監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
主婦の方が交通事故に遭ってケガをすると、家事や育児が十分にできなくなり、ご自身だけではなく家族の生活に大きな影響を与えてしまうことがあります。家事や育児と仕事を両立している兼業主婦の方の場合、仕事もできなくなってしまうおそれがあります。
交通事故により多大な損害を受けた場合、きちんと慰謝料を請求する必要があります。被害者の方のなかには、主婦だと慰謝料を受け取れないと思っていたり、加害者の保険会社から低額な慰謝料を提示されている方もいるかもしれません。適切な慰謝料を受け取るためには、正しい知識を得ることが大切です。今回は、主婦の方の慰謝料について詳しく解説していきます。
Contents
交通事故の慰謝料は主婦だと金額がかわる?
交通事故の慰謝料は「主婦だから」という理由で金額がかわることはありません。専業主婦が交通事故に遭うと「働いてないから、慰謝料が少なくなるのでは?」と心配されることがあります。
そもそも慰謝料とは、交通事故でケガを負ったことによって、被害者が被った精神的苦痛に対する補償です。慰謝料額を計算する際、被害者の収入の有無や収入額は考慮されないため、専業主婦だからといって慰謝料が少なくなることはありません。そのため、パートやアルバイトをしている兼業主婦の方が専業主婦よりも慰謝料額が高額になることもありません。
主婦が受け取れる慰謝料の種類
主婦が交通事故の被害に遭った場合、以下3つの慰謝料を受け取れる可能性があります。
1. 入通院慰謝料
- ケガによる入院や通院で生じた精神的苦痛に対する慰謝料
- ケガの程度や治療期間、実際に入通院した日数などから金額が決められる
- 「主婦」であることが金額に影響することはない
2. 後遺障害慰謝料
- 事故によって後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料
- 残った後遺症について後遺障害等級認定を受ければ、等級に応じた慰謝料額を受け取ることができる
- 「主婦」であることが金額に影響することはない
3. 死亡慰謝料
- 事故により被害者が死亡した場合の被害者本人と遺族の精神的苦痛に対する慰謝料
- 被害者の家族内での立場や遺族の人数、扶養の有無などから金額が決められる
- 慰謝料を決める算定基準のなかには、被害者の「家族内での立場※」をもとに金額を決めるものがあるため、「主婦」であることが金額に影響する場合がある
※「一家の支柱」「配偶者」「子供」「高齢者」「独身の男女」など
慰謝料以外に主婦が請求できるもの
交通事故で請求できる損害賠償は「精神的損害」と「財産的損害」の2つにわけられます。財産的損害は現実に財産が減少したことによって生じた損害である「積極損害」と、事故にあわなければ得られたはずの利益を失ったことによって生じた損害である「消極損害」があります。具体的な内訳をみていきましょう。
■精神的損害
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料
■財産的損害
・積極損害:治療費、入院費、入院雑費、通院交通費、器具・装具費、葬儀費用 など
・消極損害:休業損害、後遺障害逸失利益、死亡逸失利益
主婦にとって重要な「休業損害」と「逸失利益」について解説します。
休業損害(主婦手当)
休業損害=交通事故によるケガで仕事を休んだ分の収入の減少に対する補償
会社員や自営業者、パートやアルバイトなど交通事故の被害者がケガの治療のため仕事を休むとその分の収入は減ってしまいます。仕事を休んだことで収入が減った場合、休業損害を請求できます。主婦の場合、現実に収入は得ていませんが、家事労働にも経済的価値が認められるので、家事ができなかった分の休業損害を請求することができます。
●専業主婦の場合
現実に収入を得ていない専業主婦(主夫)の場合、賃金センサスの女子の全年齢平均賃金をもとに、基礎収入日額を算定します。
●兼業主婦の場合
・家事従事者(専業主婦)として生じた休業損害
・給与所得者(会社員やパートなど)として生じた休業損害
2つの休業損害を比較して高い方の休業損害を請求できます。
家事代行を頼んだ場合
家事代行を頼んだ場合、主婦の休業損害に加えて、家事代行費用を請求することができるでしょうか。
■休業損害と家事代行費用の両方を請求することはできない
休業損害は事故により家事労働ができなくなったことに対する補償であるところ、家事代行を利用した場合には家事労働に支障はなかったことになります。
そのため、主婦の休業損害と家事代行費用のいずれか一方のみ請求することができます。
■家事代行費用は認められる場合がある
家事代行費用は、事故のケガにより家事ができなかったと認められる場合、例えば、専業主婦(主夫)が入院中、家事や子供の世話のため家事代行を利用した場合などには、相当な範囲で請求できる可能性があります
逸失利益
逸失利益=交通事故で後遺障害が残ったり、亡くなったことで、将来得られるはずだった利益や収入の減少に対する補償
会社員ならば、後遺障害で労働能力が低下したことにより、仕事に影響が出て、給与が下がった場合、その減額分は逸失利益として請求できます。
これに対し、給与が発生しない主婦(主夫)業の場合、逸失利益は認められるでしょうか。
主婦業も「家事労働」として経済的価値が認められているので、事故の後遺障害により、家事労働に影響がでた場合には、会社員と同じく逸失利益を請求することができます。
専業主婦の場合は、賃金センサスの女性の全年齢平均賃金を基礎収入として逸失利益を算定します。
兼業主婦の場合は、パートや会社員として得られる実際の給与収入と賃金センサスの女性の全年齢平均賃金を比較して、金額が高いほうをもとに、逸失利益を算定します。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
主婦の交通事故慰謝料の計算
■慰謝料の計算方法
交通事故の入通院慰謝料はケガの程度や治療期間、実際に入通院した日数などをもとに計算します。後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて、慰謝料額が決まっています。
一方、死亡慰謝料は被害者の家族内の立場や年齢などによって金額が異なります。
■主婦でも入通院慰謝料・後遺障害慰謝料の計算方法はかわらない
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の計算では、被害者の職業や収入が考慮されることはありません。収入のない専業主婦でも、慰謝料の計算方法は兼業主婦や会社員と同じです。主婦だからといって慰謝料が高額になったり低額になったりすることはありません。
一方、死亡慰謝料の相場は、「一家の支柱」は2800万円、「母親・配偶者」は2500万、「独身の男女、子供、幼児など」は2000~2500万円となっており、被害者の家庭内での立場によって慰謝料の計算方法が異なるため、主婦であることが金額に影響することがあります。
慰謝料を請求する前に知っておくべき3つの基準
慰謝料には3つの算定基準があります。基本的には、
自賠責基準≦任意保険基準<弁護士基準の順で慰謝料の算定額が高額になります。
算定基準によって慰謝料額が大きくかわるので、算定基準について知っておく必要があります。
【自賠責基準】
- 交通事故被害者の「必要最低限の補償」を目的とした算定基準
- 3つの基準のなかで最も低額で支払限度額が決められている
- ケガをした場合、慰謝料や治療費、休業損害などを含めて上限120万円までが支払われる
【任意保険基準】
- 任意保険会社が独自に設定する算定基準
- 一般的に自賠責基準と同じくらいか、若干高い慰謝料額になる
【弁護士基準】
- 過去の裁判例をもとに作られた算定基準
- 3つの基準のなかで最も高額な慰謝料額になることが多い
治療より家事・育児を優先させると慰謝料が減額する?
交通事故に遭ってケガをしても治療を受けなかったり、通院の頻度が少なかったりすると慰謝料が減額されてしまうことがあります。慰謝料はケガの程度や治療期間、通院日数などをもとに計算するため、治療期間と比べて実際に通院した日数が少なすぎると、ケガの程度は軽症で、その分精神的苦痛も少なかったと一般的に判断されてしまうからです。
交通事故のケガとしてよくみられる「むちうち」の場合、首に痛みやしびれ、そのほか体の不調を感じていても、我慢をして家事や育児を優先される方がいます。家族に迷惑をかけられないという気持ちもあるかもしれませんが、ケガに見合う適正な慰謝料を受け取るためには、治療を優先することが大切です。
また、適切な通院頻度を守っていても、治療期間がある程度長くなると、相手方の保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがあります。まだ治療が必要な場合は、弁護士に相談しましょう。治療費の支払いを延長してもらう交渉や適正な入通院慰謝料の算定を行うことができます。
主婦と交通事故の慰謝料に関する解決事例
兼業主婦が交通事故に遭い、慰謝料の増額に成功した事例
損害賠償金が約238万円増額した事例
<概要>
ご依頼者様は事故当時66歳の兼業主婦の女性。前方を走行していた相手方車両が、対向車を避けるために後退したところ、停車中のご依頼者様の車両に逆突したという車両同士の交通事故。
<弁護士法人ALGにご依頼いただいた結果>
当初、相手方保険会社からは約76万円の示談金が提示されましたが、休業損害や逸失利益、慰謝料が弁護士基準に比べてかなり低額でした。そのため、担当弁護士は以下の交渉を行いました。
- 兼業主婦の場合、実際のパート収入よりも賃金センサスの女性の全年齢平均賃金が高額であれば、全年齢平均賃金にもとづいて休業損害や逸失利益が計算されるべきである
- パートの休業損害証明書の記載以外にも、通院期間中は主婦業に少なからず事故による影響があった
- 主治医が現段階で就労の可能性がない旨を書面で回答している
交渉を重ねた結果、相手方保険会社は休業損害だけで約130万円の増額、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料をあわせて約100万円の増額を認めました。弁護士が交渉から携わり、裁判例などの法的根拠にもとづいて交渉を重ねたことが合計約238万円の増額につながりました。
家事や育児への影響を保険会社に丁寧に伝え、交通事故慰謝料の増額に成功した事例
損害賠償金が約120万円増額した事例
<概要>
ご依頼者様が原動機付自転車で優先道路を走行中、相手方車両が脇道から飛び出してきたことによって衝突した事故。事故により、ご依頼者様は左尺骨遠位端骨折、左橈骨遠位端骨折の傷害を負いました。担当弁護士がケガの自覚症状を伺うと、事故から半年以上治療していても未だに左手首のしびれや痛みが残っており、家事や育児に支障をきたしていることがわかりました。
<弁護士法人ALGにご依頼いただいた結果>
弁護士は、交通事故によるケガが原因で家事や育児に支障をきたしていることを保険会社に丁寧に説明した結果、治療費の延長に応じてもらえました。また、ご依頼者様から事故態様を詳しく聞き取り、保険会社と交渉した結果、ご依頼者様に有利な過失割合で合意することができました。
また、弁護士はご依頼者様の症状を事細かに聞き取り、後遺障害等級認定を申請。「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号が認定されました。
弁護士による詳細な聞き取りや、後遺障害等級認定の獲得、保険会社への粘り強い交渉が初回提示額よりも約120万円の増額につながりました。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
主婦でも交通事故の慰謝料を請求することができます。お困りのことがあれば弁護士にご相談ください
主婦の方の慰謝料について理解は深まりましたか? 解決事例でも述べたとおり、主婦の方が適正な慰謝料を受け取るためには、弁護士への相談をおすすめします。交通事故では相手方の保険会社から慰謝料を提示されても金額が妥当なのか、判断するのは難しいです。弁護士であれば弁護士基準で慰謝料を算定し、相場より低額であった場合、スムーズに交渉ができます。ご自身で交渉することもできますが、主婦の方の場合、ケガの治療を優先し、かぎられた時間のなかでの交渉はかなり大変だと思います。
まずは、お話をお聞かせいただき、弁護士が交渉に入ることで増額が見込めそうか、慰謝料のほかに休業損害や逸失利益の増額などを見込める可能性があるか、判断いたします。交通事故を得意とする弁護士法人ALGにお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)