労務

休職命令を強制できる?休職命令を拒否する従業員の対応方法

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

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休職制度は、使用者が人事政策の観点から創設する任意の制度ですから、どのような場合に会社が従業員を休職させることができるかなどは、基本的には会社の裁量で決めることができます。もっとも、休職が従業員に不利益に働く場合、会社が出した休職命令を従業員が拒否することがあります。

そのような場合、当該従業員に対して休職命令を強制できるか、また、どのように対応すべきかが問題となります。

従業員が休職命令を拒否する理由とは?

休職制度のひとつとして、会社は、私傷病休職制度を設けていることがあります。私傷病休職は、一般的に、私的な病気や負傷を理由に労務への従事が不能なとき労務への従事を一定期間免除し、その期間中に回復すれば復職、期間満了時に回復していなければ自然退職や解雇になるというものです。従業員としては、休職期間満了後に復帰できなければ会社を辞めなくてはいけないので、このような場合に、従業員が休職命令を拒否することがあります。

会社は休職命令を強制することができるのか?

休職制度は就業規則で定められていることが多く、その内容が合理的であることは前提ですが(労働契約法7条本文)、前記のとおり、休職制度は任意の制度ですから、どのような場合に従業員を休職させることができるかは、会社が自由に設計することができます。したがって、就業規則等で定められた休職事由に該当する場合には、権利濫用といった事情がない限り、会社は休職命令を発して、当該従業員を休職させることができます。

休職命令を出す目的とは

私傷病休職の場合、一般的に、私的な病気や負傷などで長期間働けなくなった従業員に対し、解雇・退職を猶予し、療養の機会を与えて、いたずらに職を失わせないようにする目的で設計されていることが多いです

従業員側にも健康を保つ義務がある

労働契約の内容として、労働者は、使用者に対して労務を提供する義務があります(民法623条、労働契約法6条)。健康を害して労務提供できない場合、当該従業員は労務提供義務を果たせていないことになるので、そういった意味では、従業員側も、自身の健康は自身で保たなければならないといえます。

休職命令を強制する方法

休職命令を発令しても、当該休職命令が違法であるとして、従業員から休職命令の適法性を争われることがあります。では、休職命令が後から問題とならないためには、どのようなことに気を付けなければならないでしょうか。

休職命令について就業規則に規定する

休職命令を発令するためには、どのような場合に労働者を休職させることができるかが、労働契約の内容となっていなければなりません(労働契約法7条本文)。

休職制度は、就業規則に規定することにより労働契約の内容としていることが多いですが、この場合、就業規則の休職事由に当該従業員が該当することを根拠に休職命令を発令することができます。したがって、あらかじめ就業規則に休職命令について規定する必要があります。

産業医や主治医の意見を聞く

従業員を休職させなければならないのか、また、復職が可能なのかといったことは、必ずしも会社に専門的知見があるわけではありません。そのため、休職事由の有無・復職の可否を客観的に判断するためにも、主治医や産業医の意見を聞いたり、診断書を提出させたりすることが必要となる場合があります。

従業員に休職の必要性を説明する

後から従業員に休職命令を争われないためにも、当該従業員に対して、事前に休職について説明をすることが望ましいです。その際には、休職事由に該当することや、休職の必要性、期間、賃金等について丁寧に説明する必要があると思われます。

休職命令に応じない従業員を懲戒処分にできるか?

適法な休職命令は、業務命令として従業員は従わなければなりませんから、業務命令違反が懲戒事由として定められている場合、休職命令に応じない従業員に対し、懲戒処分をすることは可能です。

なお、懲戒処分の内容が妥当でなければならないことや、当該従業員に弁明の機会を与えなければならないなど、懲戒処分の有効性の問題は別途生じ得ます(労働契約法15条)。

休職命令が無効となるケースもあるので注意!

休職事由が存在しないにもかかわらずなされた休職命令は無効となりますし、また、形式的に休職事由に該当しても、従業員の体調が回復しつつあり、職場に復帰できる状態にあるなど、実質的に従業員が働けない状態にあるとはいえない場合、権利濫用として休職命令が無効になる場合があります。

休職命令が無効となった場合、私傷病休職期間中は無給であることを就業規則で定めていたとしても、民法536条2項により、従業員は、会社に対し、休職期間中の賃金を請求することができます。

休職命令の有効性が問われた裁判例

休職命令の有効性が問われた裁判例として、東菱薬品工業事件(東京地裁令和2年3月25日判決、労働判例1247号76頁)があります。

事件の概要

この事件では、業務外の傷病により欠勤していた労働者から、「軽作業であれば就業可能」とする診断書が提出され、従前の業務に復職することも可能であるから職場復帰の申出をしたにもかかわらず、会社が、遂行可能な業務はないと判断して、休職命令を発したこと等が問題になりました。

裁判所の判断

裁判所は、会社が、当該労働者が従前の業務について遂行可能性がないと判断したことに合理性がないとはいえないものの、労働者の体調を確認したり、産業医へ相談したりすることなく、当該労働者に担当させる業務がほかに存在しないとして、復職を認めず、休職命令を発した行為は違法であると判断しました。

ポイント・解説

休職事由に該当するかどうかを会社が判断するにあたり、その判断の合理性が担保されていなければ休職命令が違法になり得ることがポイントです。会社としては、当該従業員への聞き取りや医師の専門的知見に基づく意見を踏まえ、それを十分尊重しながら休職事由に該当するかどうかを検討することが求められます。

休職命令についてお悩みの際は、人事労務に詳しい弁護士にご相談ください。

以上見てきたとおり、休職事由に該当しないにもかかわらず行った休職命令は違法であり、そうすると、休職期間中の賃金も支払わなければなかったり、休職期間満了後に退職・解雇となる場合は、従業員が処分を争って訴訟に発展したりすることもあることから、会社としては、休職命令を発令するにあたっては慎重な検討が求められます。

このような問題は、事前に、早期に、専門家である弁護士に相談することが望ましいと思われます。ぜひ、弁護士法人ALG&Associates広島法律事務所にご相談ください。

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監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
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