監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
未成年の子供がいる夫婦が離婚する際に、争いが生じやすい事柄の中に、親権と監護権があります。
親権はよく耳にされると思いますが、監護権をご存じの方は少ないのではないでしょうか?
この監護権は、親権の一部で、親権者が親権と監護権の両方を行使することが一般的です。
しかし、ごくまれに、親権から監護権を切り離して、父母で分担することがあります。
あまり聞きなれない監護権とはどのような権利・義務なのでしょうか?
親権との違いや、親権と監護権を分けるメリット・デメリット、具体的な手続き方法について、詳しくみていきましょう。
Contents
監護権とは
監護権とは、親権に含まれる権利・義務のうち、「身上監護権」のことを示します。
身上監護権とは、未成年の子供と一緒に暮らして、日常的な世話や教育をする権利・義務のことで、親権と切り離し、監護権だけを有する者を「監護者」と呼びます。
親権を獲得できなくても、監護者であれば、未成年の子供と一緒に暮らすことが可能になります。
同時に、一緒に暮らす子供の身の回りの世話や教育をする権利・義務が生じるため、この義務を怠ると、罰則が科されるおそれがあるので、安易に取り決めることのないよう、ご注意ください。
親権と監護権の違い
親権は、身上監護権と財産管理権の2つで構成されています。
そのため、親権と監護権を切り離した場合、親権を有する親権者は、財産管理権のみを行使することになります。
具体的には、未成年の子供の財産管理や、子供の法律行為の代理人となることができます。
その一方で、親権と切り離された監護権を有する監護者は、身上監護権のみを行使することができます。
親権者は、子供と同居することも、日常的な世話をすることもできませんが、監護者は財産管理権を有さないため、子供がアルバイトやスマートフォンの契約を締結する場合、かならず親権者の同意が必要となります。
身上監護権の内訳
親権と切り離されることのある監護権=身上監護権は、次のような権利で構成されています。
身分行為の代理権・同意権
未成年の子供の、身分上の行為に関して、子供を代理して、あるいは同意をもって、手続きを行う権利です。
たとえば、未成年の子供が養子縁組をする場合、監護権を有する者の同意が必要です。
また、未成年の子供が相続人となった場合には、監護権を有する者が代理で承認・放棄することが可能なことがあります。
居所指定権
子供の住む場所を指定する権利です。
通常は子供と同居することになりますが、子供の年齢や学業などの事情で別居する場合、その場所を定める必要があります。
この権利によって、親権者でなくとも、離婚後に子供と同居することが可能になります。
懲戒権
わかりやすく言うと、子供をしつける権利のことです。
未成年の子供に非行などの行為がある場合に、子供を監護・教育するために必要な範囲で、注意や、代償を与えることができるとされていました。
しかし、近年、児童虐待を正当化する口実ではないかという指摘もあり、2022年12月16日の法改正後、懲戒権に関する規定は削除されました。
代わって、子供の人格を尊重し、子供の年齢や発達の程度に配慮し、心身の健全な発達に悪影響を及ぼす体罰や言動を禁止する条文が新設されました。
職業許可権
未成年の子供が、アルバイトなどの職業に就く場合に、その許可をすることができる権利です。
就労の許可だけでなく、その範囲を制限することや、必要に応じて許可を取り消すことも可能です。
親権者と監護権者 を分けるメリット・デメリット
法律上、親権から監護権を切り離せるとはいえ、メリットとデメリットがあります。
安易に決めてしまうと、後々トラブルとなるおそれがあるため、メリットとデメリット、それぞれを知った上で、監護権を切り離すかどうかを判断するご参考になれば幸いです。
メリット
まず、親権と監護権を分けるメリットをみてみましょう。
- 親権や離婚の争いについて、早期解決が見込める
父母が互いに親権をゆずらないケースでは、争いが長期に及び、争いが長引くほど、子供に悪影響を及ぼす恐れがあります。
親権と監護権を分担することで、合意が成立しやすくなる可能性があります。 - 子供との関係性を保てる
監護権を取得できなかった場合、子供と同居することはできませんが、親権を有していることで、子供とつながっているという安心感を得ることができます。 - 養育費が未払いになるリスクが少なくなる
多くの場合、子供と離れて暮らす親(義務者)は、子供に養育費を支払うことになります。
義務者が親権を有している場合、その自覚から、継続的な養育費の支払いが期待できます。
デメリット
親権と監護権を分けてしまうと、父母間で連絡を取り合わなければない煩わしさが、最大のデメリットではないでしょうか。
そのほか、具体的にみてみましょう。
- 親権者の同意が、都度必要になる
未成年の子供の財産に関する手続き(銀行口座の開設やスマートフォンの契約など)には、かならず親権者の同意が必要です。
子供に危険が及ぶ場面でも、親権者の同意が必要となると、即時の対応ができないおそれがあります。 - 15歳未満の子供が養子縁組をする場合、親権者の承諾が必要になる
監護者が再婚し、子供と再婚相手が養子縁組をする場合には、親権者の承諾が必要です。
子供と疎遠になることをおそれ、応じてもらえないリスクがあります。 - 監護者であることは、戸籍に記載されない
監護権についての取り決めを、なんらかの書面で残しておかなければ、
監護者であることを証明することが困難となり、トラブルが生じるおそれがあります。
親権と監護権を分ける手続き
親権と監護権を分けるためには、まず、当事者である父母の間で話し合いをする必要があります。
父母間で合意できた場合、離婚協議書や合意書を作成し、取り決めた監護権について記載しておきましょう。
当事者間の話し合いで解決できない場合は、裁判所の手続き(調停や審判)を利用して、取り決めることもできます。
ただし、裁判所は、デメリットが大きいとして親権と監護権を分けることに消極的で、裁判所の手続きにおいて、監護権を分離するという判断がなされることは、ほとんどありません。
監護権をとるために必要なこと
監護権を獲得するためには、ご自身が監護者となることが、子供の幸せ(福祉・利益)になることを証明する必要があります。
例えば、次のような要素があると、監護権獲得が有利になる可能性があります。
- 子供との関係が良好であること
- これまで積極的に子育てに関わってきたこと
- 離婚後も子供が健全に成長できる環境が整っていること
- ご自身の経済力や、心身の健康状態に問題がないこと
- 離婚後の面会交流に積極的であること
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監護を怠った場合の罰則
監護者が、未成年の子供の監護を怠ると、「保護責任者遺棄罪」や「児童虐待防止法違反」という犯罪が成立するおそれがあります。
監護権は、監護者の権利であり義務です。
そのため、子供を長い間放置して出かける、食事を与えない、暴力を加える、罵倒するといった行為は、犯罪行為として罰せられる可能性があります。
一度決めた監護権は変更できる?
一度取り決めた監護権は、変更することが可能です。
親権は、当事者である父母の合意があったとしても、家庭裁判所の手続きを経なければ変更することができませんが、監護権は、父母間の話し合いで合意が成立すれば、自由に変更することも可能です。
もしも当事者間で合意できなければ、家庭裁判所の手続き(調停や審判)を利用して、監護権の変更について取り決めることができます。
もっとも、監護者が変わることは、子供に負担をかけることになりかねませんので、慎重にご検討ください。
監護権に関するQ&A
親権者と監護権者を分けた場合、親権者に養育費を請求することはできますか?
結論から申し上げますと、監護者は親権者に対して、養育費を請求することが可能です。
離婚後も、未成年の子供の親であることに変わりありません。
親は、未成年の子供を扶養する義務を負い、養育費を支払うことになります。
これは、親権者、非親権者、どちらも同様です。
つまり、子供を監護している親=監護者は、子供を監護するために必要な養育費を、もう一方の親に対して請求することができるのです。
監護権の侵害とはどんなことをいいますか?
監護権の侵害とは、監護者のもとから、一方的に子供を奪い去る行為のことです。
一般的には、次で挙げるような行為が、監護権侵害に当たるとされています。
- 相当な理由なく、配偶者に無断で、子供を連れて別居した
- 監護者と指定された親から、無断で子供を連れ去り、帰さない
- 面会交流が終了しても、監護者のもとに子供を帰さない
祖父母でも監護権を獲得できますか?
原則として、監護権を獲得できるのは、未成年の子供の父親または母親です。
ですが、父母の双方が子供に関心がなく、父母に代わって祖父母が子供の監護を行っているようなケースでは、子供の幸せ(福祉・利益)を優先する観点から、祖父母が監護者として指定される可能性はあります。
とはいえ、父母が監護者としてふさわしくない事情があったとしても、第三者から監護権を求めて調停や審判を申し立てることは、現状認められていません。
監護権を証明する書類はあるのでしょうか?
監護者の指定を、家庭裁判所の手続き(調停や審判)において取り決めた場合は、裁判所で作成される「調停調書」や「審判書」によって、監護権を証明することが可能です。
ただし、当事者間で話し合って監護権の取り決めをした場合、戸籍に監護者指定の記載がされないため、注意が必要です。
この場合、離婚協議書や合意書に、監護権について取り決めた内容を記載して、証明できるようにしておきましょう。
離婚協議書や合意書は、法的な効力を持つ「公正証書」として作成しておくことをおすすめします。
監護権のみを持っている場合でも児童扶養手当をもらうことができますか?
親権と監護権を分けていて、監護権のみを有している場合でも、児童扶養手当を受給することが可能です。
児童扶養手当は、親権の有無に関係なく、子供を実際に監護している者に対して支払われます。
そのため、監護者であって、児童扶養手当の受給資格者の要件を満たしていれば、申請・受給することができます。
監護権についてわからないことは弁護士にご相談ください
父母の間で親権や離婚について争いが長引き、子供が不安を抱える状況が続くようなケースでは、折衷案として、当事者が納得できるように、親権と監護権をあえて分担することも有効な場合があります。
とはいえ、親権と監護権を分けることはリスクを伴います。
本来であれば、親権者ひとりで対処できることも、監護者の協力が必要となり、煩わしさを感じることも多いでしょう。
もしも監護権についてお悩みを抱えていらっしゃる場合は、一度弁護士にご相談ください。
夫婦、そして親子にとって最適な解決方法を、一緒に検討してみましょう。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)