監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
交通事故で受傷し、後遺症が残ってしまうと思うように仕事ができなくなってしまい収入が減ってしまったり、最悪の場合は仕事をすることが難しくなり退職をしなくてはならなくなったりすることもあるかもしれません。
また、交通事故によって亡くなられた被害者の方が一家の大黒柱であったら、その家族は途方に暮れてしまいます。
そのような方も、将来の減収分について、賠償が受けられることはご存じですか?
ここではそのような方に向けて、「逸失利益とは何のこと?」「計算方法ってどうなっているの?」「もらうには制限はあるの?」といったことについて解説していきます。
Contents
交通事故の逸失利益とは
逸失利益は「いっしつりえき」と読みます。逸失利益とは交通事故に遭わなければ本来もらえた将来の収入のことをいいます。
交通事故事案で使われる逸失利益は、
・「後遺障害逸失利益」
・「死亡逸失利益」
の2種類が代表的です。
事故によって亡くなられたり、後遺障害が残ったりすると仕事に制限がかかったり、仕事が全くできなくなってしまったりします。そうなってしまうと収入が減ってしまい、本来もらえた金額が得られなくなってしまいます。
その本来得られるはずだった金額が逸失利益です。
まとめますと、交通事故がなければ得られたであろう収入について、逸失利益として相手側に請求し支払ってもらうことができるのです。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは「交通事故により後遺障害が残ったことで、失われた将来の収入」のことをいいます。
交通事故により、被害者に後遺障害が残ると後遺障害の程度によって労働機能が低下し、事故以前と同じように働くことが難しくなります。
例えば後遺障害によって手が動かせなくなり、パソコンを打ったり物を持ったりするのが難しくなれば、仕事にかなりの支障が生じてしまいます。今の仕事を続けることが難しくなり、転職を余儀なくされる方もいらっしゃるでしょう。
最悪の場合、一生働くことができなくなってしまう方もいらっしゃいます。
そうなると、事故の後遺障害によって本来得られたはずの収入を得られなくなってしまい、生涯収入が大幅に変わってきます。
このように「交通事故がなければ得られた収入」が逸失利益です。
自賠責保険で後遺障害等級に認定され、後遺障害が残った被害者は、加害者に対し、この後遺障害逸失利益を損害賠償請求することができます。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは「交通事故により死亡したことで、失われた将来の収入」のことをいいます。
交通事故で被害者が死亡してしまうと、将来的な収入を失ってしまうことになります。
被害者が一家の大黒柱だった場合、遺族の生活は立ち行かなくなってしまいます。
そういった場合に交通事故により本来得られた将来の収入を死亡逸失利益として被害者遺族から加害者に賠償請求することができます。
逸失利益の計算方法
逸失利益の金額を算出するにはそれぞれ式があります。
・後遺障害逸失利益
基礎年収×労働能力喪失率×労働喪失期間に対するライプニッツ係数
・死亡逸失利益
基礎年収×(1-生活費控除率)×就労可能年数によるライプニッツ係数
難しい言葉が並び何のことかよくわからない。と思われることと思います。 次に用語について解説していきます。
基礎収入
基礎年収とは、基本的には事故前の1年間の収入のことを指しますが、職業によって少し異なります。
【会社員の場合】
原則通り前年1年間の賞与や各種手当を含む控除前の総支給額が基礎収入となります。
しかし、30歳未満の若年の会社員については将来昇給、昇進する可能性があるので現在の基礎年収ではなく、年齢の平均の賃金センサスを用いるのが原則です。
【自営業、フリーランスの場合】
原則として事故前年の確定申告の申告所得額を基礎年収として用います。
また、確定申告を怠っていたなど実際の収入が申告した収入より高額な場合は、それを証明できれば実際の収入が基礎収入として認められるケースもあります。
【主婦(夫)の場合】
主婦(夫)で収入がない場合でも家事労働をしているので逸失利益を請求することが可能です。具体的な金額を決めるにあたっては、性別を問わず賃金センサスの女性労働者の全年齢の平均を基礎年収とします。
【失業者の場合】
事故当時に失業していても、就業の意欲がある場合は、逸失利益を請求することが可能です。以前に勤めていた会社の賃金や内定先の平均賃金などを用います。
【学生、子供の場合】
事故前に実際の収入がない学生や子供でも、将来的に収入が見込まれるので賃金センサスを用いて基礎年収を算出します。
被害者が大学在学中や大学入試に合格していた等の事情がある場合はより高額な大学卒の平均賃金を基礎年収として計算できることもあります。
【高齢者の場合】
仕事や家事をしている場合は、上記の「会社員の場合」、「主婦(夫)の場合」と同じ算出方法です。また、無職でも就労意欲がある場合は賃金センサスを用いて算出します。
賃金センサスについて
賃金センサスのセンサス(census)とは、一斉調査などを意味します。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」のことです。労働者の雇用形態、就業形態、企業規模、職種、性別、年齢、学歴、勤続年数、経験年数など様々な観点から賃金との関係を明らかにすることを目的として実施されています。
賃金センサスを使う理由として、被害者の方の中には、子供、学生、専業主婦(夫)など事故前に働いていない人もいます。また就業をしていても若年層により年収が将来上がっていく見込みがある人もいます。
事故前年の年収で計算するのが基本ですが、賃金センサスは信用のある統計であり、一定の確からしさがあるため、様々な事情で事故前の収入が低く賃金センサスの方が有利な場合には、賃金センサスでの基礎年収を主張してみるのも一つでしょう。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、交通事故の後遺障害によって事故以前に比べどのくらい労働能力が低下してしまったかを比率表で表したものです。
後遺障害1~14の階級により基準値があります。
具体的には1~3級は100%、4級は92%、5級は79%、6級は67%、7級は56%、8級は45%、9級は35%、10級は27%、11級は20%、12級は14%、13級は9%、14級は5%です。
しかし上記の基準値はあくまでも標準値です。
被害者の職業、年齢、後遺障害の部位や程度、事故前後の就業状態や年収の減額の程度などによって標準値より高い喪失率になる場合もあれば、状況によっては低い喪失率や労働能力の喪失が認められないこともあります。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは交通事故の後遺症によって労働能力が低下または失われてしまった期間のことです。
一般的な就労可能年数は67歳とされており、労働能力喪失期間は原則として症状固定日から一般的な就労可能年数の67歳を迎えるまでとされています。
つまり、
式)67歳-症状固定日の年齢=労働能力喪失期間
となります。
ただし、被害者が高齢の場合は67歳を基準とすると、不公平な場合があります。
そこで、被害者が高齢の場合は、「症状固定日から平均余命」の2分の1を労働能力喪失期間として扱います。
一方、被害者が子供や学生、未就労者である場合は、18歳または大学卒業を見込んだ22歳を就労の開始日として労働能力喪失期間を求めます。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、中間利息控除をするための係数のことをいいます。
砕けた言い方をすると、逸失利益を計算する際に、将来に得られる収入を先にもらうこととなるため、「将来分の賠償金を前払いで一括受け取りするのだから、利息を引きましょう」という考え方です。
逸失利益は現在から将来、長期的に得られるお金を一括で受け取ります。法律概念上は、現時点で受け取ったお金を運用することができるので、運用すること前提として、将来発生する利息分(中間利息)を差し引いて賠償額を計算することになります。
ライプニッツ係数とは、この中間利息を控除するための指数で、逸失利益の計算を正確かつ簡略化するための数値となります。
死亡逸失利益の場合は生活費控除率と就労可能年数が必要
死亡逸失利益の場合についても用語を解説していきます。
まず、基本となる基礎年収額の算出方法は上記「基礎年収」と変わりはありません。
以下で「生活費控除率」と「就労可能年数」についてそれぞれ解説していきます。
生活費控除率
被害者が死亡してしまった場合、逸失利益という損害が発生する一方で、被害者が生きていればかかるはずであった「生活費」がかからなくなります。
そのため、死亡事故の場合は逸失利益として、将来得られたであろう収入の全額を請求できるわけではなく、生活費に相当する部分について請求金額から控除されることになります。
もっとも、生活費の全額を把握するのは難しく、被害者の家族構成などを考慮した一定の基準が決まっています。この基準のことを「生活費控除率」といいます。
・一家の支柱(性別は問わず、実質上生活の中心となる人)
被扶養者1名・・・40%
被扶養者2人以上・・・30%
・女性(主婦・独身を含む)・・・30%
女子年少者・・・40~45%
・男性(独身・年少者を含む)・・・50%
なお、年金については生活費に費やされる割合が高いと考えられることから、生活費控除率を通常より高くする場合があります。被害者の収入が年金のみの場合には、裁判例では60%とされることが多いです。
就労可能年数
就労可能年数とは、死亡したことで失われた就労できたであろう期間のことです。
原則として死亡時から67歳までが就業可能年数となります。ただし、高齢の場合は、平均寿命をもとに算定することになります。
以下は死亡した被害者の年齢による就業可能年数の考え方です。
- 被害者が18歳未満の場合・・・18歳~67歳まで
- 被害者が大学生の場合・・・大学卒業時点~67歳まで
- 被害者が67歳に近い年齢の場合・・・「67歳までの年齢」と「平均寿命の半分」のいずれか長い方
- 被害者が67歳以上の高齢者・・・平均寿命の半分
平均寿命とは簡易年数表が存在し、それを参考にして算出します。
例えば被害者の方の年齢が55歳男性の場合、就業可能年数は67歳までとし、失われえた就労できたであろう期間は12年(67-55=12)とされます。
一方、簡易生命表よると55歳男性の平均余命年数は27.44年となり、この年数の2分の1は13.72年となります。この場合後者の方が長いため、13.72年を就労可能年数として計算します。
交通事故の逸失利益を請求できるのは誰?
では、実際に逸失利益を請求する場合、請求者となれるのは誰なのでしょうか。
「後遺障害逸失利益」
請求者は後遺障害が残った被害者本人となります。
「死亡逸失利益」
被害者本人に請求権がありますが、被害者は亡くなってしまっているため、被害者が請求するのは不可能です。そのため、相続人が請求します。
相続人の順位
第一順位:配偶者、子
第二順位:両親などの直系尊属
第三順位:兄弟姉妹
【内縁関係の場合はどうなるのでしょうか?】
内縁の配偶者は、その他法律(医療費や年金)では配偶者として認められ、扶養に入れることもできますが、相続においては除かれてしまいます。
法的相続分が法律上認められていないので遺言などがなければ亡くなった内縁の配偶者の財産を相続できないのが原則です。
しかし、内縁の妻が内縁の夫の収入だけで生活していた場合は、大切な人が亡くなってしまった悲しみのなか、損害賠償請求権まで相続できないとなると生活が成り立たなくなってしまいます。
そこで内縁の妻は相続人になれないので、損害賠償請求権を相続することはできませんが、被害者が亡くなったことによって自らの扶養利益が喪失したこと等を損害として損害賠償請求をすることが考えられます。
減収しなくても逸失利益が認められるケース
交通事故被害者に後遺障害等級認定が下りると逸失利益の示談交渉が行われますが、被害者が減収しなかった場合は逸失利益を請求することはできるのでしょうか。
原則として、後遺障害等級認定が認められた場合でも労働に全く影響がない場合は収入の減少がないため逸失利益は認められないという考え方になります。
しかし、現時点で減収がないからといって、将来にわたり減収がないことにはなりません。
少なからず、後遺障害等級認定を受けたということは労働に何かしらの影響を与える状況だと推測できます。
また、現在減収がないのは、被害者本人の並々ならぬ努力や、家族や勤務先の方からの援助のおかげで減収を免れているという場合も考えられます。
さらに、将来的には昇進、昇給、転職等に影響をきたすことも考えられ、このことから、逸失利益を否定してもいいとは言い難いといえます。
そのため、後遺障害がある場合には、争いになることは多々ありますが、類型的に労働能力喪失が認められ得る状況であれば、実際に減収が無い場合にも、逸失利益が認められる傾向にあります。
逸失利益が増額するポイント
逸失利益はポイントを抑えると増額できる可能性もあります。 以下に増額するポイントをまとめます。
①正しい後遺障害認定を受ける
「後遺障害逸失利益」を請求するには、まずは「後遺障害等級認定」を受ける必要があります。
「後遺障害等級」には、「1級1号」から「14級9号」まで細かな後遺障害の内容が決められています。
「後遺障害等級認定」の手続きは加害者側保険会社に任せてしまう方法もありますが、そうすると自分が主張したい資料などを添付することができず、適切な等級認定を受けられなくなってしまう可能性もあります。
そのうえ、認定されそうな等級認定の中でも高い等級認定を受けなければ、「労働能力喪失率」等が低くなり、逸失利益の金額が下がってしまいます。
そこで、適切な「後遺障害等級認定」を受けるためにも自分で資料を集める被害者請求が有効であるといえます。
しかし、後遺障害を抱えたまま資料を集めることは大変な労力であることが大いに想像できるため、弁護士に相談し、必要な書類などを集めてもらうと良いでしょう。
②正しい基礎年収の計算
被害者の方が会社員など給与所得者の場合は前年の年収額を基礎年収とすることができるので、揉めることは少ないと思われます。
しかし、若年層の会社員では、失われた労働時間のなかで昇給、昇進すること可能性が大いにあったと考えられ、現在の年収を「基礎年収」とすることはあまりにも不公平です。
また、主婦などの見えない労働を金額で表すことは難しく、「基礎年収」として認めてもらえないことがあります。
こういった中で、相手の保険会社の言いなりにならないためにも「賃金センサス」の全年齢の平均賃金や、過去の判例や事例などを参考に交渉していくことがポイントです。
③弁護士基準で算出する
逸失利益だけでなく、後遺障害等級認定や慰謝料の金額に対しても、弁護士の助けがあると増額が見込めます。
自賠責基準と実際起きた裁判を基準にしている弁護士基準では損害賠償額に大きな差が生まれます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
逸失利益の獲得・増額は、弁護士へご相談ください
ここまで逸失利益について解説してきましたが、普段聞きなれない用語や計算式などがでてきたので困惑される方も多いとおもいます。
そもそも交通事故被害者の方は「逸失利益」という言葉も聞いたことがないのではないでしょうか。
ネットの情報だけで逸失利益を獲得しようと頑張ってみても、相手の保険会社はプロです。納得のいく「後遺障害認定」を受けることや「後遺障害逸失利益」または「死亡逸失利益」を獲得することは難しいことだと思います。
そこで、納得のいく後遺障害の認定や逸失利益の獲得、増額については私たちにご相談ください。 被害者の方は事故に遭って大変な思いをされていることと思います。これ以上大変な思いや後悔はしてほしくありません。 大変なこと、分からないことがないように弁護士に相談し、治療に専念しながら、適切な損害賠償を獲得しましょう。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)