
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
亡くなった人(被相続人)の遺産を相続人で分割する方法は、以下のようにいくつかあります。
- 被相続人が残した遺言に従う方法(遺贈)
- 民法で定められた内容に従う方法(法定相続)
- 相続人全員で、遺産分割について話し合い、合意した内容で行う方法(遺産分割協議)
遺産分割において、難航しがちなのが遺産分割協議です。
相続人全員が参加し、全員の合意がなければ、遺産分割協議は成立しません。
もしも相続人の間で意見がわかれてしまったら?そもそも相続人全員が参加しなかったら?
今回は、そんな時に利用できる「遺産分割調停」についてご紹介していきます。
Contents
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、遺産分割協議が成立しない場合に、協議の場を家庭裁判所へ移し、調停委員会が相続人の間に入って、相続人全員が納得できる遺産分割に向けて話し合う方法です。
相続人のうちのひとり、もしくは何人かが申立人となり、ほかの相続人全員を相手方として、調停を申し立てることになります。
「相続人同士で話し合って解決しないのに、また話し合いをするの?」
と、思われるかもしれませんが、調停では、実際に相続人同士が顔を合わせて話し合うわけではなく、調停委員が申立人と相手方、それぞれから意向を聞いて、解決案の提案や助言をすることで、当事者同士ではかなわなかった、話し合いによる解決が可能になるケースがあります。
実際、裁判所の司法統計によると、2022年の遺産分割事件では、全体の約40%が、調停による遺産分割が成立したことになっています。
遺産分割調停の流れ
ここからは、遺産分割調停の流れについて、申立てから解決までを、具体的にみていきましょう。
必要書類を集める
まずは、申立てに必要な書類を集めます。
以下で紹介する、標準的な必要書類のほか、被相続人と相続人の関係や、遺産の状況によって、追加で必要になる書類もあります。
《申立てに必要な書類》
- ①申立書(1通)
家庭裁判所にて取得できます
※家庭裁判所のホームページからも取得できます(こちらから) - ②申立書の写し(相手方の人数分)
- ③標準的な申立添付書類
- 被相続人の、生まれてから亡くなるまでの、すべての戸籍謄本
その当時、本籍地のある市区町村役場にて取得できます - 相続人全員の戸籍謄本
本籍地のある市区町村役場にて取得できます - 相続人全員の住民票、または戸籍の附票
住所地の市区町村役場で取得できます - 遺産に関する証明書
- 不動産登記事項証明書、および固定資産評価証明書
法務局、および市区町村役場にて取得できます - 預貯金通帳の写し、または残高証明書
各金融機関にて取得できます
など
- 不動産登記事項証明書、および固定資産評価証明書
- 被相続人の子、およびその代襲者の、生まれてから亡くなるまでの、すべての戸籍謄本
その当時、本籍地のある市区町村役場にて取得できます
※被相続人の子、およびその代襲者で、亡くなっている方がいる場合のみ
- 被相続人の、生まれてから亡くなるまでの、すべての戸籍謄本
相続人全員の住所が必要なことに注意が必要
遺産分割調停は、相続人全員が参加する必要があります。
そのため、所在の確定できない相続人(行方不明の人)がいる場合、申立書が受理されません。
この場合、遺産分割調停の前に、「不在者財産管理人の選任」という手続きが必要になります。
この手続きによって選任された人が、行方不明の人の財産を管理することとなり、調停に参加できるようになります。
もしも、7年以上、生死すら不明な場合には裁判所に「失踪宣告」の申立てをする方法もあります。裁判所から失踪宣告が出されるとその相続人は法律上死亡したものとみなされます。
未成年・認知症の相続人がいる場合は代理人が必要
相続人の中に、未成年者や、認知症の人など、判断能力に問題のある人がいる場合、それぞれ代理人が必要になります。
- 未成年者の代理人
①親権者(一般的には父母)
相続人の中に、親権者が含まれない場合、親権者が「法定代理人」となります
②特別代理人
親権者が、未成年者同様に相続人の場合は、親権者に代わって、未成年者の代理人となって
手続きに参加する「特別代理人」の選任手続きが必要です
③未成年後見人
未成年者に親権者がいない場合、親権者に代わって、未成年者の監護養育・財産管理・法律行為を行う「未成年後見人」の選任手続きが必要です - 認知症や精神障害の人の代理人
判断能力に問題のある人を補助する「成年後見人(保佐人、補助人)」の選任手続きが 必要です
管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
申立ての準備が整ったら、家庭裁判所に、遺産分割調停の申立てを行いましょう。
●申立人
相続人や、包括受遺者(遺言で割合を指定して、遺産を取得する人)など
●書類の提出先(調停申立先)
- 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(調べ方はこちらへ)
- 当事者が合意で定めた家庭裁判所
●書類の提出方法
- 家庭裁判所の窓口に直接提出する
- 家庭裁判所が遠方の場合は、郵送による提出も可能
申立てにかかる費用
遺産分割調停の申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
●収入印紙
被相続人1名につき、1200円
●郵便切手
各相続人に通知するために必要です。
各家庭裁判所によって、必要金額が異なりますので、事前にお問い合わせください。
ホームページで金額を案内している場合もあります。
2週間程度で家庭裁判所から呼出状が届く
遺産分割調停の申立てが受理されると、申立てからおおよそ2週間ほどで、家庭裁判所から、申立人と相手方の全員に呼出状が届きます。
呼出状には、遺産分割調停が行われることと、第1回期日の日時、場所などが記載されています。
調停での話し合い
第1回の調停では、裁判官1名と、調停委員2名以上で構成される調停委員会のもと、申立人と相手方の当事者全員が同席して説明が行われますが、基本的には、それぞれ別の待合室で待機をしていて、申立人と相手方、ひとりずつ交互に調停室へ呼ばれ、調停委員にご自身の希望を伝えます。
※通常の期日では、裁判官は同席しません
多くの場合、第1回の調停で話し合いがまとまることはなく、第2回、第3回・・・と、成立(合意)を目指して、繰り返し調停が行われます。
調停成立
調停で話し合いがまとまれば、調停成立となります。
調停調書に記載される合意の内容は、当事者全員の前で読み上げられます。
内容に誤りがないか全員で確認のうえ、家庭裁判所で調停調書が作成されます。
調停調書には、法的な効力があるため、決定された内容に背くことはできません。
調整調書をもとに、決定された内容を、強制的に実現させることも可能になります。
成立しなければ審判に移行する
調停で話し合いを行っても、全員の同意が得られない場合、遺産分割調停はまず不成立となって、調停委員会の判断で、自動的に審判に移行します。
調停の申立てを取り下げないかぎりは、そのまま審判へ移行するため、改めて申立ての手続きは必要ありません。
審判では、申立人と相手方それぞれの主張や、これまでの調停の内容を考慮して、裁判官が法的な観点から、遺産分割の方法を決定します。
決定後に届く、審判書に従って、相続の手続きを行うことになります。
審判の結果には、強制力があるため、望まない結果でも従わなければなりません。
調停不成立と判断されるタイミング
調停が不成立と判断されるタイミングですが、「●回目までに合意に至らなければ不成立」のように、調停回数によって限度が決められているわけではありません。
調停委員会が「このまま調停を続けても、全員の合意が得られる見込みがない」と判断したタイミングで、不成立となります。
ほかにも、相手方が調停に複数回出席しなければ、調停を続ける意味がないとして、不成立と判断されるケースもあります。
遺産分割調停にかかる期間
遺産分割調停は、1~2ヶ月に1回のペースで、平日の日中に行われます。
申立人と相手方が交互に調停委員に話をするので、1回の調停にかかる時間は、おおよそ1~2時間程度です。
遺産分割調停にかかる期間は、おおよそ2年以内です。
裁判所の司法統計によると、2022年の遺産分割事件では、全体の約30%が6ヶ月以内、全体の半数以上である約60%が1年以内、全体の約90%が2年以内に終了しています。
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遺産分割調停のメリット
同じ話し合いでも、遺産分割調停を行うことで、当事者間の合意が得られやすくなります。 ここでは、遺産分割協議のメリットをご紹介します。
冷静に話合いを行うことができる
当事者同士、直接話し合いをすると、どうしても感情的になってしまいます。 遺産分割調停では、調停委員が間に入ることで、ご自身の希望を冷静に主張することが可能になります。
ほかにも、調停委員からアドバイスを提示してもらうことで、当事者間では困難だった話合いがまとまるケースが多くあります。
遺産分割を進めることができる
当事者だけで行う遺産分割協議では、合意に至るまで、延々と話し合いを行うことになりますが、遺産分割調停を申立てることで、最終的に結論が出せるのが、最大のメリットといえます。
たとえ調停が不成立でも、その後、審判に移行すれば、希望の内容ではないかもしれませんが、遺産分割について、最終的には解決することができます。 協議や調停に参加しない相続人がいたとしても、審判で決定された内容に従わざるを得なくなるため、解決に向けて進めることができます。
遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停のメリットがある一方で、デメリットもあります。
遺産分割調停を申し立てる際には、以下にご紹介する点を、ぜひご承知おきください。
希望通りの結果になるとは限らない
遺産分割調停は、あくまで話し合いによって解決をはかります。
どちらか一方に偏った、不公平な結果になることはありませんが、100%希望が通るとは限りません。
ゆずれない部分を主張しつつ、ゆずれる部分は譲歩するなど、柔軟に、ゆずり合うことが大切です。
長期化する恐れがある
遺産分割調停は、平日の日中、1~2ヶ月に1回のペースで行われます。
そのため、調停の回数を重ねるほど、解決までに時間を要します。
多くのケースでは、調停期間は半年から1年程度となっていますが、事案によっては、2年以上かかることもあります。
基本的に法定相続分の主張しかできない
遺産分割協議であれば、法定相続分に縛られず、自由に遺産分割方法を決められます。
ですが、遺産分割調停は、あくまで裁判所における手続きとなるため、基本的に、法定相続分に基づいて、公平に分割となることが一般的です。
遺産分割調停で取り扱えないもの
遺産分割調停では、原則、遺産に含まれる財産の分割方法についての話し合いを行います。
そのため、以下の問題については、別途手続きが必要となりますので、ご注意ください。
●使途不明金がある
被相続人の預貯金から多額の引き出しがあり、相続人による使い込みが疑われる使途不明金は被相続人の財産から離れた財産として、原則、遺産に含まれません。
不法行為に基づく損害賠償請求」または「不当利得返還請求」を、別途民事で争うことになります。
●遺言書の効力
遺言書の効力が無効だと主張があって、相続人間で争いがある場合、遺言の無効を確認するために「遺言無効確認」を、別途民事で争うことになります。
●相続人の範囲
被相続人との養子縁組や結婚について、無効だと主張する場合、「養子縁組無効」や「婚姻無効」を人事訴訟という裁判で、別途争うことになります。
●遺産の範囲
所有者について争いのある財産がある場合、「遺産確認の訴え」を、別途民事で争うことになります。
遺産分割調停を欠席したい場合
遺産分割調停は、家庭裁判所の開いている、平日の日中に行われます。
平日の夜や、土・日曜日、祝祭日に、調停を行うことができません。
仕事などで都合がつかない場合、事前に家庭裁判所に、指定された期日に出席できないことと、いつなら出席可能なのかを連絡しましょう。
ただし、必ず認められるわけではないので、どうしても出席できない場合には欠席することも可能です。
欠席する場合、十分な主張ができず、不利な結果になる可能性があります。
また、欠席が続くと、話し合う気がないとみなされ、調停不成立となって、審判に移行してしまうリスクもあるので、注意が必要です。
《毎回出席することが難しい場合》
家庭裁判所が遠方だったり、高齢・病気などの理由で、出席が困難な事情がある場合は、
電話会議システムの利用、または代理人(一般的に弁護士)の選任を検討しましょう。
遺産分割調停の呼び出しを無視する相続人がいる場合
遺産分割調停の呼び出しを、何度も無視する相続人がいる場合、話し合う気がなく、解決が困難として、調停不成立となり、審判に移行することになります。
審判では、呼び出しを無視する相続人がいても、裁判所より強制的に結果が下されます。
もっとも、正当な事由がなく欠席すると、裁判所の規定によって、5万円以下の過料に科されるおそれがあります。
遺産分割調停は弁護士にお任せください
遺産分割調停では、ご自身の希望をただ主張するのではなく、法的な根拠に基づいた主張をすることが、調停を有効に進めるポイントとなります。
調停をご自身で進めることも可能ですが、より確実に、有利な結果を求めるのであれば、法律の専門家である弁護士にお任せください。
調停申立ての手続きから、調停へ出席して、法律に基づいた主張の代弁が可能です。
調停への出席が困難な場合には、代理人として、弁護士のみが出席することもできます。
労力や時間はもちろん、精神的な負担が少しでも軽くなるように、ご依頼者様の味方となって、円滑な遺産分割を行えるよう、弁護士がお力になれるかと存じます。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)