
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
婚姻中は父母の双方が、未成年の子供の親権者(共同親権者)ですが、離婚をする際には、父母のどちらか一方を親権者(単独親権者)と定める必要があります。
離婚時に当事者間での話し合いや、裁判所の手続きにおいて親権者が決定した後に、親権者を変更することは可能なのでしょうか?
一度取り決めた親権者であっても、離婚後に変更できる可能性はあります。
今回は、離婚後に親権者を変更できるケースや、手続きの具体的な方法について、詳しく解説していきます。
親権者の変更についてお悩みの方の参考になれば幸いです。
Contents
離婚後に親権者を変更することはできる?
一度決めた親権者は、離婚後に変更できる可能性があります。
ただし、少なからず子供に影響を与えることから、親権者を変更することは容易でありません。
どのような事情であっても、たとえ父母の間で合意していたとしても、かならず裁判所の手続き(親権者変更調停・審判)を行わなければなりません。
これは、大人の都合で親権者を簡単に変更できてしまった場合、子供にとって非常に不利益となるためです。
親権変更が可能な場合とは
やむを得ない親の都合であっても、子供のためにならないと判断されると、親権者の変更はできません。
では、どのような場合に、親権者の変更が可能になるのでしょうか?
ポイントは「どちらが親権者であることが、子供の幸せ(福祉・利益)なのか」です。
《親権者の変更が可能なケース》
- 親権者による虐待や育児放棄がある
- 親権者の健康状態が悪化した、あるいは親権者が亡くなった
- 子供の養育環境が大きく変化した
- 子供自身が、親権者の変更を望んでいる
親権を変更する方法
離婚する際の親権者は、父母の話し合いだけでも決定することができましたが、親権者を変更する場合は、家庭裁判所の親権者変更調停(審判)といった、法的手続きを経る必要があります。
これは、親権者変更について父母間で合意できていた場合も同様です。
親権者変更調停とは
親権者変更調停とは、離婚時に定めた親権者の変更を求める手続きのことです。
調停では、子供の意向をはじめ、親権者変更を希望する事情や、父母それぞれの経済・生活状況、子供の養育状況などから、最適な取り決めに向けて、調停委員会を介して話し合いが進められます。
なお、親権者が行方不明の場合や亡くなっている場合は、調停を経ずに、いきなり審判を申し立てることが可能です。
親権者変更調停の手続き方法
親権者変更調停の手続きは、子供の親族(一般的には親権者の変更を希望する側の親)が、家庭裁判所に申し立てることで開始されます。
ここからは、調停を申し立てる手続きについて、具体的にみていきましょう。
申立てに必要な書類
調停の申立てに必要な書類は、次のとおりです。
なお、必要に応じて「送達場所等届出書」や「非開示の希望に関する申出書」を作成いただくほか、調停手続きに必要な追加書類を求められる場合があります。
書類 | 入手方法 | |
---|---|---|
申立人が 作成する書類 |
申立書、およびその写し |
裁判所 ダウンロードはこちらから |
当事者目録 | ||
事情説明書 | ||
進行に関する照会回答書 | ||
標準的な 申立添付書類 |
申立人の戸籍謄本(全部事項証明書) |
それぞれの本籍地を管轄する役所 ※同じ書類は1通で足ります ※取得後3ヶ月以内のもの |
相手方の戸籍謄本(全部事項証明書) | ||
未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書) |
申立てに必要な費用
調停の申立てに必要な費用は、次のとおりです。
申立てに必要な費用 | 収入印紙1200円分(未成年者1名につき) |
---|---|
連絡用の郵便切手 ※家庭裁判所によって必要額が異なります | |
戸籍謄本取得費用450円(1通につき) |
書類を提出したら調停期日の案内が届くのを待つ
必要な書類が揃ったら、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に提出(申立て)します。
なお、当事者間で合意できた家庭裁判所に申し立てることもできます。
申立て後、2週間ほどで、当事者双方に、第1回調停期日の日時が記載された通知書が届きます。
親権者変更調停の流れ
親権者変更調停を申し立てた後は、次の流れで手続きが進められます。
- ①申し立てた家庭裁判所より、初回の調停期日が決定され、申立人と相手方に、案内が通知されます
- ②申し立てた家庭裁判所にて、第1回調停期日が行われます(申立てからおおよそ1ヶ月先)
- ③第1回調停期日で合意できなかった場合、必要に応じて第2回以降の調停期日が設けられます
- ④合意できれば「調停成立」、合意できなければ「調停不成立」となって、調停が終了します
調停成立後の手続き
調停が成立した場合は、合意内容をもとに、裁判所で「調停調書」が作成されます。
調停で新たに親権者と認められた親は、調停が成立した日から10日以内に、ご自身の本籍地を管轄する市区町村役場へ必要書類を提出し、親権者変更の届出をすることになります。
《親権者変更の届出に必要な書類》
- 親権者変更の届出書
- 調停調書の謄本 ※裁判所に申請して取得する必要があります
- 父母と子、それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)
- 届出人の印鑑
調停が不成立になった場合
調停が不成立となった場合、自動的に審判手続きに移行されます。
審判手続きでは、調停での経緯や、調査官による調査内容など、一切の事情を考慮したうえで、子供のために親権者の変更が必要かどうか判断し、裁判官が決定を下します。
審判の結果に不服がある場合、即時抗告をすることも可能ですが、しばらく期間を置いてから、親権者変更の調停を再度申し立てる手段もあります。
親権者変更が認められる可能性が低い場合、親権者の変更を目指すのではなく、面会交流をより有利な条件で実現できるように相手方へ交渉するなど、ほかの方策も視野に入れるとよいでしょう。
《審判で親権者変更が認められた場合》
審判が確定した日から10日以内に、新たに親権者と認められた親が、市区町村役場に審判書謄本、 確定証明書、当事者の戸籍謄本などを提出し、親権者変更の届出を行うことになります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
親権者変更調停の申立て~成立にかかる期間
調停前より父母間の合意があって、親権者の変更が子供のためになると判断されるケースでは、第1回調停期日で成立することがあります。
この場合の、申立てから成立までにかかる期間は、約1ヶ月程度が一般的です。
一方、親権者の変更について、父母間で争いがある場合は、複数回の調停が行われることになります。
必要に応じて、家庭裁判所調査官による、当事者の面談や家庭訪問などの調査が実施されるケースもあり、個別の事情によって、結果が出るまでに要する期間は変動しますが、半年~1年程度かかることが少なくないようです。
親権者変更にあたって裁判所が重視していること
親権者の変更を検討するにあたり、裁判所が重視するのは「親権者の変更が子供のため(福祉・利益)になるかどうか」です。
子供の年齢・性別・性格や、心身の健康状態、生活環境が考慮されたうえで、子供自身の意思が大きなポイントとなります。
親権者を決める際、乳幼児には「母性有利の原則」が適用されるケースが多くありますが、親権者変更を検討する際には、あまり影響はないといわれます。
また、子供が15歳以上の場合、かならず子供の意思が確認され、尊重されます。
10歳以上であれば、ある程度判断能力があるとして、子供の意思が判断材料とされることもあります。
あわせて、次に挙げるような親側の事情も考慮され、子供を養育するに適しているかどうか、慎重に判断されます。
《親側の事情》
- 父母それぞれの経済力、生活環境、心身の健康状態
- 子供への愛情
- 現在の養育状況
- 親権者変更を求める動機
親権者の再婚相手と子供が養子縁組したあとでも親権変更できる?
結論から申し上げますと、法律上、養子縁組した子供の親権者を変更することは、非常に困難です。
本来、親権者の変更は「単独親権」からの変更を想定しています。
親権者の再婚による養子縁組によって、親権は実親と養親の「共同親権」となるため、非親権者が親権者の変更を求めても、否定されてしまうのです。
もしも親権者やその再婚相手によって、子供が虐待されているなどの特別な事情がある場合は、まず、家庭裁判所に親権喪失・停止を求める審判を申し立てましょう。
離婚後に親権者が死亡した場合、親権はどうなる?
離婚後に親権者が亡くなった場合、自動的に、もう一方の親が親権者になることはありません。
基本的には、親権者の代わりとなって、子供の法定代理人となる「未成年後見人」を選任する手続きが必要になります。
もしも、親権者が亡くなった後に、親権者の変更を希望するのであれば、親権者変更の審判を申し立てる必要があります。
とはいえ、必ず親権者の変更が認められるとはかぎりません。
親権者変更を求める親が、子供の親権を持つのにふさわしくないと判断されると、親権者の変更は認められず、選任された未成年後見人が親権を行使することになります。
親権者を祖父母に変更したい場合は?
親権は、子供の父母が有する権利・義務です。
そのため、親権者を祖父母に変更することは、原則できません。
ただし、祖父母と養子縁組をした場合、戸籍上、祖父母は「養親」となるため、親権を持つことが可能になります。
この場合、裁判所の許可は必要ありませんが、祖父母双方と共同で養子縁組する必要があり、場合によっては、現在の親権者や監護者の承諾が必要なことがあります。
親権者の変更を希望するなら弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます。
「はやく離婚を成立させたくて親権者になることを諦めたが後悔している」
「配偶者に子供を任せられない」
「親権者だけれど、健康状態が悪化して、子供を育てられなくなってしまった」
離婚後に親権者の変更を希望される理由は、それぞれ異なることでしょう。
ご自身のケースで親権者の変更が可能かどうか、お悩みの方は一度弁護士にご相談ください。
親権者の変更を希望する場合、裁判所の手続きを避けて通ることはできないため、法的なサポートもお任せください。
弁護士法人ALGには、夫婦や子供の問題に精通した弁護士が多く在籍しているため、ご依頼者様のご事情にそった解決方法を、一緒に検討できたらと存じます。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)