労務

労働契約や就業規則に定めのない労使慣行が持つ法的拘束力とは

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

  • 労使慣行

労使慣行は、就業規則や労働協約に明文の根拠があるものではないため、どのような場合に労使慣行に法的拘束力が認められるのか、認められる場合、労使慣行を変更・廃止にはどうするか等の問題が生じ得ます。以下、労使慣行について詳しくみていきましょう。

労働契約や就業規則に定めのない「労使慣行」とは?

労使慣行は、就業規則等に明文の規定はないものの、職場で長期間にわたって繰り返し行われている取り扱いのことをいいます。

なぜ労使慣行が労働条件になりうるのか?

契約内容について当事者の意思が明確でない場合でも、事実上行われている慣習(事実たる慣習)によって契約の内容が補充されることがあり、民法92条は法令上の任意規定と慣習の内容が異なる場合には、事実たる慣習が優先されることを定めています。労使慣行は、この民法92条を根拠に労働者の労働条件となり得ます。

労使慣行の具体的な法的拘束力

労使慣行に法的拘束力が認められると、労働者は、労働契約上の権利としてその取扱いの継続を求めることができることになります。例えば、就業規則に明記されていない賃金の支払いが労使慣行として認められた場合は、労働者はその賃金の支払いを求めることができることになります。

労働契約・就業規則・労使慣行の効力の優先順位

労使慣行が労働契約の内容となった場合、労働契約と同等の効力をもつことになります。就業規則の最低基準効(労働契約法12条、労働基準法93条)から、就業規則よりも不利な内容の労使慣行は無効となるため、労使慣行が就業規則より不利な内容であれば就業規則が優先し、有利な内容であれば、労使慣行が優先します。労働契約と就業規則との関係も同様です。

労使慣行の成立が認められる要件とは?

労使慣行の成立が認められる要件として、裁判例は、①同種の行為又は事実が長期間反復継続して行われたこと、②労使双方が明示的にその慣行に従うことを排除・排斥していないこと、③その慣行が労使双方の規範意識に支えられていることを必要としています。

①だけでは労使慣行として認められず、②③を満たすかがポイントで、裁判例からすると厳格に判断している傾向にあり、労使慣行は認められるのは例外的な場面に止まります。

強行法規に違反する労使慣行は認められない

法律の規定のうち、公の秩序に関するものは強行法規と呼ばれますが、労働契約にせよ労使慣行にせよ、強行法規に反するものは無効となります。例えば、労働基準法に反する労使慣行は認められません。

労使慣行とみなされる具体的なケース

裁判例では、退職金支給基準を定めた内規があり、それにより十数年来、基本給に一定率を乗じた退職金が支給されてきたことで、当該退職金が支給されるという労使慣行が存在していたとしたものがあります。これに対し、経理部長の過誤により約8年間十数人の退職者に本給・加給を算定基礎とした退職金を支給した事案では、労使慣行の法的拘束力を否定しています。

就業規則は労使慣行に合わせて改訂すべきか?

法的に必須ではないですが、取り扱いを明確にするため就業規則を改訂することが望ましいと思われます。

労使慣行の内容を変更・廃止する場合の注意点

労使慣行が労働契約の内容となっている場合、労使慣行の変更・廃止には、労働条件の不利益変更に準じた問題が生じ得ます。そのため、就業規則を改訂して労使慣行を変更・廃止する場合、変更・廃止の必要性や、慣行の内容、不利益の程度、変更・廃止後の内容の相当性、代償措置、事前説明や協議等の事情から、当該不利益変更に合理性が認められなければなりません。

労使慣行の効力について争われた裁判例

労使慣行の効力が争われた事件として学校法人明泉学園事件(東京地判令和元年12月12日)があります。

事件の概要

本件は、高校の常勤講師であった原告が、昭和54年度から平成10年度まで、長期欠勤等特段の事情がない限り、教員全員が毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給していたのだから、その旨の労使慣行が成立していたとして、学校に対し、定期昇給打ち切り後の差額賃金の支払い等を求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、昭和54年度から平成10年度までの間、長期欠勤等をした者を除いて常勤講師を含む全教員が定期昇給していたことや、定期昇給の運用基準が廃止・変更されていないこと等を考慮し、法的拘束力を有する労使慣行が成立していたと判断しました。

ポイント・解説

労使慣行が法的拘束力を有するには、単に同種の行為又は事実が長く繰り返されてきただけでは足らず、当該労働条件の内容を決定する権限を有する者、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識をもって一定の取り扱いを反復継続してきたことが必要とされています。上記裁判例でも、定期昇給の事実が継続していたことだけでなく、学校側も内規に従い定期昇給させていたことを考慮しています。

労使慣行や就業規則に関するお悩みは、労働問題を得意とする弁護士にお任せ下さい。

労使慣行については、当該労使慣行が労働契約の内容として法的拘束力を有するかといった問題や、これにより将来的な拘束を受けないよう変更・廃止するためにいかなる手順を踏むべきかといった問題が生じ得ます。また、労使慣行が法的拘束力を持つかどうかとは別に、これに反する使用者の権利行使が権利濫用として無効となる可能性もあります。

このような問題は、早期に、専門家である弁護士に相談することが望ましいと思われますので、ぜひ、弁護士法人ALG&Associates広島法律事務所にご相談ください。

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監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
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