監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
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相続放棄の期限はどれくらい?
相続放棄の手続きは、基本的に、起算日から3ヶ月以内に行う必要があります。 この期間を「熟慮期間」といい、この間に、以下のことを行います。
- 必要書類を集める
- 法定相続人を確定する
- 亡くなった人(被相続人)の、債務や相続財産の調査を行う
- 相続するのか放棄するのかを判断し、相続放棄の場合は家庭裁判所へ申述する
期限を過ぎると、相続放棄ができなる場合があるので注意が必要です。
起算日はいつから?
熟慮期間の起算日は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とされています。
つまり、以下の事実を知った日となります。
①被相続人が亡くなったことを知った日
②自分が相続人であることを知った日
起算日は、相続人によって異なる場合があります。
《例》被相続人には、配偶者と子がいます。また、両親は死亡しており、被相続人の兄弟がいるとします。
・12/1 被相続人が亡くなり、親族全員に知らせがありました。
※配偶者と子は、連絡を受けたこの日が起算日になります。
⇩
・12/7 子をはじめ、第1順位の相続人全員が相続放棄をしたことが、第3順位の相続人に知らされました。
※この日が、第3順位の相続人の起算日になります。
相続放棄の期限は延長できることもある
基本的に熟慮期間は3ヶ月と定められています。ですが、この期間中に、相続財産の調査が完了できず、相続するか放棄するかの判断ができない場合には、家庭裁判所へ期限の延長(伸長)を申請することで、期限の延長が可能となります。伸長期間は事案にもよりますが概ね1~3か月程度となります。
期限を延長する方法
熟慮期間伸長の申立ては、熟慮期間中に、家庭裁判所へ行います。
なお、複数の相続人が伸長の申立てをする場合、それぞれ相続人ごとに手続きが必要です。
《申立て先》
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
※管轄の家庭裁判所は、裁判所のホームページから確認ができます。
《必要書類》
・申立書
・被相続人の住民票の除票または戸籍附票
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本
・伸長を申立てる相続人の戸籍謄本
・連絡用の切手
このほか、相続人によっては必要書類が増える場合もあります。
《申立てに必要な費用》
・収入印紙800円分(申立書に添付して提出します)
・連絡用の切手代(各裁判所によって金額が異なるため、予め問い合わせるとよいでしょう)
再延長はできる?
熟慮期間の伸長が認められたものの、それでも調査が終わらずに、期間内に判断ができないような場合は、再度伸長の申立てを行うことが可能です。
この場合も、熟慮期間延長期間内に申立てをするようにしましょう。
熟慮期間の伸長が必ず認められるわけではありません
熟慮期間伸長の申立てには、
・相続財産が多い
相続財産が分散している
・相続人と相続財産の場所が離れている
などの相当の理由が必要となります。
単に「仕事で忙しくて対応する時間がない」などの理由では、伸長が認められない場合があります。特に、相続放棄の熟慮期間を徒過した後に熟慮期間伸長をしたケースでは、不可抗力でなければ認められないと判断されたものもあります。
また、相続人によって伸長理由は異なることが多いため、相続人同士でも伸長が認められる場合と認められない場合とがあります。
弁護士なら、ポイントを押さえた申立てを行うことが可能です
熟慮期間の伸長は、相当の理由が必要です。また、再延長は、認められないケースも多く、熟慮期間伸長の申立てをした後に、早急に相続財産や債務の調査が必要となります。
相続放棄は、うまくいかなかった場合のリスクが高く、専門知識を有した弁護士に相談することはとても重要です。
熟慮期間の伸長をお考えの場合には、相続放棄や相続財産調査を含めて一度弁護士にご相談ください。
相続放棄の期限を過ぎてしまったらどうなる?
相続放棄をする場合、熟慮期間内に家庭裁判所へ申述をする必要があります。
熟慮期間を過ぎてしまうと、相続したこと(単純承認)とみなされるため、原則として相続放棄ができなくなってしまいます。
ただし、熟慮期間が過ぎてしまったからといって諦めないでください。熟慮期間を経過した事案でも、弁護士に相談した結果、相続放棄が認められたケースは多数あります。
理由によっては熟慮期間後の相続放棄が認められる場合も
基本的には、熟慮期間を過ぎると相続放棄できません。ですが、
・生前の被相続人と交流がなかった
・相続財産が全くないと信じていた
・借金などの、消極財産(マイナスの財産)の存在を知らなかった
などの「相当な理由」がある場合、相続放棄が認められることがあります。
例えば、父親が亡くなって4ヶ月後に、何十年も疎遠になっていた息子宛に借金の督促状が届いたとします。
息子はこの督促状で、はじめて父親が亡くなったこと、自分が相続人になったことを知りました。
この場合、息子が相続財産の状況を把握する機会があったとは言えず「相当な理由」があると認められやすいでしょう。
また、熟慮期間の起算日は「自分が相続人であると知った日」からとされているので、この場合は「督促状が届いた日」が起算日となります。
この起算日から3ヶ月以内に相続放棄の申述を行えば、認められる可能性があります。
こんな場合は相続放棄が認められません
相続放棄という制度について「そもそも制度を知らなかった」、「期限があることを知らなかった」などの理由では、熟慮期間後の相続放棄は難しいでしょう。
さらに、「仕事が忙しくて手続きが遅れてしまった」ということも基本的には認められません。相続放棄をしなければならない可能性があれば、弁護士に速やかにご相談ください。
また、「相続放棄する」と意思表示をしていても、熟慮期間内に家庭裁判所へ申述の申立てをしていなければ、相続放棄は認められませんので注意が必要です。
相続した後に多額の借金が発覚したら
熟慮期間中に相続放棄をせず、熟慮期間経過後に、多額の借金が発覚した場合は諦めるしかないのでしょうか。
ですが、生前に被相続人から「借金はない」と聞いていたり、相続財産調査の際に借金が把握できていなかったりした場合など、相続放棄をしなければならないとすら思っていないケースも多数あります。
このような場合でも、相続放棄が認められることは十分あります。諦めずに、一度専門家に相談してみましょう。
ただし、弁護士費用の節約のために自分で申立てをしてみて、うまくできず失敗したという相談もよくありますので、相続後や熟慮期間経過後の相続放棄は、弁護士に必ずご相談することをお勧めします。
熟慮期間後の相続放棄が認められた事例
ここで、熟慮期間経過後に相続放棄が認められた事例を紹介します。
【相続財産】
・債務
・預貯金
【依頼者の、被相続人との関係】
・子
【相続人】
・依頼者の母
【ご依頼の経緯】
・父は数年前に亡くなっている。その当時、依頼者は学生であった。
・依頼人の相続手続きは、母が代わり行い、「依頼者は相続しない」と聞いていた。
・数年後、依頼者が自分宛てに送られてきていた、債権者からの催告書を発見。
・母が、父に債務があったことと、依頼者宛に催告書が届いていたことを隠していたことが発覚。
ここではじめて、依頼人は自分が父の債務を相続していたことと、数年前に催告書が届いていたことを知り、相続放棄ができないかとご相談のため、ご来所されました。
【弁護士の対応】
以下を元に、相続放棄を申述しました。
・相続発生時の事情から、依頼者が相続発生時に父の債務を知ることは困難だったことを詳細に説明する書面を作成。
・相続放棄の熟慮期間の起算日を、依頼者が債権者からの催告書を発見した時点であると主張。
【結果】
相続放棄の申述が受理されました。
相続放棄の期限に関するQ&A
相続放棄の期限内に全ての手続きを完了しないといけないのでしょうか?
相続放棄は、熟慮期間内に申請をすればよく、相続放棄の手続き完了までは求められていません。熟慮期間内に、家庭裁判所へ相続放棄の申述書を提出していれば、その後の手続きが期限を過ぎてしまっても、申請が無効になることはなく、手続きとして有効です。
相続順位が第2位、第3位の場合でも、相続放棄の期限は亡くなってから3ヶ月なのでしょうか?
熟慮期間は、相続人によって起算日が異なります。
そのため、相続人全員が「被相続人が亡くなってから3ヶ月」というわけではありません。
・相続順位が第2順位の相続人の場合
→第1順位の相続人全員が相続放棄をして、自分が相続人になったと知った日を起算日としそこから3ヶ月が熟慮期間となります
・相続順位が第3順位の相続人の場合
→第1順位の相続人全員が相続放棄し、かつ第2順位の相続人全員が相続放棄をしたか亡くなっていて、自分が相続人となったと知った日を起算日とし、そこから3ヶ月が熟慮期間となります
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続放棄の期限に関する疑問・お悩みは弁護士にご相談ください
相続放棄をするためには、熟慮期間内に申述を行う必要があります。
そのための準備もさることながら、熟慮期間の起算日が相続人によって異なったり、期限に間に合わなくて伸長を認めてもらうために相当の理由を家庭裁判所に説明が必要になったりと、とても複雑です。
これらの手続きは、専門家へ依頼することで、正確かつ迅速に行うことが可能です。
また、相続した後に、被相続人のマイナスの財産を知らされることも少なくありません。相続放棄の期限が切れた後だし、と諦める前に一度ご相談ください。
その他、相続放棄や、相続放棄の期限などについて、少しでも疑問やお悩みがありましたら、まずに弁護士にご相談下さい。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)