
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
亡くなった方(被相続人)の財産を、特定の人が受け継ぐことを、相続といいます。
この相続には、大きく3つの方法があります。
- 被相続人の意思で、相続の内容を決める、遺言による相続(遺贈)
- 民法で定められた人(相続人)が、決められた割合(相続割合)で受け取る、法定相続
- 民法で定められた人(相続人)全員で話し合って決める、遺産分割協議による相続
このうち、③遺産分割協議による相続で、相続人に未成年者がいる場合に注意すべきポイントがあります。
それは、民法上、未成年者の法律行為が制限されていることです。
《条文の引用》
民法
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。
ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
遺産分割協議は法律行為なので、未成年者が相続人の場合、単独で行うことができず、通常と異なった手続きが必要になる場合があります。
どんな時に、どのような手続きが必要になるのか、次項より詳しくみていきましょう。
Contents
未成年者は原則、遺産分割協議ができない
原則、18歳未満の未成年者は、単独で法律行為を行うことができません。
未成年者が法律行為をする場合、法定代理人の同意が必要とされています。
※法定代理人:法律の規定に基づいて代理権を与えられた代理人(親権者、未成年後見人、特別代理人)
つまり、法律行為である遺産分割協議を、未成年者単独では、原則行えないということです。
仮に、法定代理人の同意なく、未成年者が遺産分割協議を行った場合は、取り消しの対象となります。
成年年齢の引き下げについて(2022年4月1日以降)
民法改正によって、2022年4月1日より、成年年齢が18歳に引き下げられました。
従来、20歳以上でなければ単独で法律行為を行えなかったのが、18歳以上であれば、単独で法律行為が行えるようになったのです。そのため、遺産分割協議を行う時点で18歳以上であれば、単独で遺産分割協議を行うことが可能です。
法改正によって18歳以上でできるようになったことが、法律行為の他にもあります。
- 10年有効のパスポートの取得
- 司法書士や医師免許などの国家資格の取得
- 結婚(女性が結婚可能な年齢が16歳から18歳に引き上げ)
- 性同一性障害の方が、性別の取り扱いの変更審判を受けられる
ただし、飲酒や喫煙、競馬や競輪などの公営競技の年齢制限については、健康被害への懸念や、ギャンブル依存症対策の観点から、従来の年齢(20歳以上)を維持するとされています。
成人になるのを待って遺産分割協議してもいい?
未成年者が相続人の場合、特別代理人の選任が必要となるケースがあるなど、遺産分割協議の手続きが、通常よりも複雑になる場合があります。
そうすると、「成人になるのを待ってから遺産分割協議をすればいい」とお考えになる方もいらっしゃるかと思います。
もちろん、未成年者が、成人になるのを待って、遺産分割協議を行うことも可能です。
ですが、リスクがあることも知っておいてください。
《成年になるのを待つことのリスク》
●相続放棄が認められなくなる可能性があります
相続放棄は、未成年者が相続人であることを知った日から、原則3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。
未成年者が成人して遺産分割協議が開始してから相続放棄の判断をしようとすると、相続放棄の期限を過ぎてしまい、放棄が認められなくなる可能性があります。
成人するまでに3ヶ月以上あるような場合には、注意が必要です。
●相続税で損をする可能性があります
相続税の申告・納税期限は、相続開始を知った翌日から10ヶ月以内です。
期限を過ぎると、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの軽減特例の適用を受けることができなくなります。
これを回避するため、10ヶ月以内にいったん「申告後3年以内の分割見込書」を添付して、法定相続分での仮申告を行っておき、その後遺産分割協議がまとまった際に更生の請求を行うことで、さかのぼって特例の適用をうけることができます。
ですが、仮申告の際にいったんは多額の相続税を納付する必要があるのと、2度にわたり相続税の申告をする必要があるため、手間と費用がかかります。
相続人に未成年者がいる場合は法定代理人が必要
未成年者が相続人の場合、法定代理人が未成年者にかわって遺産分割協議を行います。
これは、成人に比べて判断能力が未熟とされる未成年者を、法律で保護するためです。
法定代理人は、未成年者の不利益にならないよう、未成年者に代わって遺産分割協議を行うことになります。
法定代理人になれるのは親権者(親)
未成年者の法定代理人は、一般的に親権者(親)がなるケースがほとんどです。
父母の両方、またはどちらか一方が法定代理人となります。
親権者は、未成年者の法定代理人として、未成年者の財産管理や、未成年者に代わって契約の締結・取消などを行います。
親も相続人の場合は特別代理人の選任が必要
遺産分割協議において、未成年者(子)と、親権者(親)が、同じ相続の相続人になっている場合、基本的に、親は法定代理人にはなれません。
親も子も相続人の場合、親が子供の取り分を少なくして、自分の取り分を多くすることが可能となってしまいます。
親子間にこのような利益相反(だれかが利益を得て、だれかが不利益を被る)が生じる場合には、親に代わって遺産分割協議を行う、特別代理人(詳細は後述します)の選任が必要です。
なお、親権者が相続人でなくなった場合には、親権者が法定代理人になれるケース(詳細は後述します)もあります。
《親と未成年者が相続人で、特別代理人が必要なケース》
亡くなった父親の財産について、母親と未成年の子供2人が相続人となり、遺産分割協議をするケースです。
母親と子供の間に利益相反が生じる可能性があるとして、母親は法定代理人として認められず、子供2人それぞれに、特別代理人が必要です。
親がいない場合は未成年後見人を選任する
相続が開始した時点で両親どちらも亡くなっているなど、親権者がだれもいない場合には、未成年後見人を選任する必要があります。
選任された未成年後見人は、職務のひとつとして、遺産分割協議を行うことになります。
《未成年後見人が必要なケース》
亡くなった父親の財産について、未成年者の子供2人が相続人となって遺産分割協議をするケースです。
子供の母親は、父親より先に亡くなっていて、親権者がだれもいないため、子供2人それぞれに、未成年後見人が必要になります。
未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の代理人が必要
未成年者の相続人が複数いる場合、それぞれに代理人が必要になります。
1人の代理人が、まとめて2人以上の未成年者の代理人になると、片方の取り分を少なくして、もう一方の取り分を多くするなど、利益相反が生じる可能性があるとされるためです。
未成年者の相続人に応じた人数の代理人を選任しましょう。
特別代理人の選任について
遺産分割協議において、未成年者(子)と、親権者(親)の両方が相続人になるケースでは、親は子の代理人となることができません。
親権者に代わって、遺産分割協議を行う代理人(特別代理人)の選任が必要です。
特別代理人とは
特別代理人は、遺産分割協議の時だけ、親権者に代わって未成年者の代理人をつとめる、いわば限定の代理人です。
未成年者の不利益にならないよう注意しながら、未成年者に代わって遺産分割協議を行います。
《特別代理人になれる人》
特別代理人になるために、特別な資格は必要ありません。
未成年者と利害関係がなく、信頼のおける人がよいでしょう。
一般的に、未成年者の祖父母や、叔父・叔母が選任されるケースが多いです。
弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
申立てに必要な費用
特別代理人選任の申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
《必要な費用》
- 未成年者の相続人1人につき、収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
※家庭裁判所により、金額が異なるため、事前に該当の家庭裁判所にお問い合わせください - 申立てに必要な、各種証明書の発行手数料
必要な書類
特別代理人選任の申立てに必要な書類は、以下のとりです。 なお、申立書の書式および記載例は、各家庭裁判所のホームページで公開されています。
ぜひご参考ください。
家庭裁判所のホームページはこちらから
《必要な書類》
①申立書
②標準的な申立添付書類
- 未成年者の戸籍謄本(全部記録証明書)
- 申立人の戸籍謄本(全部記録証明書)
- 特別代理人候補者の住民票、または戸籍の附票
- 遺産分割協議書(案)
※法定相続分や利益相反に考慮した内容で作成するようにしましょう
申し立ての流れ
特別代理人選任の申立てについて、流れを説明します。
申立てから、審判の結果が出るまで、おおよそ3週間から1ヶ月ほどかかります。
申立てをすると、相当の理由がない限り取り下げることは難しいため、慎重に行いましょう。
①申立て準備
- 申立てを行えるのは、親権者のほか、該当相続において利益相反する利害関係者です
- 申立書の作成や、添付書類の取得を行います
②家庭裁判所へ申立てを行う
- 未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ、必要書類を提出します
③審理
- 未成年者にとって不利な内容になっていないか、家庭裁判所で調査が行われます
④審判
- 審判の結果、特別代理人が選任されると、特別代理人選任審判書が届きます
- 候補者以外が選任される可能性もありますが、不服の申立てはできません
⑤特別代理人の就任
- 審判書が届くと、特別代理人としての職務がスタートします
- やること:遺産分割協議への参加➡遺産分割協議書への署名・押印➡相続手続き(相続登記など)
⑥特別代理人の役割が終了
- 未成年者に相続財産を引き渡すと、役割を終えます
未成年後見人の選任について
法律上、未成年者は自分だけで財産管理や契約行為などができません。
通常であれば、親権者が未成年者に代わって契約などの役割を果たすことになりますが、両親が亡くなっているなど、未成年者に親権者がいない場合には、未成年後見人の選任が必要になります。
未成年後見人とは
未成年後見人とは、親権者に代わって、親権者が行うべき役割を果たす人のことです。
選任された未成年後見人は、親権者と同じ権限と責任を負い、未成年者が成人するまで、安心して日常生活を送れるように、適切な監護教育をしたり、財産管理を行うことになります。
《未成年後見人になれる人》
未成年後見人になるために、特別な資格は必要なく、欠格事由に該当しなければだれでもなれます。
※欠格事由※
- 未成年者
- 家庭裁判所で成年後見人などを解任された人
- 破産者で復権していない人
- 未成年者に対して訴訟をしたことがある人や、その配偶者・親族
- 行方不明の人
未成年後見人は、親権者が遺言で指定することも可能です。
未成年者が成人するまで、責任をもって役割を果たしてくれる人がよいでしょう。
弁護士などの専門家へ依頼することも可能です。
申立てに必要な費用
未成年後見人選任の申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
《必要な費用》
- 未成年者の相続人1人につき、収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
※家庭裁判所により、金額が異なるため、事前に該当の家庭裁判所にお問い合わせください - 申立てに必要な、各種証明書の発行手数料
必要な書類
未成年後見人選任の申立てに必要な書類は、以下のとりです。
なお、申立書の書式および記載例は、各家庭裁判所のホームページで公開されています。
ぜひご参考ください。
《必要な書類》
①申立書
②標準的な申立添付書類
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 未成年者の財産目録、およびその資料
- 未成年者の収支予定表、およびその資料
- 相続財産目録、およびその資料(未成年者が相続人となっている遺産分割未了分)
- 親権を行う者がいないことを証する資料(親権者死亡記載のある戸籍謄本など)
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 未成年者の住民票、または戸籍の附票
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
③未成年後見人候補者を推薦する場合に必要な申立添付書類 ⇐ 候補者がいない場合は提出不要
- 未成年後見人候補者事情説明書(候補者自身で記載)
- 候補者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 候補者の住民票、または戸籍の附票
申し立ての流れ
未成年後見人選任の申立てについて、流れを説明します。
申立てから、審判の結果が出るまで、おおよそ2~3ヶ月ほどかかります。
申立てをすると、相当の理由がない限り取り下げることは難しいため、慎重に行いましょう。
①申立ての準備
- 申立てを行えるのは、未成年者本人またはその親族、利害関係者です
- 申立書の作成、添付書類の取得を行います
②家庭裁判所へ申立て
- 未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ、必要書類を提出します
③調査
- 未成年者本人や申立人、未成年後見人候補者への面接や、親族への照会が行われます
④審判・戸籍記載
- 審判の結果、未成年後見人が選任されると、審判書が届きます
- 審判書を受け取った時から、未成年後見人が就任したことになります
※ほぼ同時に、裁判所の委託によって、未成年者の戸籍に、後見人が選任されたことが記載されます - 候補者以外が選任される可能性もありますが、不服の申立てはできません
⑤未成年後見人による初回報告(審判日から1ヶ月以内)
- 未成年者の財産調査を行い、財産目録、年間収支予定表、相続財産目録などを家庭裁判所へ提出
⑥未成年後見人による定期報告(年1回)
- 未成年後見人がその職務を正しく行っているかを確認するために、未成年後見人は監護や財産管理について、定期的に家庭裁判所へ報告をしなければなりません
⑦未成年後見人の報酬請求
- 報酬を受け取りたい未成年後見人は、家庭裁判所へ報酬付与の申立てを行い、家庭裁判所が報酬を付与するか否か、報酬額をいくらにするかを決定します
⑧未成年後見人の役割終了
- 未成年者が成人に達した時(あるいは死亡、婚姻、養子縁組、親権が回復)に役割が終了します
- 役割終了後、10日以内に、後見終了の届出を、市区町村役場へ提出します
- 管理していた財産を未成年者(未成年者死亡の場合は相続人)に引き継ぎます
未成年の相続人が既婚者の場合は代理人が不要
2022年4月1日に法改正が行われるまで、成年年齢は20歳でした。
そして、結婚ができるようになる年齢(婚姻開始年齢)は、男性18歳、女性16歳でした。
未成年者でも結婚ができることから、民法で、「結婚していれば成人とみなす」という成年擬制が規定されていました。
《条文の引用》
民法
(婚姻による成年擬制)
第七百五十三条 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。
成人とみなすということは、未成年者だけで遺産分割協議(法律行為)ができるということです。
法改正以降、成年年齢が18歳となり、婚姻開始年齢も同じく、男女ともに18歳になりました。
未成年者は結婚ができなくなり、この成年擬制の条文は不要になったため、削除されています。
ですが、2023年現在、18歳未満の未成年者でも、結婚している女性がいます。
この方に限り、成年擬制が適用されることになり、もし相続人となった場合は、成人とみなされ、単独で遺産分割協議が行えます。
未成年の相続人が離婚している場合
2023年現在、18歳未満で結婚している女性が、もし離婚した場合はどうでしょうか。
未成年者が結婚することで成年とみなされた後、成人する前に離婚したとしても、成年擬制の効果は失われない、とされています。
未成年者が離婚しても、変わらず成人とみなされるということです。
親が未成年の相続人の法定代理人になれるケース
親が相続放棄をした場合
同じ相続において、親権者(親)と未成年者(子)が相続人の場合、利益相反の可能性があるため、親の代わりに、子の代理人となる特別代理人の選任が必要になります。
では、親が相続放棄をした場合はどうでしょうか?
この場合、親に利益はなく、子が不利益を被る可能性もないことから、親が法定代理人として、子に代わって遺産分割協議を行えます。
もちろん、親が相続放棄をした後に、法定代理人として子の相続放棄を行うことも可能です。
《親が相続放棄しても、特別代理人が必要なケース》
相続人となる未成年者の子が複数人いる場合には、子の人数分の代理人が必要になるため
特別代理人の選任が必要になりますのでご注意ください。
片方の親がすでに亡くなっており、未成年者が代襲相続人になった場合
親権者(親)が相続放棄をする場合以外にも、親が法定相続人になれるケースがあります。
未成年者(子)が、代襲相続人で、親権者(親)が相続人ではない場合です。
親が相続人ではない=親と子に利益相反がないことから、法定相続人として認められます。
【図1】を使用して、詳しく説明します。
- 被相続人は、【父A】です
- 法定相続人は、【母B】、【長男C】、【次男D】の3人です
- 法定相続人の【長男C】は、被相続人より先に亡くなっているため、代襲相続が発生して【長男C】の子供である【孫F】が、代襲相続人になります
- 【孫F】は未成年のため、単独で遺産分割協議が行えず、【孫F】の母親である【長男の妻E】が法定代理人として、遺産分割協議を行います
未成年者を含む遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
未成年者が相続人になるケースは、通常に比べて、手続きが少し煩雑に思えるかもしれません。
それは、未成年者に不利益が生じないよう考慮された結果です。
ここまでご紹介してきた、未成年者の保護を目的とした制度は、利用するのに手間と費用がかかるというデメリットもあります。
なるべく費用をかけず、かつ未成年者が損をしないように、あらかじめ遺言を残すという方法もあります。
- 未成年者が成人するまで、遺産分割協議を待つことが最適かどうか?
- どんな内容で遺産分割協議(案)を作成すれば、申立てがスムーズにできるのか?
- 家庭裁判所から、いろいろ聞かれるみたいだけど、うまく対応できる自信がない
- はやくに父親を亡くして、母親の自分も体調が不安、未成年の我が子の将来が心配
このように、未成年者にとってなにが最善か迷われる場合は、専門知識をもって個別の事情に応じられる弁護士へ、ぜひご相談ください。
法的な視点から、適切な方法をご提案させていただきます。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)