監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
相続では、亡くなった方(被相続人)が所有していた財産(相続財産)を、特定の人が受け継ぐことになります。
したがって、相続開始後、なるべくはやめの段階で、以下の調査が必要になります。
●だれが相続人になるのか = 相続人調査
●どんな相続財産が、どこに、どれだけあるのか = 相続財産調査
相続人と、相続財産が確定しないことには、相続が行えません。
今回は、相続財産調査について、詳しく解説していきます。
なにが相続財産で、どんな調査が必要なのかを知っていただき、ご自身に合った相続の手続きが行えるよう、ぜひご参考ください。
Contents
相続財産調査の重要性
相続財産調査には、重要な目的があります。
- どうやって遺産分割する?遺産分割協議のため
- 相続する?それとも相続放棄する?ご自身に合った相続方法を選択するため
- 相続税の申告・納税は必要?相続税申告を正しく行うため
相続財産の調査を行い、相続財産を確定しないことには、必要な手続きが行えず、多くの相続財産は放置されることになります。
相続財産を放置することで、費用の負担が大きくなる、知らずに借金を背負う、といったリスクが生じかねません。
そのため、相続財産調査は漏れのないよう、慎重に行いましょう。
相続財産にあたるもの
プラスの財産の種類
プラスの財産(積極財産)とは、経済的に価値のある相続財産のことで、以下のようなものが挙げられます。
- 現金、預貯金
- 不動産(土地、建物など)
- 有価証券(株式、社債、国債、投資信託など)
- 動産(自動車、宝石、貴金属、骨董品など)
- 権利(地上権、借地権、著作権、特許権など)
- ゴルフ会員権
マイナスの財産の種類
相続財産には、マイナスの財産(消極財産)も含まれます。
マイナスの財産とは、マイナスの価値=支払う義務を負う負債のことで、以下のようなものが挙げられます。
- 借金
- 住宅ローン
- 買掛金
- クレジットカードの未決済分
- 未払い金(税金、家賃、水道光熱費、損害賠償金など)
- 保証債務(連帯保証人など)
相続財産調査の流れ
相続財産調査の流れは、以下のとおり、いたってシンプルです。
プラスの財産を調査していくなかで、マイナスの財産が判明するケースもあることから、プラスの財産から調査する方が効率的ともいえます。
郵便物や通帳など、手がかりになりそうなものを探し、地道に調査していくことになります。
各所に問い合わせをして回答を待つなど、時間や労力の負担を要するケースもあるため、ご自身で調査を行うことが不安な場合は、専門家に依頼するのも、ひとつの方法です。
財産調査に期限はある?
相続財産調査には、法律上の期限はありません。
ですが、なるべく相続開始から3ヶ月以内(熟慮期間)に調査を終えておくようにしましょう。
なぜなら、マイナスの財産が多く、相続放棄または限定承認をしたい場合、原則、ご自身に相続が発生したことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申立てを行う必要があるからです。
この期間を超過してしまうと、基本的には、マイナスの財産を相続せざるを得なくなってしまいます。
預貯金の調査方法
預貯金を調査するうえで、手がかりとなるものを一部ご紹介します。
- 通帳やキャッシュカード
- 郵送物
- 金融機関の粗品(カレンダーやペンなど)
- メール履歴・インターネットの利用履歴(インターネットバンキング利用の場合)
このような手がかりをもとに、特定の金融機関を調べて、残高証明書の発行を依頼しましょう。
念のため、ほかに口座がないかを確認するために、全店照会(名寄せ)を利用するとよいでしょう。
また、取引履歴から、ほかの相続財産が判明するケースも多くあることから、取引履歴を開示してもらい、取引証明書も発行してもらいましょう。
相続人に気付かれなかった口座はどうなるか
「調査をしなかったため、口座の存在を知らなかった」とうケースがまれにあります。
銀行預金は、法律上、金融機関に対する預金債権とされています。
そのため、金融機関に対して、10年間(場合によっては5年間)預金の払い戻しを請求せずに放置していると、当該債権は時効によって消滅してしまいます。
とはいっても、時効を過ぎても正規の手続きを行えば、金融機関は支払いに応じてくれるケースが多いようです。
また、2018年1月に施行された休眠預金等活用法によって、10年間取引などがなく、放置された口座(預金)は、休眠口座(休眠預金)となる可能性があります。
休眠預金は、手続きを行わなければ、預金を引き出すことができないため、注意が必要です。
不動産調査の方法
不動産を調査するうえで、手がかりとなるものを一部ご紹介します。
不動産は、該当不動産の所在地ごとに調査を行う必要があるため、ご注意ください。
《不動産の「地番」と「家屋番号」を特定する手がかり》
- 預貯金通帳(賃料や固定資産税、ローンの記録)
- 毎年役所から届く、納税通知書
※非課税の不動産は記載されていないので、納税通知書だけでの調査は不十分です - 不動産を登記した際に法務局から発行される、権利書(登記識別情報通知)
- 金融機関から届く、ローン返済の明細書
- 不動産の所在地の市区町村役場から、名寄帳(固定資産課税台帳)を取得する
名寄帳は被相続人が市区町村役場の管轄内に所有する不動産(非課税含む)の一覧表です。
当該市区町村役場の管轄外にも不動産を所有している場合には、別途調査が必要になります。
このような手がかりをもとに、不動産の所在地を確認し、該当所在地の役場で、不動産の固定資産税の評価額を確認するために、固定資産評価証明書を取得しましょう。
ここまでできたら、特定した地番と家屋番号をもとに、法務局で、登記事項証明書(登記簿謄本)も取得しておきましょう。
株式の探し方
株式などの、有価証券の有無を調査するうえで、手がかりとなるものを一部ご紹介します。
- 預貯金通帳
- 証券会社からの郵便物(取引報告書や、配当通知、株主総会の招集通知など)
- 口座開設の申込書などの書類
- メールやインターネットの履歴
- 過去に発行された株券
株式については、現在電子化されているケースが多く、手がかりとなる書類を探すのはひと苦労ですが、地道に探すほかありません。
証券会社に関する手がかりが見つからない場合は、証券保管振替機構(ほふり) に問い合わせて、証券会社の照会を行うことも可能です。
証券会社などが判明したら、取引残高報告書(残高証明書)の発行を依頼しましょう。
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借金の調査方法
借金やローンなどのマイナスの財産を調査するうえで、手がかりとなるものを一部ご紹介します。
マイナスの財産を調査するにあたり、相手(借入先)に支払いの約束はしないようにしてください。
- 預貯金通帳(定期的に引き落としされていないか)
- カード類(銀行のカードローンや、クレジットカード、消費者金融など)
- 郵便物(請求書や督促状、納税通知書など)
- 不動産の登記事項証明書・登記簿謄本(抵当権など)
- 手紙やメールの履歴
- 委任状や返済計画書、借用書、契約書などの書類
相続財産のなかでも、特にマイナスの財産は、後から発覚すると厄介なため、慎重に調査しましょう。
なお、負債については、信用情報機関 へ開示を求める方法もあります。
信用情報機関名 | 通称 | 開示情報 |
---|---|---|
株式会社日本信用情報機構 | JICC | 消費者金融系 |
株式会社シー・アイ・シー | CIC | クレジット系 |
一般社団法人全国銀行協会 | KSC | 銀行系 |
連帯保証人になっていないか調査する方法
被相続人が、他人の債務を連帯保証している場合、連帯保証人の地位も、相続の対象となります(相続発生時点で未発生の連帯保証債務や、身元保証の保証債務を除く)。
被相続人が連帯保証人になっているかどうかは、以下の手がかりをもとに調査します。
連帯保証債務は、連帯保証契約によって発生するため、契約書を重点的に探してみましょう。
- 信用情報機関(JICC、CIC、KSC)に情報開示請求をする
※登録されていないこともあるため、必ず判明するわけではありません - 契約書を調べる
- パソコンやスマートフォンの履歴を調べる
- 郵便物を調べる
- 預貯金通帳を調べる
もしも被相続人が連帯保証人となっている可能性があるのに、手がかりがみつからない場合は、相続放棄や、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する限定承認という方法をとることもできます。
住宅ローンがある場合
被相続人が残した住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入しているケースがほとんどです。
被相続人が団信に加入していれば、住宅ローン返済中に被相続人が亡くなった時点で、保険金によって残りのローンが全額返済されます。
ただし、団信に加入していない可能性もあるため、契約書を確認するか、住宅ローン借入先の金融機関へ問い合わせをしましょう。
《抵当権抹消手続きを忘れないようにしましょう》
団信によって住宅ローンが全額返済されても、住宅に設定された抵当権は自動的に消えることはありません。忘れずに、抵当権抹消の登記を行うようにしましょう
借金が多く、プラスの財産がない場合
相続財産には、負債など、マイナスの財産も含まれます。 そのため、プラスの財産が少なく、マイナスの財産が多いと、相続することで不利益が生じます。
これを回避するためには、相続放棄や、限定承認を検討する必要があります。
- 相続放棄
被相続人のすべての相続財産(プラスの財産・マイナスの財産)について相続権を放棄することです。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになります。
※ご自身に相続が発生したことを知った時から、3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てます -
限定承認
プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を相続することです。
※ご自身に相続が発生したことを知った時から、3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てます
財産目録の作成について
相続財産調査がすべて完了したら、被相続人の相続財産をまとめた一覧表(財産目録)を作成しましょう。
財産目録は、遺言書の作成時や、相続税の申告において必要になります。
このほか、遺産分割協議においても役立ちます。
財産目録には、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も、忘れずに記載しましょう。
預貯金や不動産など、相続財産の種類ごとに、相続財産が特定できるよう、以下の内容を詳細にまとめていきます。
- 相続財産の名称・区分
- 数量
- 所在(預金の場合は銀行・支店名・口座番号など、不動産の場合は地番や家屋番号)
- 価額(不動産の場合はいつ、何を基準とした評価額かも記載)
- 利用状況や利息などの特記事項
など
相続財産調査は弁護士へお任せください
相続の各種手続きを円滑に行うためにも、相続財産調査は慎重・正確さが求められます。
預貯金のように、比較的調査がスムーズに行えるものもあれば、不動産や負債のように、調査に時間や労力を要するものもあります。
ですが、相続放棄や限定承認を検討されている場合は、相続発生後3ヶ月以内という、短い期間で調査を行わなければなりません。
そのため、専門家に依頼することをご検討ください。
相続財産調査だけでなく、遺産分割でトラブルが予測される場合、弁護士であれば法的なサポートが可能です。
少しでも不安なことがありましたら、相続において総合的にサポートが可能な弁護士に、ぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)