遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点

相続問題

遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

亡くなった人(被相続人)が所有していた、不動産や預貯金などのプラスの財産や、借金などのマイナスの財産、いわゆる相続財産を、特定の人(相続人)が承継することを、相続といいます。

相続の方法には、以下のものがあります。

  • 遺言による方法(遺贈)
  • 民法で定められた内容で行う方法(法定相続)
  • 相続人全員で話し合う方法(遺産分割協議)

相続財産は、被相続人が亡くなることで「遺産」となります。
この遺産を、誰が、どう取得(承継)するのかを話し合って決める「遺産分割協議」では、相続人同士で揉めてしまうケースが多々あります。

「遺産分割で揉める=お金持ちだけ」
そんなイメージがあるかもしれませんが、揉める要素は「お金持ちだから」ではないのです。
ではなぜ、遺産分割で揉めやすいのでしょうか?

注意点を踏まえてご紹介していきます。
円滑な遺産分割が行えるように、ご参考になれば幸いです。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、被相続人の遺産を、誰が、どのように相続するのかを、複数の相続人全員で話し合って決めることです。

遺産分割協議を行うことで、民法で定められた範囲(法定相続分)とは異なる内容で、遺産分割が行えます。

遺産分割協議の注意点

遺産分割協議のやり直しは原則不可

一度、相続人全員で合意した遺産分割協議は、簡単にはくつがえせません。

もしも、相続人全員が同意をしてくれるのであれば、協議のやり直しをすることはできますが、一人でも反対する人がいれば、原則、やり直すことは不可能です。
協議のやり直しには、労力や時間、費用の負担が大きく、安易に合意することは危険です。しっかり検討するようにしましょう。

※遺産分割協議が無効とされる場合には、協議をやり直す必要があります(詳細は後述します)。

全員の合意がなければ成立しない

遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。
協議に参加しない人がいたり、一人でも意見が一致しなければ、遺産分割協議は不成立となります。
相続開始後にはじめて、被相続人が認知した子の存在を知ったというケースもあります。

この場合、認知されている子も、相続人となるため、協議に参加する必要があります。
認知されている子の存在を知らずに協議を行っても、無効となってしまいます。
そのため、協議前に、相続人調査を行い、誰が相続人なのかを確定させましょう。

相続人に未成年がいる場合

相続人に、18歳未満の未成年者がいる場合、未成年者だけでは遺産分割協議が行えません。
未成年者は判断能力が不十分であることから、民法では単独での法律行為が禁止されていて、遺産分割協議も法律行為にあたるためです。

未成年者が相続人となる場合、法定代理人(親権者や未成年後見人)、または特別代理人が、未成年者に代わって遺産分割協議を行うことになります。

●親権者が法定代理人になるケース
親権者が相続人ではない場合(親権者が相続放棄した場合を含む)

●未成年後見人が法定代理人になるケース
未成年後見人が相続人ではない場合

※未成年後見人とは、未成年者に親権者がいない場合、親権者に代わって、未成年者が成人するまで監護・財産管理を行う人のことです

●特別代理人の選任が必要なケース
未成年者と、法定代理人の両者が、どちらも相続人となる場合

法定代理人に代わって遺産分割協議を行う、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

相続人に認知症の人がいる場合

相続人に、認知症の人がいる場合の遺産分割協議にも注意が必要です。
認知症や精神障害などによって意思能力・判断能力に問題がある場合、その人が単独で参加して行った遺産分割協議は無効になる可能性があります。

認知症の相続人が遺産分割協議を行うためには、成年後見制度を利用する方法があります。
成年後見制度では、家庭裁判所に成年後見開始の審判を申し立てると、判断能力低下の程度に応じて、認知症の人の財産管理などを支援する成年後見人(後見人、保佐人、補助人)を選任してもらえます。

成年後見人は、認知症の人の配偶者や子などの親族が就任するケースが多くみられますが、未成年者や破産者などの欠格事由に該当しなければ、誰でも就任することが可能で、弁護士や法人が選任されるケースもあります。
申立て時に、成年後見人の候補者を推薦することもできますが、必ずしも候補者が選任されるとは限らないのでご承知おきください。

遺産分割協議でよく揉めるケース

土地や不動産がある場合

遺産分割協議で揉める、多くの原因が、不動産(建物や土地)の相続です。
とくに、遺産の多くを不動産が占める場合には、大きな問題に発展しかねません。

物理的にも分割するのが困難な不動産はその取得方法で争いになるケースがしばしば見受けられます。

  • 誰が取得するのか?
    複数の相続人が、不動産の取得を主張するケースや
    売却が困難な不動産を、誰も取得したくないと主張するケースなどがあります
  • 代償金の支払いができない
    不動産を取得することで、ほかの相続人より多くの利益を得る場合に、相応の代償金を
    ほかの相続人に支払う必要がありますが、高額で支払えないケースが想定されます
  • 不動産の評価方法
    不動産を売却する、あるいは代償金などを算出する際に必要となる
    不動産の評価方法が複数あることから、各相続人が、それぞれ自分に有利な評価方法を 主張するケースがあります

家業がある場合

被相続人が法人の経営者や、個人事業主だった場合にも、誰が家業を継ぐのか、相続人間で揉める可能性があります。

家業を継ぐ相続人が決まったとしても、家業に関する遺産の価値について意見が相違したり、そもそも遺産の内容を、ほかの相続人に開示しないために、争いが生じるケース、「本当はやりたいことがあったのに、我慢して家業を継いだのだから、ほかの相続人と平等に遺産分割するのは納得ができない」と、家業を継いだ相続人が主張して揉めるケースもあります。

相続人以外が参加した場合

相続人同士で行う遺産分割協議ですら、揉める可能性があるのに、そこに相続人以外の第三者が加わることで、遺産分割協議の合意が難航することがあります。
よくあるのが、相続人の配偶者や子が、自分は相続人ではないにもかかわらず、遺産分割に口を挟むことで、協議を複雑にしてしまうケースです。

ご自身は相続人ではなくても、家族に関することなので、口を出したくなるお気持ちはわかりますが、当事者である相続人同士に任せる方が、円滑な遺産分割の近道といえるかもしれません。

遺産の分割方法

ここからは、具体的な遺産の分割方法についてご紹介します。
預貯金のように、比較的単純に分割が可能な遺産もあれば、不動産のように分割が困難な遺産もあります。

遺産の種類や、それぞれのご事情に合わせて、最適な方法を選択できるよう、ご参考ください。

現物分割

現物分割とは、その名の通り、遺産をそのままのかたちで分割する方法です。
遺産分割方法の中で、もっとも簡易な方法ですが、遺産価値に差が生じやすく、公平な分割を行うことが難しいというデメリットもあります。

《例》
被相続人の遺産は、不動産と預貯金、自動車です
これを、各相続人が、遺産を現物のまま、それぞれ相続する方法です
●不動産=配偶者
●預貯金=長男
●自動車=次男

代償分割

代償分割とは、遺産を取得した相続人が、ほかの相続人に対して、相応分の代償金を支払う分割方法です。

遺産をそのまま残せるほか、相続人全員へ公平に分配できる一方で、代償金を支払うことになる相続人の金銭的な負担が大きく、代償金を算出するにあたり、遺産の評価方法で揉める可能性があるなどの、デメリットがあります。

《例》
被相続人の遺産が、評価額1000万円の不動産だけの相続において
長男が不動産を取得し、次男へ法定相続分の代償金を支払うという方法です
●長男=不動産(1000万円)取得 ➡ 次男へ代償金(500万円)を支払う
●次男=長男から代償金(500万円)を受け取る

換価分割

換価分割とは、遺産を売却して得た現金を、相続人同士で分割する方法です。
1円単位まで公平に分割できて、かつ、遺産を管理する維持費がかからないなどの負担軽減になることから、不満がでにくいメリットがあります。

ただし、遺産をそのまま手元に残せない、遺産を処分するための費用がかかる、売却して換価するまでに時間がかかるといったデメリットもあります。

《例》
被相続人の遺産が、不動産だけの相続において、不動産を売却して得た現金1000万円を
相続人である配偶者、長男、次男が、それぞれ法定相続分に従って分割する方法です
●配偶者=500万円(2分の1)
●長男=250万円(4分の1)
●次男=250万円(4分の1)

共有分割

共有分割とは、遺産を「誰のもの」と特定せずに、複数の相続人で、それぞれの相続分に応じて共有する分割方法です。
遺産分割協議で意見が一致せず、解決までに時間をようする場合に、暫定的に遺産を共有して相続税の申告・納税をするようなケースがあります。

ただし、共有している相続人全員の合意がなければ、遺産の処分ができず、時間が経つことで、数次相続が発生し、疎遠な相続人が増えると共有を解消するのも難しくなることが想定されるため、あまりおすすめの方法ではありません。

《例》
被相続人の遺産である不動産を、誰が取得するのか、話し合いが難航していて
相続税申告・納税の期限が迫っているため、ひとまず相続人全員で、法定相続分ずつを
共有分割する方法です
●配偶者:法定相続分2分の1を取得(登記)
●長男:法定相続分4分の1を取得(登記)
●次男:法定相続分4分の1を取得(登記)

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遺産分割協議に期限はある?

2023年2月現在、遺産分割協議において、いつまでに終わらせるといった期限はありません。

ですが、相続の手続きにあたって、期限が設けられているものがあるほか、遺産分割協議の期限を、相続から最長10年と設定することも検討されているため、その時になって慌てないように、なるべくはやめに遺産分割協議を行うようにしましょう。

遺産分割協議をしないで放っておいたらどうなる?

遺産分割協議を行わず、放置してしまうと、以下のリスクが生じます。
なるべく放置せず、すみやかに遺産分割協議を行うようにしましょう。

《遺産分割協議を放置するリスク》

  • 遺産の利用や、売却することができない
  • 借金の利息や遺産の管理費用など、相続財産の管理維持に要する費用を誰が負担するのかが宙ぶらりんの状態になる
  • 不動産の管理者が定まらないまま管理を怠った結果、誰かに損害を与えた場合に、管理責任を問われる
  • 相続人が亡くなって、新たな相続が発生(数次相続)して、相続の関係が複雑になる

遺産分割協議のやり直しが必要になるケース

遺産分割協議のやり直しが必要になるケースとして、遺産分割協議が無効となった場合のほかにも、以下のようなケースがあり、それぞれ対応が必要となります。

《遺産分割協議のやり直しが必要となるケース》

  • 遺産分割後に、新たな遺産が発覚した
    新たに見つかった遺産だけを、遺産分割協議で配分を決めることもできますが、
    状況によっては、すでに分割した遺産についても、協議のやり直しが必要となります。
  • 遺産分割後に、遺言書が見つかった
    遺言書の内容をふまえたうえで、相続人全員が納得すれば協議のやり直しは必要ありません。

ただし、遺言によって相続人以外の人(受遺者)が遺産を取得したり、遺言執行者が指定されているような場合、一部の相続人が相続排除されている場合は、協議のやり直しが必要です。

遺産分割協議に応じてもらえない場合にできること

遺産分割協議に参加しない(できない)相続人がいる、または、相続人全員で合意に至らない場合には、弁護士などの専門家が間に入る方法と、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる方法があります。

調停では、調停委員に間に入ってもらって、相続人全員の合意に向けて話し合いを行うことになります。
調停でも解決しない場合は、自動的に審判へと移り、家庭裁判所で決定された内容に従って、相続を行うことになります。

そもそも遺産分割協議が必要ない場合

遺言書がある場合

被相続人が作成した、法的に有効な遺言書がある場合、遺産分割協議を行う必要がありません。

「誰に、なにを、どれだけ取得させるか」
詳しく指定されていれば、遺言通りに、相続を行うことになります。

ただし、相続人や受遺者、遺言執行者など、遺言にかかわる全員の合意があれば、遺言書とは異なった内容で遺産分割を行うことも可能です。

法定相続人が一人しかいない場合

遺産分割協議は、複数の相続人がいる場合に必要な、相続人同士の話し合いです。

そのため、そもそも法定相続人が一人しかいない場合には、話し合う必要がないため、遺産分割協議は必要ありません。

遺産分割協議のお悩みは弁護士にご相談ください

「自分の家族は大丈夫だと思ったのに」
仲のよいご家族でも、遺産分割協議が難航するケースは少なくありません。
遺産分割協議で、全員が合意できなければ、その後の手続きが進まなくなってしまいます。

相続の手続きの中には期限が決められているものもあって、期限を超過するとペナルティが発生するものもあります。
相続で後悔する前に、弁護士などの専門家を間に入れて、解決を目指しませんか?

万が一調停や審判に移行した際に、弁護士であれば代理人となって、ご依頼者様の負担を軽くすることも可能です。
遺産分割協議や相続にお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
広島県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。