
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
相続が発生したときに、亡くなられた方(=被相続人)が遺言書を作成していないと、遺産分割について親族間で争いに発展することがあります。
一方で、遺言書があることで、かえってトラブルになることも珍しくありません。
そこで今回は、遺言書によくあるトラブルに着目して、遺言書があった場合・なかった場合のトラブルの事例や対処法をご紹介していきたいと思います。
これから遺言書を作成しようとお考えの方や、実際に遺言書のトラブルでお困りの方の参考になれば幸いです。
Contents
遺言書があった場合のトラブル事例
遺言書があった場合、遺言書の取り扱いや遺言の内容にまつわるトラブルが起きやすいです。
以下、遺言書があった場合のトラブルについて、10の事例をご紹介します。
遺言書を勝手に開封した
遺言書を勝手に開封してしまうと、ほかの相続人から偽造や変造を疑われてトラブルになるケースがあります。
遺言書にはいくつか種類があって、「自宅から見つかった遺言書」や「知人に預けられた遺言書」は、第三者に偽造・変造されるおそれがあることから、開封して内容を確認するために家庭裁判所の“検認”という手続きが必要です。
検認の手続きを怠ると、相続に関する様々な手続きも進められなくなるので注意しましょう。
遺言書の種類 | 検認手続き |
---|---|
公証役場で作成・保管される 公正証書遺言書 |
不要 |
公証役場で作成し、遺言者自身で保管する 秘密証書遺言書 |
必要 |
遺言者自身で作成し、法務局で保管する 自筆証書遺言書 |
不要 |
遺言者自身で作成・保管する 自筆証書遺言書 |
必要 |
検認の手続きが必要にもかかわらず遺言書を開封してしまったら?
うっかり遺言書を開封してしまった場合、5万円以下の過料の対象にはなりますが、遺言書が無効になったり、相続人の権利を失ったりすることはないので、速やかに家庭裁判所へ事情を相談して、検認手続きを進めましょう。
遺言書の字が汚くて読めない
遺言書の字が汚くて読めないケースでは、遺言の内容をめぐって相続人の間でトラブルに発展する可能性があります。
また、作成者の遺言能力や、遺言書の偽造・変造が疑われて、遺言書の有効性についても争いが生じるおそれがあります。
遺言書の文字が判読できない場合は?
字が汚いなど、遺言書の文字が判読できない場合は、まずは筆跡鑑定などを専門家に依頼します。
それでも判読できない場合は、その部分は無効となるため、遺言者の意思を推察したり、遺言書はないものとして相続人全員で話し合って取り決めることになります。
日付が特定できない・誤った日付が記載されている
日付が特定できない遺言書や、誤った日付が記載されている遺言書は、遺言書の有効性が問題になる可能性が高いです。
- 「2024年1月吉日」、「1月1日」など、年日付が特定できない
- 「2024年6月31日」など、誤った日付が記載されている
というように、日付が特定できない場合は、遺言書自体が無効となってしまいます。
日付が特定できずに遺言書が無効になった場合は?
日付が特定できず無効になると、遺言書はなかったものとして扱われます。
そのため、相続人全員で遺産分割について話し合う(=遺産分割協議)必要があります。
遺言内容が曖昧
遺言内容が曖昧だと、解釈をめぐってトラブルに発展する可能性が高くなります。
「不動産を息子に、銀行預金を娘に相続させる」という内容の場合、不動産や銀行預金だけでは対象遺産の特定が不十分ですし、息子や娘がひとりでなければ、さらに解釈が複雑になります。
また、「遺産のすべてを長男に任せる」という内容の場合は、相続させたいのか、遺産分割の方法を任せたいのかが不明確です。
このように、曖昧な内容の遺言書については、どのように解釈すべきかが問題になります。
遺言書の内容が曖昧だった場合は?
相続人など、遺言書にかかわる当事者全員で話し合うか、裁判などで解決をはかります。
裁判となった場合、曖昧な部分だけを無効とするか、遺言書自体を無効とするかは、遺言者の真意を探求したうえで、慎重に判断されます。
遺言書の内容に納得いかない
遺言書の内容に納得いかない相続人がひとりでもいると、相続人同士で揉めてトラブルになる可能性があります。
- 相続人の年齢順に遺産を多く割り振られていて納得いかない
- 相続人ではなく、愛人にすべての遺産を渡すと書かれていて納得いかない
など、偏った内容の遺言書はトラブルの原因になりかねません。
遺言書の偏った内容に納得いかない場合は?
遺言書の内容に納得いかない場合は、まずは相続人など遺言書にかかわる当事者全員で話し合います(=遺産分割協議)。
協議で合意できない場合は、法的手段を利用して遺言書の無効や遺留分の侵害を主張する方法が考えられます。
遺言書を無理やり書かされた可能性がある
強迫や詐欺によって、本人の意思に反して遺言書を無理やり書かされた可能性があると、遺言書の有効性が争われることがあります。
とくに、遺言者が高齢者だったり、認知症の疑いがあったりするケースでトラブルになりやすい傾向にあります。
遺言書を無理やり書かされた可能性がある場合は?
この場合は、裁判で遺言書の無効を認めてもらう必要があります。
無効が認められると、相続人全員で遺産分割協議を行うことになり、遺言書を無理やり書かせた相続人は“相続欠格”となるため、遺産分割協議に参加することも、遺産を相続することもできません。
想定してない相続人が現れた
遺言書によって想定してない相続人が現れてトラブルになるケースもあります。
例えば、遺言書に「隠し子を認知し、その子にも遺産を均等に相続させる」と書かれていたり、「前妻との子供にも均等に相続させる」と書かれていたりするケースです。
思わぬ相続人の出現に驚き、想定していなかった相続人に遺産が渡ることが受け入れられず、トラブルに発展してしまうことがあります。
遺言書によって想定してない相続人が現れたら?
相続人としては、遺言書を見なかったことにしたいところですが、遺言書にかかわる当事者(相続人・受遺者・遺言執行者)全員の合意なく、遺言書を無視することはできません。
家族以外に財産を渡すと書かれていた
遺言書に、家族以外に財産を渡すと書かれていた場合にもトラブルに発展する可能性があります。
遺言書は、遺言者本人の意思が尊重されるため、「お世話になったご近所さんに」など、家族以外の特定の個人や団体に財産を渡したいと書かれていたら、その内容に従って遺産分割するのが基本です。
とはいえ、ほかの相続人をないがしろにするような内容だと、遺言書の無効や遺留分をめぐって争いになる可能性が高いです。
遺言書に家族以外に財産を渡すと書かれていたら?
相続人としては遺言書を見なかったことにしたいところですが、遺言書で指定された人を含めた当事者全員の合意なく無視することはできません。
だからといって勝手に遺言書を隠匿・破棄すると相続欠格になるだけでなく、刑事罰が科されるおそれもあります。
寄与分を主張された
遺言書の内容に納得いかない相続人から寄与分を主張されて、トラブルに発展する可能性があります。
寄与分とは、生前の被相続人の財産の維持や増加に貢献をしたことを評価して、特別の寄与をした相続人がより多くの遺産を受け取れる制度です。
「同居して介護したのに、ほかの相続人と均等な配分で納得いかない」などのケースで、相続人間の公平をはかるための制度ですが、判断基準が難しく、金額についても争いになることが少なくありません。
寄与分を主張されたら?
寄与分を主張されたら、まずは遺言書に関わる当事者全員で話し合い、合意できなければ裁判などの法的手段を利用して解決をはかります。
遺産分割協議後に遺言書が見つかった
遺産分割協議後に遺言書が見つかったケースでは、基本的に遺言書の内容が優先されることから、遺産分割の方法について争いが生じることがあります。
遺産分割後に遺言書が見つかったら?
基本的に遺言書の内容で遺産分割をやり直すことになります。
もっとも、遺言書にかかわる当事者(相続人・受遺者・遺言執行者)全員の合意があり、遺言書で遺産分割協議を禁止されていなければ、遺産分割協議で決めた内容のまま遺産分割することができます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言書が無かった場合のトラブル事例
遺言書が無かった場合に起こり得るトラブルには、次のようなものがあります。
- 相続人や相続財産の調査に手間や時間がかかる
- 相続人全員の合意が得られずに遺産分割協議が難航する
- 被相続人の生前の口約束や、寄与分、贈与が問題になることがある
- 相続がきっかけで親族の関係が険悪になってしまう など
このほか、被相続人が生前「遺言書を作成した」と言っていたのに、探してもあるはずの遺言書が見つからずに困るケースもあります。
この場合、公証役場や法務局で保管されていないか照会したり、被相続人と親しかった人に遺言書を預かっていないか確認したりして、自宅以外を捜索する必要があります。
遺言執行者に関するトラブル事例
遺言書にまつわるトラブルには、遺言執行者に関するものもあります。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を担う人のことですが、遺言執行者が指定されていなかったり、選任された遺言執行者が任務を怠ったりしてトラブルになることがあります。
遺言執行者が指定されていない
遺言執行者が指定されていないことで、トラブルにつながる可能性があります。
遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者だけの署名押印で手続きが行えます。
一方で、遺言執行者が指定されていないと、手続きのたびに相続人全員の署名押印が必要になるので、非協力的な相続人がいると手続きが滞るリスクがあります。
遺言執行者が指定されていない場合は?
遺言書に「相続人の廃除・廃除の取り消し」などが記載されていなければ、遺言執行者を指定・選任する必要はありません。
もっとも、遺言執行者が必要な場合は、相続人などの利害関係者が家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」をすることができます。
遺言執行者が任務を怠る
遺言執行者が任務を怠ると、手続きが進まずにトラブルとなる場合があります。
「任務を果たしていない」と判断される主なケースは、次のとおりです。
- 遺言執行者が、正当な理由なく任務を進めてくれない
- 遺言執行者が、遺言書の内容どおりに手続きを行ってくれない
- 遺言執行者が、執行状況を適切に報告してくれない など
遺言執行者が任務を怠る場合は?
遺言執行者が任務を果たさず怠る場合、相続人や受遺者などの利害関係者が、家庭裁判所に解任を申し立てることができます。
解任後は、新たな遺言執行者の選任を申し立てることも可能です。
遺言書でトラブルにならないための対策
相続トラブルを防ぎ、遺言者の意思を正確に実行してもらうために、「遺言書でトラブルにならないための対策」をご紹介します。
- 元気なうちに遺言書を作成する
遺言能力がしっかりしている、元気なうちに遺言書を作成しておき、定期的に内容を見直すようにしましょう。 - 法律上定められた様式を守り、あいまいな表現を避ける
ご自身で遺言書を作成する場合は、法律上定められた様式を守り、解釈に迷わないようにあいまいな表現を避けましょう。 - 遺留分にも配慮する
遺留分をめぐって争いにならないよう、遺留分に配慮した遺言内容にしておきましょう。 - 公正証書遺言書を利用する
遺言書の変造や隠匿を防ぐために、公正証書遺言書を利用するのもおすすめです。 - 遺言執行者を指定しておく
手続きをめぐる争いを防ぐためにも、遺言書であらかじめ、信頼できる遺言執行者を指定しておくと安心です。 - 弁護士などの専門家に遺言書の作成サポートを依頼する
多額の相続税が発生しそうなケースでは税理士に、相続紛争を見据えたアドバイス・サポートが必要なケースでは弁護士に、遺言書作成のサポートを依頼することをおすすめします。
遺言書に関するトラブルは弁護士にお任せください
遺言書があることで、相続による親族間のトラブルを回避できる可能性が高まります。
とはいえ、作成した遺言書の内容に不備があると、かえってトラブルを引き起こすおそれがあるため注意しなければなりません。
弁護士であれば、これから遺言書を作成しようとお考えの方や、遺言書をめぐるトラブルでお困りの方、それぞれのお悩みに寄り添ったアドバイス・サポートが可能です。
「遺言書の作成方法がわからなくて不安」
「遺言書をめぐって親族間で争いに発展しそう」
など、遺言書にまつわるトラブルや、トラブルの防止対策は、弁護士法人ALGまでお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)