
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
「交通事故について弁護士に相談したい」「示談交渉を弁護士に任せたい」、このように、弁護士への相談・依頼をお考えの方の中には、弁護士費用が気になってためらっているという方もいるのではないでしょうか。
そんなときに役立つのが、「弁護士費用特約」です。
加入している任意保険などのオプションとして弁護士費用特約を付けていれば、弁護士費用を気にすることなく、弁護士に相談・依頼できます。
この記事では、弁護士費用特約について詳しく解説していきます。ぜひご参考ください。
Contents
弁護士費用特約とは
弁護士費用特約とは、事故の相手方への損害賠償請求を弁護士に依頼した場合にかかる弁護士費用などを補償する保険で、ご自身やご家族の保険契約に追加できるオプションのひとつです。
弁護士費用特約があれば、経済的な負担を心配することなく弁護士に相談・依頼することができます。
ただし、保険会社が負担してくれる金額には上限額があり、保険会社によって異なります。
ここからは、一般的な交通事故における弁護士費用特約の上限額について見ていきましょう。
法律相談費用は10万円まで補償
弁護士への法律相談料は、1回の事故・被害者1名につき10万円まで補償を受けられます。
〈弁護士法人ALGの法律相談料〉
弁護士法人ALGでは、1時間あたりの相談料が1万円(税抜)となっています。
1回のご相談にかかる時間は平均1~2時間ほどですので、上限10万円の相談料は、交通事故の不安や疑問について弁護士に相談する・アドバイスを受けるには十分な金額と考えられます。
弁護士費用は最大300万円まで補償
依頼後に必要となる弁護士費用は1回の事故・被害者1名につき最大300万円まで補償を受けられます。
具体的には、以下のような費用が含まれます。
- 着手金:弁護士に依頼するときに支払う費用
- 成功報酬:依頼した事件が成功・解決したときに支払う費用
- 実費:収入印紙代、切手代、交通費、必要書類の取り寄せ費用、コピー代など
- 日当:弁護士が事故現場や裁判所などで活動した際に支払う費用
損害賠償金がよほど高額にならない限り、弁護士費用が300万円という上限を超えることはめったにありません。
300万円を超えるケースってどんな事故?
弁護士費用が300万円を超えるのは、以下のような事故です。
- 被害者が亡くなったケース
- 被害者が重篤な障害をもつに至ったケース など
このような事故では損害自体が大きく、損害賠償金も高額になります。そのため、被害者の方が受け取る金額から、特約の300万円を超えた分の弁護士費用を差し引いても、費用倒れとなる心配はありません。
あなたも加入しているかも?弁護士費用特約は加入率が高い
弁護士費用特約の加入率について、業界全体の統計を取った資料は残念ながら存在しません。
しかしながら、以下の2つの資料から、弁護士費用特約の加入率が高いことが分かります。
- SONPOホールディングスの弁護士費用特約加入状況
「大人の自動車保険」の契約者のうち、56.9%が弁護士費用特約に加入していると公表しています。 - 弁護士白書による近年の弁護士費用保険の販売件数
2022年度の弁護士保険の販売数は2435万件にのぼっています。2001年度は約1.1万件、2010年度は1431万件であり、弁護士費用保険はこの20年で急速に普及していることが分かります。
ご自身が弁護士費用特約に加入していないか、契約内容を確認してみましょう。
クレジットカードなど、自動車保険以外で加入しているケースもある
弁護士費用特約は、自動車保険以外でも加入している場合があります。
【自動車保険以外に弁護士費用特約に加入しているケースの一例】
- クレジットカード
- 火災保険
- 生命保険
- 医療保険 など
ただし、これらは交通事故では使用できない場合もあります。
また、補償の範囲や上限額なども契約の内容によって異なるため、一度契約内容を確認することをおすすめします。
弁護士費用特約の適用範囲
弁護士費用特約は、契約者本人とそのご家族が対象者となります。
【弁護士費用特約が適用される一般的な範囲】
- 契約者本人
- 契約者の配偶者
- 契約者の同居家族
(例)同居中の父母、兄弟姉妹、子、配偶者の親族 - 契約者の別居未婚の子
(例)実家を出て暮らしている結婚していない子供 - 契約車両に搭乗中の者
- 契約車両の所有者
このように、広い範囲が対象者となるため、ご自身が弁護士費用特約に加入していなくても、ご家族の特約を利用できる可能性があります。
弁護士費用特約を使って弁護士に依頼するメリット
では、弁護士費用を使って弁護士に依頼すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
以下で詳しく見ていきましょう。
弁護士費用を気にせず依頼できる
弁護士費用特約を使う1番のメリットは「弁護士費用を気にせず依頼できる」ことです。
多くの保険会社では、弁護士費用として300万円までが補償されます。弁護士費用がこの上限額を超えるケースはまれであるため、被害者の方の負担なく弁護士に依頼することができます。
また、万が一、300万円を超える弁護士費用が発生するような、損害の大きな事故であっても、十分な損害賠償金を受け取れる可能性が高いため、費用倒れとなることはほぼないでしょう。
慰謝料を含む損害賠償金額が大幅にアップする
弁護士費用特約を使って弁護士に依頼することで、慰謝料を含む損害賠償金が大幅にアップすることが期待できます。
交通事故で慰謝料やその他損害の金額を計算する基準には、以下の3つがあります。
- ①自賠責基準
- ②任意保険基準
- ③弁護士基準
これらは、「自賠責基準≦任意保険基準<弁護士基準」の順に高額になるのが一般的です。
示談交渉では、相手方か保険会社からの示談案をもとに交渉していきますが、相手方保険会社の提示する金額は、任意保険基準の範囲にとどまり、被害者が受け取るべき適正な金額より低額となっていることがほとんどです。
その点、弁護士であれば、弁護士基準で算出した金額を法的な観点から主張・立証し、交渉していくことが可能であり、その結果、慰謝料を含む損害賠償金が増額することが期待できます。
保険の等級は変わらない
「弁護士費用特約を使うと、等級が下がったり、保険料が上がったりする」と思われている方も多くいらっしゃるでしょう。
しかし、弁護士費用特約を使用しても、等級は下がりませんし、保険料も上がりません。
このように、弁護士費用特約の使用が自動車保険の等級に影響しないことも大きなメリットですので、安心して活用しましょう。
弁護士費用特約の使い方
弁護士費用特約を使って、弁護士に相談・依頼する流れを見ていきましょう。
保険会社の事前承認が必要な場合もありますので、事故発生の連絡や、弁護士費用特約が付いているか確認する際に、利用を検討していると伝えておくとよいでしょう。
交通事故が得意な弁護士を探す
弁護士費用特約では、自由に弁護士を選ぶことができます。そのため、交通事故案件を得意とし、解決実績が豊富な弁護士を選ぶことをおすすめします。
〈交通事故が得意な弁護士の探し方〉
- ホームページに「交通事故を得意とする」「医学知識がある」などの表現がある
- ホームページに交通事故の解決実績やコラムが数多く掲載されている
- 無料相談などを活用して直接弁護士に相談し、信頼できる弁護士を探す
なお、弁護士法人ALGでは無料相談を行っております。実際に弁護士と話すことで、相性や人柄、雰囲気などを確認することができますので、ぜひご活用ください。
交通事故問題に強い弁護士の選び方保険会社に連絡し、弁護士費用特約利用の同意を得る
依頼する弁護士が決まったら、正式に依頼する前にまずは加入している保険会社へ、弁護士費用特約を利用することを事前連絡しましょう。
保険会社への連絡をせずに弁護士への相談・依頼してしまうと、最悪の場合、弁護士費用特約が使用できないおそれがあります。
保険会社によっては事前承認を必要としているところもあるので、あらかじめ同意を得ておくようにしましょう。
弁護士に弁護士費用特約を使いたいと伝える
保険会社の同意が得られたら、依頼をする弁護士に弁護士費用特約を使用することを伝え、正式に委任契約を結ぶ流れになります。
その際、弁護士費用特約を付帯している保険会社名や担当者名、連絡先を伝えるようにしましょう。
その後の手続きは弁護士と保険会社間で進めてくれるため、被害者の方が特別すべきことはありません。
弁護士を変更したくなった場合
「弁護士と相性が合わない」「進捗の連絡がまったくこない」「信用できない」など、現在の弁護士に不安がある場合は、弁護士を変更することができます。
〈弁護士を変更する際の流れ〉
- ①新しい弁護士を探す
- ②変更する弁護士が決まったら、依頼中の弁護士(現弁護士)と加入している保険会社にあらかじめ弁護士を変更することを伝える
- ③新しい弁護士に依頼する
〈弁護士変更の注意点〉
弁護士変更に際して、すでに支払った着手金や一定の報酬を弁護士費用特約から清算される場合があります。これらは、弁護士変更後にリセットされることはないので、弁護士費用特約の残高に注意が必要です。
弁護士費用特約が特に効果的なケース
被害者に過失がないケース
被害者に過失がないケースでは、弁護士費用特約が有効といえます。
一般的な事故では、被害者・加害者の双方に過失(事故の責任)が付きますが、赤信号で停止中に後ろから追突されたような事故では、被害者に事故の責任は発生しません。
被害者に過失がない事故の場合、被害者側から加害者側への賠償金の支払いが発生しないため、被害者が加入している保険会社の示談交渉サービスを利用することができません。
つまり、被害者に過失がない事故では、被害者自身が相手方保険会社と交渉しなければならないのです。
この点、弁護士であれば代理人となることができるため、弁護士費用特約に加入していれば、費用の心配をすることなく弁護士に依頼できます。
後遺症が残りそうなケース
交通事故の怪我が後遺症として残りそうな場合でも、弁護士費用特約が有効です。
残存した後遺症について、後遺障害等級認定の申請を経て後遺障害等級に認定されると、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を新たに請求することが可能です。
しかし、後遺障害等級認定の申請は誰もが等級認定されるような簡単な手続きではありません。必要書類も多く、なにより交通事故や医学の知識を要します。納得のいく結果を得るためには、弁護士費用特約を使って、弁護士に相談・依頼し、サポートを受けるべきでしょう。
加害者が無保険のケース
任意保険は名前のとおり、「任意」であることから、交通事故の加害者が任意保険に加入しているとは限りません。また、自賠責保険が切れていたようなケースもあります。
このように、加害者が「無保険」のケースでは、損害賠償金は加害者本人に請求することになります。しかし、加害者に資力がなかったり、示談交渉に応じないケースも多く、被害者が泣き寝入りするような事態も少なくありません。
そのため、弁護士費用特約を使用して弁護士に依頼することで、加害者との交渉や自賠責保険への請求、加害者への強制執行などを任せることができます。
加害者から損害賠償金を回収できなかったとしても、費用倒れになる心配は少ないため、まずは相談してみることをおすすめします。
請求できる損害賠償金額が小さい事故のケース
「怪我が軽く軽微な事故」や「物損事故」のような、相手方に請求できる損害賠償金が少額なケースでも、弁護士費用特約が有効です。
こうしたケースでは、特約をつけていないと損害賠償金が増額したとしても、相手方保険会社から回収できる金額よりも弁護士費用の方が高額になり、利益が出ない場合があります。
一方、特約がある場合は、損害賠償金が増額する可能性があるだけでなく、費用倒れの心配なく弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約に関するQ&A
保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がります。諦めるしかないでしょうか?
ほとんどの場合は、保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がることはありません。しかし、以下のようなケースでは「弁護士費用特約を利用するのは難しい」と利用を嫌がることもあります。
- 示談交渉において、当事者間で大きな争いがないケース
- 請求できる損害賠償金が少額のケース
- 保険会社が紹介する弁護士ではなく、被害者自身が選んだ弁護士に依頼したいケース
保険に加入している側は、きちんと保険料を支払って弁護士費用特約に加入しているわけですから、契約内容上弁護士費用特約が使えないケースを除いて、保険会社に遠慮する必要はありません。
まずは無料相談などを活用し、特約が使用できるか弁護士にご相談ください。
弁護士費用特約のデメリットはありますか?
弁護士費用特約のデメリットはほとんどありません。
強いて挙げれば、弁護士費用特約に加入することで、年間の保険料が数千円ほど高くなることです。
年間数千円の負担でいざというときに大きな補償を受けられるため、メリットの方が大きいといえます。
弁護士費用特約を使うタイミングはいつがいいですか?
弁護士への相談をいつすべきか、迷われる方もいると思いますが、「事故に遭ってから、示談が成立するまで」の期間であれば、いつでも相談が可能です。
しかし、弁護士費用を使って相談・依頼するタイミングは、早ければ早いほどメリットを受けられるため、できるだけ早く相談・依頼することをおすすめします。
できるだけ早い段階から弁護士に相談・依頼することで、事故後の対応や適切な通院頻度、必要な検査など、事故全体をサポートすることが可能です。
弁護士費用特約があれば、費用の負担を心配することなく相談・依頼が可能ですので、交通事故について少しでも不安を感じたら、できるだけ早く弁護士費用特約の利用を検討しましょう。
事故後に加入しても弁護士費用特約を使えますか?
交通事故に遭ってから弁護士費用特約に加入した場合は、残念ながら使用することができません。
弁護士費用特約は、「事故前に加入していること」が前提条件となります。
しかし、ご自身が弁護士費用特約に加入していなくても、ご家族が加入している場合は使用できる可能性もあります。まずはご家族が加入している保険について、「弁護士費用特約に加入しているか」、「補償範囲はどこまでか」を確認しましょう。
また、今後に備え、ご自身も弁護士費用特約に加入しておくことをおすすめします。
1事故1名当たりの補償ということは、1事故2名なら補償も2倍になるのですか?
多くの保険会社で「1事故1名につき」いくらと補償額の上限が定められており、この記述のとおり被害者それぞれに補償が適用されるため、補償も2倍となります。
具体例を用いてみていきましょう。
【例:夫が運転者、妻が助手席で事故に遭い怪我をしたケースで、夫の弁護士費用特約を使用する場合】
上限額の定めが「1事故1名につき、300万円まで」とすると、この場合、2人合わせて600万円までの弁護士費用が補償されることになります。ただし、保険会社によって補償の範囲はさまざまですので、まずは保険会社に確認してみましょう。
まずは弁護士にご相談ください
「弁護士に相談したい」「示談交渉を任せたい」と、弁護士への相談・依頼を検討されている方、費用面でためらっている方は、弁護士費用特約に加入していないか確認してみてください。
弁護士費用特約を使うことができれば、弁護士費用を心配することなく弁護士のサポートを受けることができます。
弁護士に依頼することで相手方保険会社とのやり取りを任せることができ、被害者の方は治療に専念することができます。さらに、示談交渉では弁護士基準の金額で交渉するため、損害賠償金の増額が期待できます。
弁護士費用特約についての疑問や不安、保険会社に使用を断られた、など少しでもお悩みの場合は、まずは私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)