労務

副業禁止なのに副業している従業員への対応と注意点

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

  • 副業禁止

近年、働き方改革の一環で、政府が柔軟な働き方を実現するための環境整備を進めていることもあり、副業を解禁する企業が多くなっています。しかし、副業を解禁することで弊害が生じるとして従前どおり従業員の副業を禁止したままという会社も多いのではないでしょうか。

この記事では、そもそも副業を禁止することが可能なのかといった点から、実際に副業を禁止しているのに副業をしている従業員にどのように対応すればいいのかといった点について解説していきます。

従業員の副業禁止は法的に問題ないのか?

そもそも、従業員の副業禁止というと、当たり前にできると思われる方も多いかもしれません。しかし、従業員の場合、憲法が定める職業選択の自由の自由や営業の自由を侵害し公序に反するとされてしまうため、基本的には副業を禁止とすることはできません。

就業規則における副業禁止規定の有効性

それでは、会社のルールである就業規則で従業員の副業禁止規定を定めることは可能でしょうか。結論からいうと、そのような規定自体を定めることは可能です。しかし、副業を行うことで労働者の疲労が増大し、労務の履行が不能又は不完全となるようなおそれがあるなど合理的な理由がなければ、公序または信義則に反するので従業員の副業禁止という内容は労働契約の内容にならない(労働契約法13条)とされます。

まとめると、一律に従業員の副業を禁止するような内容の副業禁止規定は無効とされてしまいますが、副業を行うことで労働者の疲労が増大し、労務の履行が不能又は不完全となるようなおそれがあるなど合理的な理由があるような場合には、就業規則上の副業禁止規定は有効となるでしょう。

従業員が副業禁止に違反している場合はどう対応すべきか?

実際に従業員が就業規則に反し、副業を行っていることが判明した場合、どのように対応していくべきでしょうか。以下ではその対応について解説していきます。

副業禁止違反時の対応方法・流れ

従業員が就業規則に反し副業を行っていることが判明した場合には、会社としては当該従業員に対しまずは口頭や文書等で副業をしないように注意・指導するのが良いでしょう。

それでも、当該従業員が就業規則に反し副業を行うような場合には、次の段階として懲戒処分を検討するのが良いでしょう。

もっとも、以下で解説するように、当該従業員が単に副業を行ったからとして懲戒処分をすることはできません。

副業している従業員を懲戒処分にできる?

副業禁止の就業規則がある会社で、副業をしている従業員がいた場合、副業をしていたことを理由に懲戒処分とすることはできるのでしょうか。

結論からいうと、ここまで述べてきた通り、基本的には、副業をしたことを理由に懲戒処分を行うことは許されません。しかし、例外的に、従業員の副業を禁止すべき合理的な理由があるのに当該従業員が副業を行ったような場合には、当該従業員を副業を行ったことを理由に懲戒処分を行うことができる余地があります。

以下では、従業員の副業を禁止すべき合理的な理由がある場合とはどのような場合であるのかについて解説していきます。

副業で懲戒処分が認められるケース

副業で懲戒処分が認められるケースとは、言い換えると、上述した従業員の副業を禁止すべき合理的な理由がある場合です。

具体的には、

  • 従業員が副業を行うことで長時間労働となり、法律の定める労働時間規制等に違反する場合
  • 従業員が副業を行うことで、労働者の疲労が増え、本業の労務ができなくなったり、不完全なものになってしまう場合
  • 従業員が行おうとする副業が当該会社にとって競業行為にあたり、これを許すと当該会社の企業秘密等が流出してしまう場合

等です。

このような場合には、従業員の副業を禁止すべき合理的な理由がある場合になりますから、当該従業員が副業を行ったことで懲戒処分が認められるケースと言えるでしょう。

懲戒解雇が「不当解雇」とみなされる場合もあるため注意!

既に解説したように、副業禁止という就業規則があったとしても、単に副業を行ったというだけで懲戒処分を行うことは許されません。したがって、単に副業を行ったというだけで、懲戒処分の一つである懲戒解雇を行ってしまうと、懲戒処分の必要性・相当性を欠くとして、不当解雇となってしまう可能性が高いです。

また、懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重いものですから、仮に上述した副業で懲戒処分が認められるケースであったとしても、懲戒解雇以外の懲戒処分でも当該従業員への制裁が十分であると認められてしまうと、当該懲戒解雇は過度に重いものであるとして不当解雇となってしまう可能性があります。

まとめると、単に副業を行ったというだけで懲戒解雇を行うと不当解雇となってしまう可能性が高く、懲戒解雇以外の懲戒処分でも従業員への制裁が十分な場合にはこれも不当解雇になってしまう可能性があるということになります。

副業に関する労使トラブルを防止するための対策

ここまで、実際に従業員との間で副業に関するトラブルが起きた場合の対処等について述べてきました。もっとも、このようなトラブルを防止できるのであればそれに越したことはありません。それでは、具体的にどのような対策を行うことができるのでしょうか。以下では、その対策について解説していきます。

就業規則の整備と周知

まずは、副業禁止に関する就業規則を整備することが不可欠です。ここまで解説してきたように、法律上は従業員が副業を行うことについて何ら制限されていません。したがって、会社のルールである就業規則でこれを制限しなければ、従業員の副業を禁止する根拠が何もないということになってしまいます。

もっとも、単に副業を禁止するという就業規則が無効となり、その副業を禁止すべき合理的な理由がある場合に副業禁止という就業規則が有効になるのは既に解説した通りです。そして、副業を禁止すべき合理的な理由がある場合とは上述したような場合であることを踏まえると、以下のような就業規則を整備することが考えられるでしょう。

就業規則
(副業等)第〇条
1 ・・・
2 ・・・
3 副業等により、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

  • 競業により、企業の利益を損なうおそれがある場合
  • 心身の消耗等により、労務提供上の支障が生じるおそれがある場合
  • 機密情報が流出するおそれがある場合
  • 会社の名誉や信用を損なうおそれがある場合

次に、整備した就業規則を従業員に対し周知することが不可欠です。
当該就業規則の内容が労働契約の内容になるために法律上従業員への周知が必要になります(労働契約法第7条)が、なによりも従業員に周知を行わないと、後々になって従業員が知らずに副業を行いトラブルになってしまったということになりかねないからです。

解雇ではなく退職勧奨を行う

就業規則で副業禁止に関する規定を定めそれを周知したにも拘わらず、それに違反して従業員が副業を行ってしまったような場合には、上述した懲戒処分ではなく、まずは退職勧奨を行った方が良いでしょう。退職勧奨とは、解雇とは異なり、従業員に退職を促して、会社と当該従業員との合意によって、当該従業員に退職してもらうというものになります。

したがって、退職勧奨によった場合には、後々当該従業員から不当解雇で無効な懲戒処分である等として訴えられるリスクを回避することができます。仮に無効な懲戒処分とされてしまうと、会社としては当該従業員に対し未払い給与等を支払わなければならなくなりますから、解雇ではなく退職勧奨を行うメリットは極めて大きなものになります。

以上から、就業規則で副業禁止に関する規定を定めそれを周知したにも拘わらず、それに違反して従業員が副業を行ってしまったような場合には、上述した懲戒処分ではなく、まずは退職勧奨を行った方が良いでしょう。

副業を解禁することも検討する

ここまで副業を禁止することを前提にした事前の対策と事後の対策を解説しましたが、思い切って副業を解禁するのも、副業に関するトラブルを防止する一つの手でしょう。

ただし、副業を解禁するとしても、その結果、従業員の心身が消耗しきってしまったり、会社の利益が害されたりすることは避けるべきです。したがって、基本的には従業員の副業を認めつつ、競業により企業の利益を損なうおそれがある場合や心身の消耗等により労務提供上の支障が生じるおそれがある場合には、例外的に副業を禁止・制限できるとした上で副業を解禁した方が良いでしょう。

副業禁止と懲戒処分に関する裁判例

ここからは、実際に副業禁止に違反して副業を行い懲戒処分が行われたという事案における裁判所の判断を紹介、解説していきます。

事件の概要

本件は、私立大学の教員であった原告が、「無許可の兼職」を行うことを禁止する同大学の就業規則に反し、就業時間外である夜間等に同大学に無許可で語学学校の講師等していたという事案です。
本件では、被告である当該私立大学は、原告に対し、就業時間外である夜間等に同大学に無許可で語学学校の講師等していたことは、就業規則に定めていた懲戒事由の一つである無許可兼職にあたるとして、懲戒処分(諭旨解雇)をしました。このため、原告が、当該懲戒処分の無効を主張していました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、兼職が本来的には労働者の私生活上の行為であるとして、形式的には兼職許可制に違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼職については、兼職を禁止した就業規則の条項に実質的に違反しないとの判断を示しました。

この上で、本件では、原告が被告に対し無許可で語学学校の講師をしたのは、いずれも夜間ないし土曜日であって、この語学学校の教師を行ったことにより原告が行うべき被告における授業等の労務提供に支障が生じたとは言えないし、職場秩序に影響が生じたとも認めることができないとしました。

このため、単に原告が被告に無断で語学学校の講師をしたことだけをもって、就業規則に定める無許可の兼業又は事業には当たらないとの判断を示しています(東京地判平20.12.5)。

ポイント・解説

上記裁判所の判断の最大のポイントは、「無許可の兼業又は事業」という就業規則上の懲戒事由の文言について形式的な当てはめを行うのではなく、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼職については、兼職を禁止した就業規則の条項に実質的に違反しないという、対象範囲を限定する解釈を行ったという点にあります。

本件における被告の就業規則中には、「許可なく公職若しくは学院外の職務に就き、又は事業を営むなどの行為」を教職員はしてはならないという、兼業を禁止する内容の規定がありました。この文言を文言通り解釈すれば、本件においても被告に無許可で語学学校の講師等をしていた以上、「許可なく・・・学院外の職務に就き」という規定に該当します。

しかし、ここまで解説してきたように兼業(副業)を一律に禁止するという就業規則は、従業員の職業選択の自由等を侵害するものとして公序に反し有効と認めることはできません。上述したように兼業(副業)を禁止すべき合理的な理由がある場合に、兼業(副業)を制限する内容の就業規則は有効とみなされます。

このような理解を前提に、裁判所は、形式的には兼職許可制に違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼職については、兼職を禁止した就業規則の条項に実質的に違反しないとの限定した解釈を示したものと考えられます。

副業に関する従業員対応でお困りの際は弁護士までご相談下さい。

ここまで解説してきたように、従業員が単に会社の就業規則に反して副業をしていたとしても、そのことだけを理由に懲戒処分等をしてしまうと、懲戒処分の無効を争われるなど法的リスクが高まります。労務問題に詳しい弁護士であれば、このようなリスクを回避しつつ就業規則に反して副業をしている従業員への対応が可能です。

副業に関する従業員対応でお困りの際は、是非一度弁護士までご相談ください。

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広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
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