に遺族の慰謝料が含まれています。
慰謝料額は目安なので、遺族の人数や被害者の個別の事情によって
慰謝料が増額されるケースもあります。
近親者の慰謝料について
自賠責基準では、近親者である遺族固有の慰謝料相場が決まっています。
自賠責保険の近親者の慰謝料相場
請求者1人 | 550万円 |
請求者2人 | 650万円 |
請求者3人以上 | 750万円 |
扶養家族がいる場合 | 上記+200万円 |
固有の慰謝料請求が認められる近親者とは被害者の父母(養父母を含む)、配偶者、子供(養子、認知した子及び胎児を含む)です。
被害者が父親、近親者が妻と子供2人(被扶養者)の場合、自賠責基準の死亡慰謝料は以下のようになります。
被害者本人の慰謝料(父親):400万円
遺族の慰謝料(妻と子供2人):750万円
被扶養者加算:200万円
400万円+750万円+200万円=1350万円(死亡慰謝料)
まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
慰謝料の算定額に影響する3つの基準の違い
交通事故の慰謝料は3つの算定基準によって算出されます。
どの基準を用いて算定するかによって、慰謝料の算定額は大きく変わります。
以下、3つの基準について説明します。
1、自賠責基準
- 自賠責保険が用いる算定基準
- 被害者の損害の最低限の補償を確保し、被害者保護を図る制度であり、死亡による損害の補償限度額が定められているため、慰謝料の算定額は基準の中で最も低額
2、任意保険基準
- 任意保険会社が用いる算定基準
- 各任意保険会社が定める独自の基準で、自賠責基準と同等か、若干高くなるが弁護士基準よりは低額
3、弁護士基準
- 弁護士が用いる算定基準
- 過去の判例をもと作成された基準で、実際の裁判でも使われるため裁判基準とも呼ばれる
- 3つの基準の中で最も高額な慰謝料が算定でき、被害者にとって適正な相場といえる
慰謝料の算定基準があることによって、慰謝料が簡単かつ迅速に算定できるようになっています。
死亡慰謝料が増減する要素
慰謝料の増額事由
死亡慰謝料の相場や算定基準について説明しましたが、慰謝料は交通事故の状況や被害者の事情によって相場より増減することがあります。
死亡慰謝料が増額される事由は以下のとおりです。
被害者の精神的苦痛が大きい場合
精神的苦痛は交通事故の状況によっても異なります。
加害者に
- 赤信号無視や飲酒運転、無免許、著しいスピード違反などの重大な交通違反
- ひき逃げや当て逃げなど悪質な行為
- 事故後の証拠隠滅や不合理な弁解、被害者への侮辱など著しく不誠実な態度
などが認められる場合、通常の事故と比べて精神的苦痛が大きいと考えられます。
被害者に個別の事情がある場合
死亡事故に遭った被害者が妊婦でお腹の胎児も事故によって死亡した場合などは、
被害者の事情が考慮され、精神的苦痛が大きいと判断されます。
以上のような場合に、死亡慰謝料が相場より増額されることがあります。
慰謝料の減額事由
死亡事故でも、被害者に過失がつく場合、過失相殺により被害者の過失分だけ慰謝料が減額します。
過失割合とは加害者:被害者=「9:1」「8:2」「7:3」のように、全体を10として、交通事故が発生した責任が「誰に、どのくらいあるか」を割合で表したものです。
<例>被害者の死亡慰謝料:2000万円
過失割合 9:1(被害者)
⇒被害者の慰謝料から200万円減額
死亡慰謝料が高額になるほど、過失割合の有無や程度が慰謝料額に大きく影響します。
死亡事故の慰謝料に相続税などの税金はかかる?
原則として死亡慰謝料に相続税はかかりません。被害者が死亡したことによって遺族に支払われる損害賠償金は、所得税法の規定により非課税所得となるからです。
一方、交通事故に遭った被害者が損害賠償金の確定後に亡くなった場合は、賠償金を受け取る権利は相続財産として扱われます。
相続財産は相続税の対象になるため、相続税の支払いが発生するケースもあり、注意が必要です。
とはいえ、このようなケースは非常にまれでしょう。
内縁関係や婚約者でも死亡慰謝料は認められる?
婚姻届けを提出していないため、法律上の夫婦とはならないが、事実上の夫婦としての共同生活を送っている関係を内縁関係といいます。
交通事故の死亡慰謝料では、被害者の内縁の夫(妻)にも遺族固有の慰謝料が認められています。
内縁関係であっても被害者の死亡により、遺族と同じように精神的苦痛を受けると考えられるからです。
ただし、内縁関係の場合、基本的に相続権が発生しないため、被害者本人の死亡慰謝料を受け取ることはできません。
慰謝料のほかに受け取れるもの
被害者遺族が、死亡慰謝料のほかに受け取れる損害賠償金は以下のとおりです。
- 死亡逸失利益
- 葬儀関係費
また、事故後に病院に運ばれ、治療や手術後に被害者が亡くなった場合、治療費や入院費などの損害賠償も加害者の保険会社に請求できます。
死亡逸失利益
死亡事故の被害者に収入があった場合、事故により被害者が得ていた収入は失われます。
このような将来得られたはずの収入を「死亡逸失利益」といいます。
死亡逸失利益は被害者の事故前の収入や職業、年齢などを考慮して算定されます。
不当な慰謝料額にしないために、弁護士にご相談ください
死亡事故の場合、被害者を失った悲しみの中ですぐに「弁護士に相談しよう」と考えられるご遺族の方は少ないかもしれません。
しかし、加害者の任意保険会社から提示される死亡慰謝料額は必ずしも適正な相場とはいえません。
死亡した被害者に過失がつけられるケースも少なくないです。
死亡慰謝料の金額が適正かわからない、本来は被害者に落ち度がないにも関わらず、過失がついていると思われるなどの場合には、弁護士法人ALGにご相談ください。
遺族の方が保険会社との示談交渉でさらに疲弊しないように、適正な慰謝料額に増額できるように、交通事故に特化した弁護士とスタッフが対応いたしますのでお任せください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)