遺言書とは|遺言書があった場合の対応と効力について

相続問題

遺言書とは|遺言書があった場合の対応と効力について

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

亡くなった方の財産を相続する方法には、以下のものがあります。

  • 遺言書による方法(遺贈)
  • 相続人全員で話し合う方法(遺産分割協議)
  • 民法で定められた内容で行う方法(法定相続)

今回は、このなかで、「もしも私が亡くなったら・・・」と、ご自身の死後に備えて作成される、遺言書についてご紹介します。

遺言書には、法的に効力があることをご存じでしょうか?
遺言書には強い法的効力があるため、後々生じる相続に、多大な影響を与えることになります。

遺言書について、この記事を通して少しでも知っていただけたら幸いです。

遺言書とは

遺言書とは、ご自身の財産について、死後、どのように処分する(だれに、どの財産を取得させる)のか、ご自身の意思を伝えるための、法的な文書のことです。

遺言で財産の処分方法を指定しておくことで、残された遺族の負担が軽くなるケースもあります。
遺言では、親族以外の第三者や、特定の団体を指定して、財産を取得させることも可能です。

法的な効力をもつことから、遺言書は、作成様式や、記載する内容、開封方法について、民法で細かく規定されています。

正しく作成された遺言書があると、遺言を残す人(遺言者)の意思そのものとして尊重され、原則、遺言の内容のとおりに相続が行われます。

遺書、エンディングノートとの違い

ご自身の死後に備えて、感謝の気持ちや希望・意思を、家族や友人に伝える方法として、代表的なものに、以下の3種類があります。

  • 遺言書
  • 遺書
  • エンディングノート

それぞれの特徴を知っておくことで、ご自身の意思が、より伝わる最適な方法が選択できるようになります。
ぜひご参考ください。

  遺言書 遺言書 エンディングノート
法的効力
作成方法 民法の規定あり (遺言書の種類による) 自由 (音声や動画も可) 自由
内容
  • 財産の処分方法
  • 遺言書の執行に関すること
  • 身分関係に関すること、など
一般的に、自分の死後 伝えたいことを自由に 死後だけではなく生存中の治療方針など 伝えたいことを自由に
開封方法 民法の規定あり (遺言書の種類による) 自由 自由
特徴 法的な効力をもつ文書 作成者の死後、効力が発生 (財産がある場合に有効な方法) 自由に意思を伝えられる私的文書 共有しておきたい情報や意思を、死後に限らず 自由に伝えられる私的文書

遺言書の種類

遺言書にはいくつか種類があり、代表的なものを以下にまとめました。

なかには、開封前に、検認の手続きが必要な遺言書があります。
それぞれの特徴をご参考いただき、間違って開封してしまわないよう、ご注意ください。

  1. 自筆証書遺言

    民法の規定(自筆で作成し、日付・署名・押印が必要)に従って作成する方法
    ・保管方法:遺言者自身で保管、または法務局で保管
    ・注意:開封するにあたって、家庭裁判所で検認の手続きが必要です(法務局保管を除く)

  2. 公正証書遺言

    公証役場で、証人2名立ち合いのもと、公証人が作成する方法
    ・保管方法:公証役場で保管

  3. 秘密証書遺言

    遺言者が作成し、内容を秘密にしたまま、証人2名立ち合いのもと、公証役場で、遺言書の存在証明手続きをする方法
    ・保管方法:遺言者自身で保管
    ・注意:開封するにあたって、家庭裁判所で検認の手続きが必要です

遺言書の保管場所

遺言書の保管場所は、おおむね以下の4種類です。

  1. 遺言者の自宅で保管(自筆証書遺言、秘密証書遺言)
  2. 信頼できる知人などの、第三者に預ける(自筆証書遺言、秘密証書遺言)
  3. 法務局で保管(自筆証書遺言)
  4. 公証役場で保管(公正証書遺言)

4種類のうち、①遺言者の自宅で保管されている遺言書と、②第三者に預けられた遺言書については、開封して内容を確認する前に、家庭裁判所で検認の手続きが必要になります(詳細は後述します)。

遺言書はその場で開封しないようにしましょう

遺言書の種類によって、勝手に開封して内容を確認してしまうと、ペナルティが発生するものがあります。

とくに、自宅で保管されていた遺言書は、開封前に必要な手続きがあるため、見つけても勝手に開けてしまわないよう、注意しましょう。

開封には検認の申立てが必要

公証役場と法務局以外で保管されていた、自筆証書遺言と秘密証書遺言は、勝手に開封しないよう注意しましょう。
遺言書を開封するためには、家庭裁判所で検認の手続きが必要です。

《検認の手続き》

  1. 遺言書の保管者、または遺言書を発見した相続人が、遺言者が亡くなった時の住所地を管轄する家庭裁判所に、検認の申立てをします
  2. 裁判所から、検認を行う日(検認期日)が通知されます
  3. 検認期日に、申立人と、任意で出席した相続人などの立ち合いのもと、遺言書を開封し、遺言の存在、およびその内容が通知されます
    ※遺言の有効性を判断する手続きではありません
  4. 検認完了後、遺言の執行に必要な「検認済証明書」の申請ができます

「勝手に開封すると効果がなくなる」は本当か?

検認手続きをせずに、勝手に開封してしまっても、遺言の法的な効力がなくなるわけではありませんので、ご安心ください。
ただし、5万円以下の過料が科される可能性がありますので、注意が必要です。

知らずに開けてしまった場合の対処法

  • 遺言書を勝手に開けたらだめだと、知らなかった
  • 遺言書だと思わずに開けてしまった

このように、もし知らずに遺言書を開封してしまった場合、どうすればよいのでしょうか?

ペナルティをおそれて、そのまま遺言を執行することは、残念ながらできません。
検認を経なければ、遺言の執行にあたり必要になる「検認済証明書」が取得できず、手続きが進められなくなってしまうからです。

遺言書を検認前に開封してしまった場合は、すみやかに家庭裁判所に事情を説明し、検認手続きをしましょう。

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遺言書の内容は何よりも優先されるのか

遺言者の意思そのものとして、遺言書の内容は優先されるべきとされています。
ですが、遺言書が絶対的な効力をもつわけではなく、遺言書の内容以外の方法で、遺産分割を行うことも可能です。

遺言書の内容に相続人全員が反対している場合

遺言書の内容について、相続人全員が納得していない場合には、相続人全員の合意のもと、遺産分割協議を行って、全員が納得した内容で、遺産分割を行うことが可能です。

ただし、遺言によって相続人以外の第三者(受遺者)がいる場合や、遺言で指定された遺言執行者がいる場合、すべての人の合意が必要となります。

また、遺言で、遺産分割が禁止されていない場合に限ります(詳細は後述します)。

遺言書に遺産分割協議を禁止すると書かれていたら

相続人に未成年・胎児が含まれる場合や、相続においてトラブルが予想され、冷却期間が必要とおもわれる場合に、遺言者は、相続開始後5年を超えない範囲で、遺産分割を禁止することが可能です。

そのため、遺言で指定された期間のあいだは、原則、遺産分割を行うことができません。
たとえ、相続人全員の合意のもと、遺産分割を行ったとしても無効になります。

もしも、遺言で5年を超える期間が指定されている、あるいは禁止期間の指定がない場合は、5年を経過すれば、遺産分割協議を行うことが可能です。

ただし、相続税の申告・納税は、期限通りに行う必要があるため、注意が必要です。

遺言書の内容に納得できない場合

  • 不貞関係にある愛人に、すべての財産を遺贈すると書かれていた
  • 特定の団体に財産を寄付すると書かれていて、相続人が損をする

このような遺言の内容によって、本来、遺産を取得できたはずの相続人が、遺産を取得できない、あるいは著しく下回る場合、納得ができない方もいらっしゃるでしょう。

相続人のなかには、最低限取得できる相続財産の割合(遺留分)を保障された人がいます。

この遺留分は、遺言によっても侵害できないとされていて、遺留分の権利をもつ相続人は、遺言や生前贈与で遺産を多く得る人に対して、遺留分侵害額請求をすることで、侵害額相当の金銭を取得することができます。

《遺留分の割合》

相続人 全員の遺留分の合計割合 各相続人の具体的な遺留分割合
配偶者 子供 父母 兄弟
配偶者のみ 1/2 1/2 × × ×
配偶者と子供 1/2 1/4 1/4÷人数 × ×
配偶者と父母 1/2 2/6 × 1/6÷人数 ×
配偶者と兄弟 1/2 1/2 × × ×
子供のみ 1/2 × 1/2÷人数 × ×
父母のみ 1/3 × × 1/3÷人数 ×
兄弟のみ × × × × ×

※亡くなった人の兄弟姉妹や甥・姪は、遺留分の権利がありません

また、愛人への遺言については、不貞関係の維持継続を目的にしている場合や法定相続人たる妻子の生活を脅かすような内容である場合などには、公序良俗に反して無効となる可能性が高いといえますので、遺言の無効を主張する方法もあります。

遺言書の通りに分割したいけれど、反対する相続人がいる場合

遺言書の通りに財産を分割したいのであれば、遺言執行者を選任する方法があります。
遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するための権限をもち、実行する人のことです。

本来であれば、相続人全員で行う手続きも、遺言執行者であれば、単独で手続きを行うことが可能なため、反対する相続人がいたとしても、遺言の内容に従って手続きが行えます。

遺言執行者は、遺言によって指定することが可能です。
遺言で指定されていない場合は、相続人などの利害関係者が、家庭裁判所に申立てを行うことで、遺言執行者を選任できます。

遺言書で指定された財産を受け取りたくない場合

せっかく遺言で指定してもらったけど、なんらかの事情で、相続財産を受け取りたくない場合、どんな方法があるのでしょうか?
相続人、受遺者で、それぞれ方法が異なります。

《相続人の場合》

遺産分割協議を行う

 遺言で遺産分割を禁止されていない、かつ、遺言にかかわる全員の合意があれば、遺産分割協議を行うことで、遺言とは異なる方法で相続財産を分けることが可能になります

相続放棄する

ご自身のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申立てを行う必要があります
相続放棄をすると、該当相続のすべての相続財産を放棄することになるため、ご注意ください

《受遺者の場合》

包括遺贈(割合で指定されている)の場合

相続人同様、遺産分割協議を行うことで、遺言とは異なる方法で相続財産を分けることが可能になります
または、家庭裁判所へ遺贈放棄の申立てを行う必要があります

特定遺贈(具体的に特定されている)の場合

他の相続人や遺言執行者に、遺贈を放棄する意思を伝えます

遺言書が2通出てきた場合

遺言書が2通以上あったら、どちらが有効か、迷われることでしょう。
どちらが有効かは、遺言の内容を確認しないと判断ができません。

法務局や、公証役場以外で保管された遺言書であれば、まずは、すべて検認手続きを行いましょう。

その後、遺言の内容を確認し、重なる内容の部分に関しては、遺言の日付が新しいほうが有効です。
それぞれの遺言にしか記載されていない内容であれば、それぞれが有効となります。

遺言書にない財産が後から出てきた場合

  • 遺言者が財産の存在を忘れていた
  • 遺言書作成後に取得した財産を、遺言書に追加するのを忘れていた

などの事情で、遺言書に記載されていない相続財産が、後から出てきた場合、この相続財産については、別途、相続人全員で、遺産分割協議が必要となります。

場合によっては、すでに分割し終わった相続財産についても、再度協議が必要になるケースもあります。
不安な場合は、トラブルになる前に、一度弁護士にご相談ください。

遺産分割協議の後に遺言書が出てきた場合、どうしたらいい?

「遺産分割協議を終えて、自宅を売却しようと整理していたら、遺言書がみつかった」 このように、遺産分割協議後に、遺言書が出てくるケースがまれにあります。

この場合、わずらわしいと思いますが、原則は遺言書の内容が優先されるため、出てきた遺言書を無視することはできません。

遺言書の内容を踏まえたうえで、それでもなお、遺産分割協議の内容に、全員が納得できるのであれば、遺産分割をやりなおす必要はありません。

ですが、全員が納得できない場合や、受遺者・遺言執行者がいる場合には、すでに終えた遺産分割協議が無効になる可能性があります。

無効になることをおそれて、遺言書を隠したり、破棄してしまうと、相続欠格事由となりかねません。 正直に、他の相続人や受遺者に、遺言書の存在を伝えるようにしましょう。

遺言書が無効になるケース

決められたルールに従って作成されていない遺言書は、法的に無効となるおそれがあります。

そのほかにも、遺言書の作成時に、遺言を作成する能力(遺言能力)が欠如していたと判断される場合や、遺言者以外が作成した疑いのある遺言書、公序良俗に反する内容の遺言書も、無効となる場合があります。

遺言書が無効と判断されてしまうと、相続人全員で、一から遺産分割協議を行うことになります。
ここでは、遺言が無効と判断されたケースの一部をご紹介します。

《遺言書が無効と判断されたケース》

  • 自筆証書遺言なのに、パソコンで作成されていた
  • 遺言書に、日付や署名、押印がない
  • 遺言書を作成時、認知症の症状が進んでいて、遺言を書ける判断能力がなかった
  • 遺言書の作成時、病状が悪化していて、自力で文字を書ける状態ではなかった
  • 遺言書の内容が、不貞関係にある愛人に全財産を遺贈するというものであり、愛人との交際を維持する目的であって妻子の生活が脅かされる場合

遺言書に関するトラブルは弁護士にご相談ください

相続において、遺言書に関するご相談は少なくありません。

有効な遺言書を作成したい人から、遺言の有効性に疑問をもたれる相続人、遺言で財産を取得することになった受遺者など、その内容はさまざまです。

遺言書が法的な効力をもつというということは、それなりの知識が必要となります。
もちろん、ご自身で作成することも、遺言を受けて相続の手続きを行うことも可能です。

ただし、後になって「もっとちゃんとしておけばよかった」と後悔しないためにも、遺言書について少しでも心配なことがあれば、なるべくおはやめに、弁護士へご相談ください。

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
広島県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。