
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭うと、車の修理費やケガの治療費、入院費などを加害者に請求できます。さらに、交通事故によって被害者に生じた精神的苦痛を「慰謝料」として受け取ることもできます。ただし、修理費や治療費と違い、目に見えない精神的苦痛をどうやってお金に換算するか、ご存じない方が多いのではないでしょうか。今回は交通事故の慰謝料を計算する方法について解説します。
慰謝料の計算方法は算定基準により異なる
慰謝料をはじめ、交通事故の損害賠償額を計算するときには「算定基準」というものを用います。
「算定基準」には以下の3つがあります。
自賠責基準
- 算定額は3つの基準の中で一番低額
- 被害者への必要最低限の補償を目的とした自賠責保険が用いる算定基準
任意保険基準
- 算定額は自賠責基準以上、弁護士基準以下になる
- 任意保険会社が用いる算定基準
- 各会社が独自に算定基準を決めており、非公開
弁護士基準
- 算定額は3つの基準の中で一番高額
- 裁判所や弁護士が賠償額を算定するときに用いる基準
入通院慰謝料の計算方法
交通事故でケガをすると
- ケガの痛みやしびれ
- 治療を受けたり、通院する煩わしさ
- 働けなくなった不安
などの精神的苦痛を受けます。
入通院慰謝料は交通事故の入院や通院で生じた精神的苦痛に対する損賠賠償です。
下記では入通院慰謝料の計算方法を解説します。
自賠責基準の計算方法
自賠責基準の計算方法は以下のとおりです。
- 1、入通院慰謝料 1日当たり4300円
- 2、「①入通院期間」か「②実入通院日数×2」のうち少ない日数を計算に用いる
- 3、4300円×①入通院期間または②実入通院日数×2=入通院慰謝料
入通院慰謝料は入通院をした日数が多いほど高額になります。一般的にはケガが重症なほど入通院を余儀なくされる日数が多く、その分精神的苦痛が大きいと考えられるからです。では、実際に計算例をみていきましょう。
入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院した場合の計算例
- 1、自賠責基準の入通院慰謝料 1日当たり4300円
- 2、「①入通院期間」と「②実入通院日数×2」うち少ない日数になるのは?
①通院期間
入院10日間+通院期間180日=190日
②実入通院日数×2
(入院10日間+通院90日)×2=200日
⇒①通院期間の190日で計算する - 3、入通院慰謝料
4300円×190日=81万7000円
上記は入院と通院をした場合の計算ですが、通院のみの場合も同様の計算方法になります。通院期間180日のうち、実通院日数が90日の場合、通院期間と実通院日数×2は同じ日数になるので、4300円×180日で入通院慰謝料が計算できます。
弁護士基準の計算方法
弁護士基準の入通院慰謝料は、ケガの程度別に算定表を用いて算定します。
算定表には「重症(別表Ⅰ)」と「軽症(別表Ⅱ)」の二つがあります。
- 重症(別表1):骨折など軽症以外のケガ
- 軽症(別表2):他覚所見のないむちうちや打撲、挫創などのケガ
別表をみると、横が「入院」、縦が「通院」で、横軸と縦軸の交差するマスの中の数字が慰謝料額になります。
詳しい表の見方は下記のとおりです。
【別表Ⅰ参照】
- 入院のみの場合は、入院期間に該当する額
<例>入院期間3ヶ月⇒145万円 - 通院のみの場合は、通院期間に該当する額
<例>通院期間4ヶ月⇒90万円 - 入院後に通院した場合は、該当する月数が交差するところの額
<例>入院期間1ヶ月、通院期間6ヶ月⇒149万円
むちうち等の軽傷と、重傷の場合で参考にする表が異なる
入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院した場合、ケガの程度によって用いる算定表が異なります。別表Ⅰと別表Ⅱでの入通院慰謝料の比較は下記のとおりです。
重症 | 軽症 | |
---|---|---|
入通院慰謝料 | 127万0001円 | 97万0001円 |
計算方法の詳細を説明します。
別表Ⅰの重症のケガの場合
<入院10日間の入院慰謝料>
- 53万円(入院1ヶ月)÷30日=1万7667円(入院1日分)
- 1万7667円×10日=17万6667円(入院10日分)
<通院慰謝料>
通院期間は入院10日間と通院期間180日を足した190日として通院慰謝料を算定し、そこから10日分の通院慰謝料を差し引きます。
①116万円(通院6ヶ月)+(124万(通院7ヶ月)-116万円)÷30日×10日(治療期間190日分)
②28万円(通院1ヶ月)÷30日×10日(通院10日分)
①-②=109万3334円(通院180日分)
<入院10日、通院期間180日の入通院慰謝料>
- 合計・・・入院慰謝料17万6667円+通院慰謝料109万3334円=127万0001円
別表Ⅱの軽症のケガの場合
<入院10日間の入院慰謝料>
- 35万÷30日¬=1万1667円
- 1万1667円×10日=11万6667円(入院10日分)
<通院慰謝料>
上の別表Ⅰの場合と同様に、通院期間は入院10日間と通院期間180日を足して190日として計算します。
①89万(通院6ヶ月)+(97万(通院7ヶ月)-89万)÷30日×10日(治療期間190日分)
②19万円(通院1ヶ月分)÷30日×10日(通院10日分)
①-②=85万3334円
<入院10日間、通院期間180日の入通院慰謝料>
- 合計・・・入院慰謝料11万6667円+通院慰謝料85万3334円=97万1円
表の期間以上の入院・通院があった場合
算定表の通院期間を超えて入院や通院した場合は、算定表をもとに相場額を計算します。
<例>
入院、通院それぞれの期間が16ヶ月の場合
別表Ⅰを使い、「15月の基準額」から「14月の基準額」を差し引いた金額に
「15月の基準額」を足した金額を基準額とします。
- 入院のみ16ヶ月行った場合:(340万‐334万)+340万=346万円
- 通院のみ16ヶ月行った場合:(164万‐162万)+164万=166万円
通院日数が少ない場合
ケガの治療開始から完治までの通院期間が90日、実通院日数が6日の場合、月2日しか通院していないため、通院期間のわりに通院日数が非常に少なくなってしまいます。通院期間が長期にわたる場合、実通院日数について通院期間よりも極端に少ないと、通院期間ではなく実通院日数をもとに入通院慰謝料が算定されることがあります。ケガの内容や程度にもよりますが、同程度のケガにも関わらず実通院日数が少ないことで、入通院慰謝料が低額になることがあります。
【自賠責基準の場合】
通院期間と実通院日数×2のうち少ない日数が基準になるので、
実通院日数が少ないと通院期間が長くても入通院慰謝料が低額になります。
【弁護士基準の場合】
通院期間が長期間におよんでいるにも関わらず通院日数が極端に少ない場合、通院頻度や治療内容、ケガの症状、被害者の状況などをふまえて実通院日数の3倍~3.5倍程度を通院期間の目安として計算することがあります。
その場合、入通院慰謝料は通院期間をもとに算定した慰謝料よりも低額になります。
- 軽症の場合:実通院日数を3倍した日数
- 重症の場合:実通院日数を3.5倍した日数
リハビリの通院について
ケガの治療に必要なリハビリをした場合、リハビリの通院も通院期間に含まれます。ただし、通院期間の対象になるのは、医師から「完治」または「症状固定」と判断される前のリハビリのみです。症状固定とは、これ以上治療を続けても治療の効果が見込めず後遺症が残ってしまった状態です。医師からこう判断された場合、治療やリハビリの必要はない、ということになります。
完治や症状固定後のリハビリ通院は、入通院慰謝料の対象にはならないのでご注意ください。
まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害慰謝料とは後遺障害を負った精神的苦痛への慰謝料です。交通事故のケガで後遺障害等級が認められた場合に請求できます。後遺障害は1級から14級まであり、等級によって慰謝料額が決まっています。以下で、自賠責基準と弁護士基準の相場を紹介します。
自賠責基準の後遺障害慰謝料
自賠責基準の後遺障害慰謝料は、等級に応じて32万~1850万円になります。1級から3級は、被扶養者の有無によって金額が変わります。
後遺障害等級 | 自賠責基準 |
---|---|
1級(要介護・被扶養者あり) | 1850万円 |
1級(要介護・被扶養者なし) | 1650万円 |
2級(要介護・被扶養者あり) | 1373万円 |
2級(要介護・被扶養者なし) | 1203万円 |
1級(被扶養者あり) | 1350万円 |
1級(被扶養者なし) | 1105万円 |
2級(被扶養者あり) | 1168万円 |
2級(被扶養者なし) | 998万円 |
3級(被扶養者あり) | 1005万円 |
3級(被扶養者なし) | 861万円 |
4級 | 737万円 |
5級 | 618万円 |
6級 | 512万円 |
7級 | 419万円 |
8級 | 331万円 |
9級 | 249万円 |
10級 | 190万円 |
11級 | 136万円 |
12級 | 94万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
弁護士基準の後遺障害慰謝料
弁護士基準の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて110万~2800万円になります。後遺障害14級をみても自賠責基準と弁護士基準ではかなりの差額があります。また、弁護士基準は交通事故の状況や被害者の個別の事情を反映する場合もあります。
後遺障害等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡慰謝料の計算方法
死亡慰謝料は被害者の死亡による被害者及び遺族の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。自賠責基準の場合は「被害者本人分の慰謝料」に加えて、遺族がいる場合には「遺族分の慰謝料」が支払われます。弁護士基準の場合、死亡慰謝料は被害者の立場によって相場が決まっています。この相場は被害者本人分と遺族分を合計した金額です。以下の通り、死亡事故という重大な損害に対しても、算定基準によってかなりの差が出ます。
自賠責基準の死亡慰謝料
【被害者本人の慰謝料】
- 400万円
【遺族の慰謝料】
被害者の父母(養父母含む)、配偶者や子供(養子、胎児も含む)がいれば、遺族分の慰謝料を請求できる。遺族の人数によって慰謝料額が異なる。
- 遺族が1名の場合:550万円
- 遺族が2名の場合:650万円
- 遺族が3名以上の場合:750万円
※被害者に被扶養者がいれば、さらに200万円が加算
自賠責基準では被害者の年齢や性別、立場に関係なく被害者本人の死亡慰謝料は一律400万円です。自賠責保険は必要最低限の補償はされますが、死亡した被害者の収入が家族の生活を支えていた場合、十分な補償とはいえません。
弁護士基準の死亡慰謝料
被害者の立場 | 死亡慰謝料 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子供、幼児等) | 2000万~2500万円 |
弁護士基準の場合、一家の支柱や母親、子供など被害者の立場により金額が異なります。また、被害者本人の慰謝料には遺族分も含まれます。あくまでも、裁判をもとにした目安の相場のため、交通事故の内容や被害者の状況によって金額は増減することがあります。
交通事故の慰謝料計算は弁護士にお任せください
交通事故の慰謝料の計算や交渉は弁護士に任せるのがおすすめです。これまで解説したとおり、交通事故の慰謝料の計算方法は複雑です。算定基準や通院日数の考え方など専門知識がないと、適正な慰謝料額を計算するのは難しくなります。弁護士に相談することで、弁護士基準を用いて適正な慰謝料を算定し、相手方の保険会社に慰謝料の交渉ができます。
交通事故事案に強い弁護士法人ALGでは、さまざまな交通事故の事案を受けています。保険会社から慰謝料額を提示されたときや、入通院が長引きそうな場合は一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)