寄与分とは|請求の要件と計算方法

相続問題

寄与分とは|請求の要件と計算方法

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

相続が開始されると、遺言の内容に沿って、または相続人全員による話し合い(遺産分割協議)によって合意が得られれば、その内容に沿って、相続が行われます。

ですが、相続人の中に、生前被相続人に対して特別貢献をした人がいた場合、見返りを求めて被相続人に貢献していたわけではないけれども、何もしなかった相続人と同じ扱いというのは不公平に感じるかもしれません。

そこで、相続人の「寄与分」を考慮し、相続人間の公平な相続を図る制度が設けられています。

寄与分とは

「寄与分」とは、被相続人の生前に、その相続財産の維持または増加に特別な貢献(寄与)をした相続人がいる場合、その貢献度に応じて、その相続人が取得できる遺産をプラスする制度です。

寄与行為をした相続人と、何もしていない相続人の公平を図る趣旨がありますが、実際に「寄与分」を立証することはなかなか難しく、ハードルが高いといえます。

寄与分請求の要件

寄与分が認められるためには、共同相続人によって、相続開始前に、通常の期待を超える貢献が行われていて、それにより、被相続人の財産が維持・増加したという、「特別な寄与※」があったことが必要です。

※特別な寄与と認められるには、①無償性、②継続性、③専従性が重視されます。
詳しい要件は以下でご説明しますが、一つでも欠けると認められることが難しくなります。

共同相続人であること

寄与分が認められるのは、民法で「共同相続人」と定められています。

共同相続人とは、相続人が複数いる場合に遺産分割前の相続財産を共有している状態の相続人のことです。

よって、相続人の配偶者等の、相続人ではない者の寄与分は、原則として認められていません。

ただし、相続人以外の一定範囲の親族が特別の寄与をした場合には、「特別寄与料」が請求できる場合もありますが、寄与分とは別制度になるため注意が必要です。

財産が維持・増加していること

寄与分には

  • 相続人の寄与行為によって、その寄与行為がなければ生じたはずの相続財産の減少が阻止された(維持)
  • 相続人の寄与行為がなければ生じなかったはずの相続財産の増加がもたらされた(増加)

等、被相続人の行為によって相続財産が維持・増加した事実が必要です。

《例》

  • 被相続人の借金を返済するために、相続人が資金提供した(維持)
  • 被相続人名義の不動産購入のために、相続人が資金提供した(増加)

財産の維持・増加と因果関係があること

寄与分が認められるには、「相続人の寄与行為によって、財産の維持・増加という財産的効果をもたらした」という寄与行為と財産の維持・増加との間の因果関係が認められることが重要です。

相続人の寄与行為があっても、「見守って精神的に支えた」といった精神的な援助・協力が存在するだけでは、財産の維持・増加という財産上の効果と結びつくとはいえず、「特別な寄与」とは認められません。

期待を超える貢献があること

寄与分が認められるためには、「通常期待される以上の貢献(寄与行為)」が必要です。

被相続人との関係性や扶養義務の範囲・順序等により、「期待される以上」の範囲は異なりますが、夫婦間の協力扶助義務、親族間の扶養義務・互助義務の範囲内の行為は特別の寄与とはいえません。

例えば、長女が週に1回仕事を休んで被相続人の介護をした、妻が入院中の被相続人のところに毎日見舞いに行って、身の回りの世話をしただけでは、前者は親族間の扶養義務の範囲内、後者は夫婦間の協力扶助義務の範囲内とみなされ、寄与分の対象と評価されるのは難しいでしょう。

寄与分の種類

寄与分が認められるケースは、基本的に以下の5類型のいずれかに分類できます。

以下、それぞれの寄与行為の類型についてみていきましょう。

家業従事型

家業従事型は、被相続人の家業に、相続人が従事していたケースです。

「家業従事型」は「事業従事型」ともいわれます。

  • 商品開発で売り上げに貢献し、被相続人の財産が増加した【特別な貢献】
  • 無償または世間一般並みの労働報酬に比べて著しく少額な報酬で従事していた【無償性】
  • 一定以上の期間(少なくとも3年程度)、継続して従事していた【継続性】
  • 他の仕事の片手間ではなく、かなりの負担を要する程度に事業に従事していた【専従性】

等が主張のポイントとなります。

金銭出資型

金銭出資型は、相続人が被相続人に対して、生活費以外に高額な出資をする等、直接的な利益を給付するケースです。

  • 扶養の範囲外での、高額な金銭的援助をしていた【特別な貢献】
    ※被相続人の施設入所費用や医療費、被相続人所有不動産のローン返済、自宅のリフォーム資金等
  • 返済を目的とせずに、被相続人名義の不動産購入の資金提供をした【無償性】

等が主張のポイントとなります。財産を給付するだけなので、継続性や専属性は必要ありません。

あくまでも被相続人への出資である必要があるので、被相続人の営む会社への出資は寄与分とは認められない可能性が高いです。

扶養型

扶養型は、被相続人を無償またはそれに近い状態で、継続的に扶養するケースです。

  • 被相続人に収入がない、あるいは著しく低い収入であった【扶養の必要性】
  • 相続人名義の家に同居させ、被相続人の衣食住の面倒を看ていた【特別の貢献】
  • 被相続人からは一切お金をもらわずに、相続人の資金で扶養が行われていた【無償性】
  • 毎月、継続的に生活費を支援していた【継続性】

等が主張のポイントとなります。

ただし、親子等の親族間には扶養義務があるため、寄与分として認定されるにはハードルが高いといえます。

療養看護型

療養看護型は、相続人が被相続人の療養や看護をしていたケースです。

  • 被相続人が療養・看護を必要とする病状だった【療養看護の必要性】
    ※要介護2以上で、病院に入院または施設に入所していない場合
  • 被相続人に対して、必要な介護等を相続人が行ったことにより、介護費用の支出を免れた【特別な貢献】
  • 療養・看護の費用だけでなく、被相続人の生活費用を、相続人が負担していた【無償性】
  • 最低でも1年以上、長期にわたって相続人による介護等が行われていた【継続性】
  • 片手間の看護療養ではなく、かなりの負担を要するものであること(仕事を辞めて介護療養に専念することまでは必要ない)【専従性】

等が主張のポイントとなります。

財産管理型

財産管理型は、相続人が被相続人の財産を管理するケースです。

  • 被相続人所有の財産を、被相続人や第三者に代わって管理する必要があった【財産管理の必要性】
  • 第三者に代わって、家賃の回収や賃借人への立ち退き交渉等の管理行為を行った【特別な貢献】
  • 報酬をもらわず、かつ修理費等は相続人が出資していた【無償性】
  • 最低でも1年程度、長期的に管理が行われた【継続性】

等が主張のポイントとなります。

寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?

複数の相続人が寄与分の要件を満たす場合、「誰か1人でなければ寄与分は認めない」や「誰の寄与分を優先すべき」といった法律の規定はないため、それぞれの貢献度によって、寄与分が認められます。

寄与分決定までの流れ

寄与分は、法定相続分のように割合が定められておらず、また、裁判所や法律によって自動的に振り分けられるものでもありません。

したがって、寄与行為を行った相続人自らが寄与分を主張する必要があります。

具体的な方法は、以下でご紹介します。

遺産分割協議で寄与分を決める

最初に「遺産分割協議」で、寄与分の主張をして、相続人同士で話し合いを行います。

話し合いで他の相続人の合意が得られれば寄与分が認められたことになりますが、寄与分を認めるということは、他の相続人が受け取る相続財産が少なくなることを意味するため、円満に寄与分が認められるケースは多くありません。

協議で決まらない時は調停へ

遺産分割協議で寄与分が認められなかった場合は、寄与分を求める遺産分割調停の申立てを家庭裁判所へ行うことができます。

寄与分を認めてもらうための具体的な証拠を示し、専門知識を持つ調停委員等の意見を踏まえ、他の相続人との合意を目指して話し合いをします。

それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時抗告へ

遺産分割調停における話し合いでも解決しない場合は、遺産分割審判へと自動的に移行して、裁判所に判断をしてもらうことになります。

もし審判結果に納得できない場合は、不服(即時抗告)の申立てをすることが可能です。

寄与分の計算方法

寄与分の計算方法は、「様々な事情を考慮する」という規定があるだけで、明確な基準はありません。

ここでは一般的に用いられる、寄与行為の類型ごとの計算方法についてご紹介します。

※あくまで目安程度のご参考にしてください

家事従事型(事業従事型)の計算方法

被相続人の事業に従事するにあたり、本来であれば受け取れたであろう給与の金額が基準となります。

ただし、相続人が被相続人と同居していた等で、相続人の生活費の負担が軽減されていた場合は、生活費相当分を控除します。

《計算方法》

寄与を行った相続人が本来受け取るべき年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与期間

金銭出資型の計算方法

基本的に、実際に出資した金額(生活費を除く)が基準となります。

ただし、金銭や不動産は時間の経過とともに価値が変わるため、相続開始時の価値で算出する必要があります。

《計算方法》

  1. 金銭を贈与した場合
    贈与金額×貨幣価値変動率×裁量的割合
  2. 不動産を贈与した場合
    相続開始時の不動産評価額×裁量的割合
  3. 不動産を無償で貸した場合
    相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量的割合
  4. 不動産購入のために資金援助した場合
    相続開始時の不動産評価額×(出資金額÷取得当時の不動産価額)
  5. 金銭の融資の場合
    利息相当額×裁量的割合

※裁量的割合とは、裁判所がそれぞれの事情を考慮して判断する割合です

扶養型の計算方法

通常の扶養の範囲を超えて、被相続人の生活維持のために相続人が負担した金額が基本となります。

《計算方法》

被相続人の扶養のために相続人が負担した金額×(1-寄与法定相続人の法定相続分割合)

例えば相続人が長男・次男の2人の場合、被相続人の生活維持のために必要な費用として毎月20万円を長男が全額負担していた場合、長男が法定相続分2分の1を超えて負担した10万円(※20万×(1‐1/2)=10万円)についてのみ、寄与分として請求できることになります。

療養看護型の計算方法

介護保険における「介護報酬基準」等を元に、相続人が受け取れたであろう金額と療養看護日数が基本となります。

ただし、療養看護日数は、「要介護2以上」の期間であることと、入院や介護サービスを受けた期間を除くことが条件となります。

また、介護費用(おむつ代等)を負担していた場合は、実費が寄与分となります。

《計算方法》

介護士やヘルパーの日当相当額×療養看護の日数×裁量的割合
※裁量的割合とは、裁判所がそれぞれの事情を考慮して判断する割合です

財産管理型の計算方法

基本的に、第三者に管理を委任した場合に必要な費用が基準となります。

なお、建物の修繕費用等の経費を相続人が負担している場合は、実費が寄与分となります。

《計算方法》

財産管理報酬(第三者に委任した際の標準費用)×裁量的割合
※裁量的割合とは、裁判所がそれぞれの事情を考慮して判断する割合です

寄与分が認められるケース

寄与分が認められる可能性が高いケースを、一部ご紹介します。

夫の会社でヒット商品の開発に貢献した場合

夫(被相続人)が個人経営する飲食店で、20年間ほぼ毎日無償で手伝い、新メニューの開発を成功させて、大幅な売上アップに貢献したような場合、寄与分として認められる可能性があります。

ただし、被相続人個人ではなく「会社」への貢献とみなされ、寄与分が認められない場合もありますので、被相続人の相続財産に貢献したといえることが重要になります。

兄弟で出資をしていた場合

兄弟で共同出資をして、父親(被相続人)名義の不動産を購入した場合、これが「通常扶養の範囲を超えた特別な貢献」と評価できれば、寄与分として認められる可能性が高いです。

この場合、不動産を購入した際に、兄弟それぞれが出資した金額に応じてそれぞれの寄与分が算出されるため、極端に例えると、弟が10万円程度の出資だった場合には、兄だけが寄与分を認められる場合もあります。

介護費用を全額出した場合

相続人は仕事を辞めて、要介護3の被相続人を、相続人の自宅で付きっ切りで介護し、被相続人の生活費をはじめ介護に必要な費用もすべて相続人が負担していた場合は、「親族間の扶養義務として期待される範囲」を超えているとみなされ、寄与分として認められる可能性があります。

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寄与分が認められないケース

次に、寄与分が認められにくいケースをご紹介します。

夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合

寄与分が認められるためには、相続発生時に共同相続人である必要があります。

そのため、仕事を無償で手伝い、それにより相続財産の維持・増加に貢献が認められたとしても、相続発生時に離婚済みの場合、そもそも「元配偶者」は相続人ではないため、残念ながら寄与分は認められません。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合

相続人が従業員として勤めて経営を支えていたということは、父ではなく、会社に対する貢献とみなされます。

また、従業員として給与を受け取っていると考えられるため、原則寄与分は認められないでしょう。

ただし、会社が「個人企業」で、会社への何らかの贈与があり、それと相続人の資産維持に明確な関連性が認められる場合には、被相続人への寄与行為とされるケースもあります。

義両親を介護していた場合

被相続人が義両親の場合、相続人の配偶者がどれだけ献身的に義両親を介護していたとしても、相続人の配偶者は共同相続人にあたらないため、寄与分の「相続人であること」という要件を満たしておらず、残念ながら原則、寄与分は認められません。

ただし、この場合、寄与分とは別制度の「特別寄与料」が請求できる場合があります

仕送りをしていた場合

被相続人に、定期的に仕送りをしたことによって、「相続財産の維持・増加」が認められる場合には「扶養型」の寄与分が認められる場合がありますが、年に数回、数万円程度の仕送りだけでは、財産の増加どころか維持すら難しいとみなされる可能性が高く、寄与分は認められにくいでしょう。

介護施設の月額費用を支払っていた場合

仕送りをしていた場合同様に、介護施設の月額をどの程度支払っていたかが重要となります。

ただ、多くのケースで、「扶養の範囲を超えた特別の寄与」とされることは難しく、寄与分としては認められにくいでしょう。

寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください

どんなに献身的に、被相続人に貢献していたとしても、寄与分は、共同相続人同士の話し合いでは解決しない場合が多くみられます。

その後の調停や審判でも、寄与分が認められるケースはあまり多くありません。

「親族間の扶養義務の範囲」や「特別の貢献(寄与)」、「無償性」、「相続財産の維持・増加との因果関係」などの要件を立証するのは、とてもハードルが高いためです。

ご自身の寄与分が認めてもらえるかどうか、主張するにはどうすればいいのか、少しでも迷われている方は、ぜひ早めの段階で弁護士等の専門家にご相談ください。

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
広島県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。