子供と一緒に暮らすための監護者指定とは

離婚問題

子供と一緒に暮らすための監護者指定とは

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

未成年の子供のいる夫婦が、離婚や別居をする際に、どちらが子供と一緒に暮らすのかで争いが生じるケースがあります。
そこでポイントとなるのが、夫婦のどちらが、子供と共に暮らして日常の世話や教育を行う権利・義務=監護権を有しているかどうかです。

簡単にいえば、この監護権を有している人=監護者であれば、子供と一緒に暮らし、その成長を身近で見守ることができるのです。
今回は、離婚や別居時に、父親と母親のどちらかに監護権を指定する手続き=監護者指定について解説していきます。

監護者指定とは

監護者指定とは、父母のどちらかを監護者と指定する手続きのことです。

離婚前に別居をする場合、父母のどちらが子供と暮らすのかで争いとなるケースがあります。
そこで有用な方法のひとつが、監護者指定です。

当事者である父母間、あるいは裁判所の手続きにおいて、どちらが子供の監護者となって一緒に暮らすのかを取り決めておくことで、「子供が連れ去られた」などといったトラブルを防げる可能性があります。
同様に、離婚する夫婦の間で親権を争っているケースでは、妥協案として、あえて親権者とは別に、監護者を指定する場合もあります。

親権者指定と監護者指定の違いについて

親権者指定とは、離婚する夫婦のどちらが未成年の子供の親権者となるかを指定する手続きのことです。
婚姻中は夫婦が互いに親権者(共同親権)となって、親権・監護権の両方を行使しますが、現在の日本では、離婚をする際に、どちらか一方を親権者(単独親権)と定める必要があるのです。

一方、監護者指定とは、別居中にどちらが子供を監護するのかを指定する手続きです。
離婚後に、親権者とは別に監護者を指定する場合もあります。
親権者と異なり、監護者は父母以外の第三者が指定されることもあります。

親権者と監護者は分ける場合がある

親権は、財産管理権と身上監護権(監護権)の2つから構成されています。
本来は、どちらも親権者の権利・義務となっています。しかし、次のような事情があると、親権から監護権を分けて、父母で親権者と監護者を分担するケースが、例外的にあります。

もっとも、親権者と監護者を父母で分担するのはリスクが大きく、裁判所も認めることはほとんどないのが現状です。

  • 子供が幼いため監護者を母親としたいが、財産管理については父親が適任
  • 離婚したいが、親権者について互いが譲らず、子供の精神面に悪影響がある

親権者と監護者が実際に分けられた判例

【大阪高等裁判所 平成30年3月9日決定】
母親が、親権者である父親に対して、子の監護者指定と引き渡しを申し立てた事案です。

  • 父親を親権者とする合意のもと協議離婚が成立
  • 従前の主たる監護者は母親で、大きな問題はなかった
  • 離婚後の監護者について協議が調わないまま、継続して母親が監護養育を行っていた
  • 離婚前から離婚後まで、母親は一貫して、監護を父親に委ねることを容認していない
  • 父親は、子を引き取り監護する意図を隠した上で虚偽の約束をして子を一時的に預かり、そのまま返還をしなかった
  • 一方的に従前の監護者から引き離されたことは、子の福祉の観点から相当性を欠いている

父親に引き渡された後の監護状況に問題はないとして、審判では母親の請求が却下されました。
これに対し、即時抗告がなされ、高等裁判所で審理された結果、子の年齢(6歳)や、母親との親和性を踏まえ、監護者を母親と指定することが子の福祉に資するとして、子の引き渡しを命じました。

監護者指定の判断基準

裁判所の手続きにおいて、監護者を指定する場合の基準は、子供側の事情と、親側の事情、それぞれが考慮されます。
「子供の幸せ(福祉・利益)」が重要視される点は、親権者指定の基準と同じですが、より監護者としての適格性が重視されることになります。

《親側の事情》

  • 監護能力・姿勢・環境・実績・継続性
  • 経済力や生活環境、心身の健康状態
  • 子供への愛情・関係性
  • 面会交流に対する積極性・許容性
  • 相手の監護権を侵害する違法行為の有無

《子供側の事情》

  • 子供の年齢・性別・意思
  • 心身の発育状況・健康状態
  • 父母との親和性
  • 環境の変化への適応性
  • 兄弟姉妹との関係

子供の年齢によって監護者を判断する場合もある

子供の年齢によって、監護者を判断する基準が異なる場合もあります。
具体的には、次のようなケースです。

●乳幼児や、子供がより幼い場合
子供が幼いほど、監護権は母親に属するとされる傾向があります(母性優先の原則)。
特別な事情がないかぎり、母親の存在や監護に関わる割合が重視されます。

●15歳以上の場合
子供が15歳以上の場合、子供の意思を確認することが義務付けられていて、その意思が尊重される傾向にあります。
また、10歳前後の場合でも、ある程度判断能力があるとして、意思が考慮されることがあります。

離婚時・離婚後の監護者指定の流れ

離婚時に監護者指定を行う場合、親権者指定と並行して手続きが行われます。
まずは当事者である父母の間で、親権者と監護者について話し合い(協議)、合意できれば成立です。

親権者と異なり、監護者は戸籍に記載がされないため、監護者であることを証明するためにも、離婚協議書を作成しておくようにしましょう。
当事者間で合意できない場合は、家庭裁判所へ調停・審判を申し立てます。

離婚後に監護者指定を行う場合も、父母の間で協議が整えば成立しますが、合意ができなければ、家庭裁判所に、子の監護者の指定調停・審判を申し立てることになります。
この場合、一度決めた親権者から、親権と監護権を分けることになるため、親権者と監護者を分担することに消極的な裁判所へ認めてもらうのは容易ではありません。

監護者の指定調停

当事者である父母の話し合いが成立しない場合、家庭裁判所に「子の監護者の指定調停」を申し立てます。

子供の幸せを最優先に、父母や子供それぞれの事情や子供の意思をもとに、適正な取り決めに向けた話し合いが進められます。

指定調停を申し立てるためには

「子の監護者の指定調停」を申し立てるための手続きについてみてみましょう。
なお、申立書などの必要書類や記載例は、家庭裁判所のホームページから確認することができますので、ご参考ください(子の監護者の指定調停の申立書(裁判所))。

  • 申立人
    監護者指定を希望する父親または母親
  • 申立先
    相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が合意で定めた家庭裁判所
  • 申立てに必要な書類
    申立書、未成年の子供の戸籍謄本(全部事項証明書)などの添付書類
  • 申立てに必要な費用
    未成年の子供1名につき1200円分の収入印紙と、連絡用切手

監護者指定調停の流れ

申立てを行ってから2週間ほどで、申立人と相手方に対して、最初の調停期日を知らせる通知が届きます。

通知に記載された日時に、申立てをした家庭裁判所へ申立人と相手方が赴き、監護者指定の取り決めに向けた話し合いが行われます。
基本的に調停委員会を介するため、当事者が顔を合わせることはありません。

必要に応じて、第2回以降の調停期日が行われ、当事者が合意し、裁判所が「合意は相当」と認めた場合、調停成立となります。
なお、調停が不成立となった場合は、自動的に審判手続きが開始されます。

別居中でも監護者指定することはできます

父母が別居している場合、婚姻中であるため父母それぞれが親権を有する「共同親権」の状態ですが、あえて監護者を指定することは可能です。
別居中に子供と一緒に暮らすことは、離婚後、親権を獲得したい場合に有利な事情となります。

とはいえ、父母間で同意がないと「違法な連れ去りだ」と、訴えられるおそれがあるので、子供と暮らす権利を主張するために、監護者を指定しておくことが考えられます。

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監護者指定審判の流れ

調停が不成立となった場合、裁判所の判断で、自動的に審判手続きが開始されます。
審判では、当事者の審問が行われるほか、必要に応じて家庭裁判所調査官による調査が行われます。

審問や調査官の調査結果、調停の内容など、一切の事情を考慮して、裁判官が監護者指定の判断を下し、審判書が作成されます。
審判の結果に不服申立てがなされなければ、審判が確定します。

なお、監護者指定の審判は、調停を経ずにいきなり申立てることも可能です。

どのくらいの期間がかかるのか

監護者指定の審判にかかる期間は、事案によって異なりますが、申立てから審判確定まで、半年~1年程度と考えられます。

急を要する事情がある場合は、審判前の保全処分を申立てることを検討しましょう(詳細は後述します)。

審判後の流れについて

審判確定後、指定された監護者は、相手方に対して、任意の引き渡しを求めることが可能になります。
これに従わずに、相手方が子供を引き渡さない場合は、強制執行の手続きを利用することになります。

強制執行手続きは、金銭の支払いを命じることで間接的に引き渡しを促す「間接強制」の方法と、裁判所の執行官が直接関与して子供の引き渡しを実現させる「直接強制」の方法があります。

原則として「間接強制」を先行することとされていますが、子供の安全のために、直ちに強制執行が必要と判断される場合などは、いきなり「直接強制」の方法をとることも可能とされています。

監護者指定審判の即時抗告について

審判の内容に納得ができない場合、不服の申立て=即時抗告をすることで、高等裁判所に対して、審判結果の取り消しや変更(再審理)を求めることができます。

  • 申立期間:審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内
  • 申立先:審判をした家庭裁判所

監護者指定・子の引き渡しの審判前には保全処分をする

監護者指定や、子の引き渡しの調停成立、あるいは審判が確定するまで、長期間を要することが想定されます。
子供が暴力を受けている、育児放棄があるといったように、子供に危険が及ぶおそれがあると、調停成立・審判確定を待っている間に、取り返しのつかない事態になりかねません。

このように、子供に急迫な事情があり、子供の保全を要する事情があるケースでは、審判前の保全処分(仮処分)の申立てをすることで、暫定的に監護者や子供の引き渡しの判断を求めることが可能になります。

相手方が即時抗告をした場合でも、保全処分の効力は失われないため、強制執行が可能です。
この点でも、早期に子供の安全を確保する、有効な手段といえます。

よくある質問

監護者指定審判では父親と母親はどちらが有利ですか?

状況にもよるので、一概にどちらが有利とは言い難いです。
しかし、子供が幼いほど、母親が有利となるケースは多いです。

とくに、0~3歳程度であれば、母親が監護者に指定されるケースが圧倒的に多くみられます(母性優先の原理)。
とはいえ、父親が主体となって子育てを行っているケースでは、監護者は父親となることもあります。

子供の意思や、従前の監護実績・監護環境の継続性などを総合的にみて、どちらが監護者として適任かを判断されることになります。
なお、子供が15歳以上であれば原則、子供の意思が尊重されるので、子供が父親と暮らすことを望む場合、大きな問題がないかぎり、父親が監護者に指定されることになります。

子供が配偶者に連れ去られた場合、監護者はどちらになりますか?

子供を連れ去るに至った事情がポイントとなります。 例えば、次に挙げるような事情があるケースでは、連れ去った側が監護者に指定される可能性があります。

●連れ去られた側に有責行為があった(暴力、育児放棄など)
●子供の健全な成長に悪影響を及ぼす危険がある(連れ去られた側の飲酒やギャンブルなど)
●連れ去られてから時間が経過していて、大きな問題もなく監護が継続されている

言い換えれば、先に挙げたような、正当な事情なく子供を連れ去った場合や、連れ去り方が悪質な場合(待ち伏せて連れ去るなど)は、連れ去った側が不利になり、連れ去られた側が監護者に指定される可能性が高くなります。

監護者指定がされて面会交流後に子供が連れ去られた場合は今後も面会交流をしないといけませんか?

面会交流後に子供を連れ去られてしまった場合、「また連れ去られてしまうのではないか」と危惧して、今後の面会交流を拒否したくなりますよね。

この場合、面会交流の禁止を求める調停を申立てることは可能です。
とはいえ、面会交流は本来、子供が離れて暮らす親と交流するために、子供に与えられた権利でもあるため、過去に連れ去られたことだけを理由に、面会交流禁止が認められるとは限りません。

面会交流後に再び連れ去りが発生しないよう、まずは面会交流の方法を再検討してみることをおすすめします。
具体的には、直接の面会を避けて、メールやビデオ通話といった間接的な交流方法への変更や、弁護士や第三者の支援団体を利用するなどの方法が有効です。

祖父母が監護者になることはできますか?

祖父母が監護者となることは可能です。
とはいえ、基本的に、父母が子供の監護を行うことが望ましいとされているので、父母双方が子供を顧みずに実際の監護は祖父母が行っているなど、父母による監護権の行使がふさわしくないと判断される、例外的なケースに限定されます。

なお、祖父母など、父母以外の第三者から監護者指定の申立てを行うことはできないため、祖父母と子供が養子縁組をして、法的に親子関係を結ぶといった方法を検討してみるのもよいかもしれません。

離婚調停と監護者指定の調停は同時に申立てることができますか?

離婚調停と、監護者指定調停は、同時に申立てることが可能です。
一般的に裁判所では、離婚調停と監護者指定調停を別の事件として扱うため、申立てには、それぞれの書類・費用が必要になります。

離婚調停が長引く可能性がある場合、監護者指定調停や審判を先行して、監護者を先に定めた上で、離婚や親権者について結論を出すこともあります。

離婚時の監護者指定について経験豊富な弁護士に相談してみましょう

子供と一緒に暮らしたい。
このように、父母双方が譲らないことは少なくありません。

「親権が決まらずにいつまでも離婚が成立しない」、「子供を連れ去られた」、「配偶者が子供を虐待している」など、子供をめぐる問題には、監護者指定の手続きが有用なケースがあります。

また、子供の虐待や育児放棄など、子供に危険が及ぶケースでは、保全処分を合わせて行う必要があります。
ご自身や子供の状況に応じて、適切な法的手段をとるためには、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人ALGには、離婚問題に精通した弁護士が多く在籍していて、子供の親権や監護権についても多くの経験を有していますので、抱えていらっしゃる不安やお悩みを解決するためにも、ぜひお気軽にご相談ください。

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
広島県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。