監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
家族が立て続けに亡くなってしまった場合や、遺産の分け方についての話し合いが長引いてしまった場合等には、最初の相続における相続人が亡くなってしまい、数次相続が発生することがあります。
新たな相続が発生することにより、相続人が増えてしまうだけでなく、関係が希薄だった親族が相続人として相続関係に加わることもあるため、話し合いがまとまりにくくなってしまいます。
この記事では、数次相続の具体例や代襲相続などとの違い、相続手続き、注意点等について解説します。
Contents
数次相続とは
数次相続とは、相続発生後、遺産分割協議が終わらないうちに相続人が亡くなって、新たな相続が発生することをいいます。
最初に発生した相続を一次相続、次に発生した相続を二次相続といいます。
二次相続の協議に時間がかかると、さらに相続が発生するケースもあります。
この新たな相続を三次相続といいます。
理論上は、どこまでも新たに相続が発生するおそれがあるため、相続人の数も増え続けるリスクがあります。相続人が増えると話し合いが難しくなり、解決は困難になっていきます。
数次相続の具体例
数次相続の具体例として、主に以下のようなケースが挙げられます。
- 高齢の夫婦がおり、夫が亡くなって妻と子が相続人となった後で、すぐに妻も亡くなった
- 被相続人が亡くなって長男と二男が相続人となった後で、すぐに長男が亡くなり、長男の妻と長男の子が相続人になった
- 被相続人が亡くなって長男と長女が相続人となったが、仲が悪いため遺産分割協議を行わないまま数年が経過したところ、長男が亡くなって、長男の妻と長男の子が相続人になった
- 長男、長女、二男、二女の兄弟姉妹が互いに相続人となる関係であり、長男が亡くなった後で、すぐに長女も亡くなった
数次相続はどこまで連鎖する?
数次相続は限度なく続くため、遺産分割協議を成立させないとどこまでも連鎖します。
そのため、早く遺産分割協議をして解決しなければ、新たな相続人が次々と現れて複雑化してしまいます。
代襲相続と数次相続の違い
代襲相続と数次相続は、相続の発生するタイミングが違います。
代襲相続は、相続する予定であった者が、被相続人よりも先に亡くなることで生じます。結果として、相続する予定であった者の子が代わりに相続することになります。
数次相続では、相続人への相続が発生した後で相続人が亡くなることで生じます。
なお、代襲相続と数次相続は同時に発生することもあります。このようなケースでは、誰が相続人なのかが分かりにくくなるため、より複雑になってしまいます。
代襲相続について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
代襲相続とは相次相続と数次相続の違い
相次相続と数次相続の違いは、相続人が亡くなったのが相続税申告・納付を終えた後かどうかにあります。
数次相続は相続税申告前に相続人が亡くなり、新たな相続が発生することであるのに対し、相次相続は相続税申告・納付を終えた後に次の相続が発生することです。
相続が発生してから10年以内に新たな相続が発生した場合にはいくつかの要件を満たせば、納付すべき相続税から一定額を差し引くことのできる「相次相続控除」を使用できます。
これは同じ財産に対する短期間での二重課税を防ぐためです。
数次相続の場合の相続手続き
数次相続であっても、相続手続きの流れは一般的な相続と変わりませんが、注意するべき点があります。
数次相続における相続手続きの流れを、次項より解説します。
相続人を確定させる
数次相続の場合には、一次相続と二次相続の相続人が誰なのか、それぞれ確定させる必要があります。
三次相続以降の相続が発生していれば、それらの相続人も確定させなければなりません。
例えば、父親が亡くなって母親と長男、二男が相続し、すぐに長男が亡くなって長男の妻と長男の子が相続した場合、一次相続の相続人は母親、長男、二男であり、二次相続の相続人は長男の妻、長男の子となります。
遺産分割協議を行う
数次相続の遺産分割協議では、一次相続の相続人だけでなく、二次相続以降の相続人もすべて参加して話し合いを行います。
なお、二次相続の相続人の基本的な取り分は、亡くなった一次相続の相続人の取り分を二次相続の相続人全員で分けることになります。
遺産分割協議書を作成する
数次相続の遺産分割協議書は、すべての相続をまとめて作成する方法と、それぞれの相続について分けて作成する方法があります。
どちらの方法を用いても問題ありませんが、一次相続と二次相続の相続人がほとんど同じであるケース等では、まとめて作成しても混乱しにくいです。例えば、両親が相次いで亡くなって、子が相続人になるケースでは、まとめてしまっても良いでしょう。
一方で、一次相続と二次相続の相続人が完全に異なっているケース等では混乱しやすいため、分けて作成することをおすすめします。
数次相続における登記手続き
不動産について数次相続が発生した際に、不動産の所有権登記を当初の名義人つまり被相続人の名義からいきなり最後の名義人に変更することは、基本的に認められていません。
登記は、不動産の所有者の移り変わりを正確に反映することが求められているため、まずは一次相続の登記を行い、その後は相続した順番通りに、二次相続、三次相続・・最終相続と登記を行う必要があります。
ただし、一次相続から最終の相続までの中間の相続人が1名の場合には、中間の相続登記を省略して、被相続人の名義からいきなり最後の相続人の名義に変更して相続登記を行うことが認められています。これを「中間省略登記」といいます。
相続登記には期限があり、3年以内に行わなければならないため、放置しないように注意しましょう。
数次相続において相続放棄する場合
数次相続の場合、二次相続の相続人は相続放棄することができます。
ただし、一次相続と二次相続について、相続放棄できる組み合わせには制限があります。
以下のような数次相続の事例について考えます。
- 一次相続:祖父が亡くなって、父親が1人で相続した
- 二次相続:遺産分割協議をする前に父親が亡くなって、子が1人で相続した
- 相続財産:祖父は借金2000万円、父親は1000万円相当の不動産
上記のような事例で、子が祖父と父親の相続財産を単純承認すると、不動産を売却しても借金1000万円が残ってしまう結果となります。
この場合、子は一次相続を放棄して、二次相続を単純承認することが可能です。
また、父親の不動産を相続したくない事情があれば、一次相続と二次相続の両方を相続放棄することも可能です。
一方、子は一次相続を単純承認して、二次相続を相続放棄することはできません。父親の相続を放棄した時点で、祖父の相続権を失っているからです。
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数次相続の注意点
基礎控除額に変更なし
数次相続によって相続人が増えたとしても、相続税の基礎控除額に影響はありません。
相続税の基礎控除額は、以下のような式によって計算します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
この式における「法定相続人の数」は、相続が開始したときを基準とします。そのため、後で二次相続が発生し、相続人が増えたとしても、基礎控除額が増額することはありません。
なお、代襲相続の場合には、相続が発生したときに相続する予定だった者は亡くなっており、その者の子が代わりに相続するため、基礎控除額に影響を及ぼす場合があります。
相続税の申告と納税義務が引き継がれる
一次相続の相続人が相続税の申告や納税をしていなかった場合、申告と納税の義務は二次相続の相続人に引き継がれます。
相続税の申告期限は延長になる
数次相続が発生すると、相続税の申告期限が延長されることがあります。
相続税の申告期限は、自己のための相続が開始されたことを知ってから10ヶ月です。
この期限までに、相続税を申告しないままで二次相続が発生したケースでは、新たな相続人の申告期限は、二次相続が開始されたことを知ってから10ヶ月となります。
なお、一次相続の相続人が、二次相続の被相続人以外にもいたケースでは、その相続人の申告期限は延長されないため注意しましょう。
相次相続控除が受けられる
相次相続とは、以下の要件を満たした相続です。
- 相続発生(一次相続)から10年以内に相続人が亡くなり、新たな相続(二次相続)が発生した
- 二次相続の被相続人が、一次相続で相続財産を取得した
- 二次相続の被相続人が一次相続の相続税を納めた
これらの要件を満たすと、二次相続の相続人は相次相続控除を受けて、二次相続についての相続税が一定額控除されます。この控除は、短期間で相続税を複数回納めることによる税負担を軽くするために設けられています。
相続税は高額になることがあるため、両親が立て続けに亡くなってしまったケース等では、忘れずに控除を申請しましょう。
数次相続は複雑なので弁護士にご相談ください
数次相続が発生すると、相続人が誰なのかが分かりにくくなります。
一次相続と二次相続で共通する相続人と、それぞれについてだけの相続人がいると、法定相続分についても混乱しがちです。
また、相続人が増えることによって、自身の取り分について強く主張する相続人が現れやすくなる等、遺産分割協議がまとまらない原因となるおそれもあります。
数次相続が発生してしまった場合には、弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、相続人や法定相続分を整理して、理不尽に思えるような主張をしている相続人を説得するためのサポートをすることができます。
どうしても話し合いがまとまらないときには、弁護士に丸投げして解決してもらう方法もあります。協議がこじれそうな場合には、なるべく早くご相談ください。

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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
