監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
近年、労働組合の組織率は20%を下回る水準で推移しており、ストライキ等の争議行為もあまり見かけなくなりました。
しかし、物価高騰や人手不足のような社会の変化に伴い、今後は労働組合が増加していく可能性もあります。そして、今まで労働組合が少なかったからこそ、対応方法が分からず困難に直面するおそれがあります。
この記事では、団体交渉の流れや対応方法等について解説します。
Contents
労働組合との団体交渉対策の重要性について
会社は、団体交渉の対策を、労働組合から交渉を求められる前に立てておくことが重要です。
労働組合から団体交渉を求められた場合には、基本的に交渉に応じる必要があり、誠実に交渉しなければなりません。しかし、労働組合の要求を受け入れる義務はありません。
事前に対策を行わなければ、労働組合からの要求を受けたときに、交渉を拒否してしまったり、過大な要求を受け入れてしまったりするおそれがあります。また、労働者が外部の労働組合に加入することも想定して対策を立てる必要があります。
企業に求められる誠実交渉義務
誠実交渉義務とは、労働組合の主張や要求に対して、交渉の場に立って回答し、要求に応じられないのであればその理由や根拠等を示して誠実に対応しなければならないことを意味します。
労働組合からの要求を受け入れる義務はありませんが、拒否するとしても理由や根拠を示す等、誠実な交渉を行わなければなりません。
具体的に、誠実交渉義務に違反する言動として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 正当な理由なく交渉を拒否する
- あらゆる要求に応じないことを交渉の前に宣言する
- 一切の権限のない平社員等だけに交渉を任せる
- 表面的には交渉に応じているが、あらゆる要求に応じず、その理由も回答しない
団体交渉の拒否は可能か
労働組合から要求された団体交渉は、基本的に拒否することができません。例外的に拒否できる場合もありますが、正当な理由が必要となります。
団体交渉を拒否できる理由として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 交渉を何度重ねても進展せず、これから進展する見込みもない
- 労働組合の暴言や暴力行為等によって、正常な話し合いができない
- 裁判の判決が確定した事項についての交渉を要求されている
労働組合と団体交渉を行う際の対応
労働組合との団体交渉では、事前に交渉のルールを取り決めておくことが重要です。ルールを決めるときには、なるべく以下のようなものを盛り込みましょう。
- 業務時間外に団体交渉を実施する
- 社外の貸会議室等で団体交渉を実施する
- 1回の交渉は2時間程度に抑える
申入れを受ける前の対応・準備
団体交渉の申入れを受ける前であっても、なるべく弁護士等の専門家と、労働組合への対応について検討しておくことが望ましいでしょう。
特に、「労働組合加入通知書」や「労働組合結成通知書」が送られてきたときには、社内の労働者が労働組合に加入したり、労働組合を新設したりしたことを意味するので、団体交渉の申入れが行われるまで時間がないと考えられます。
すぐに労働組合の名称を確認して、どのような組合なのかを調査しましょう。また、加入した労働者が判明している場合には、団体交渉で要求される事項について予測して対策を立てましょう。
労働組合法上の労働者性の判断基準
労働組合法では、労働組合に加入できる「労働者」として、労働基準法よりも広い概念を採用しています。すなわち、労働組合法上の「労働者」は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他に準ずる収入によって生活する者」(労働組合法3条)とされており、労働基準法上の「労働者」(労働基準法9条)に比べ「使用され」という要素が含まれていません。
労働組合に加入できる「労働者」として認められるための要素は、以下のようなものです。
【「労働者」に該当すると判断するための要素】
- 労務供給者が、相手方の事業遂行に欠かせない労働力として組織内に確保されているか
- 契約の締結方法等から、労働条件や、提供する労務の内容を相手方が一方的に決定しているか
- 労務供給者の報酬が、労務供給への対価等としての性格を有するか
【「労働者」に該当しやすくなる要素】
- 労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応じる関係にあるか
- 労務供給者が、相手方によって日時や場所を拘束されて、指揮監督の下に労務提供を行っているか
【「労働者」に該当しにくくなる要素】
- 労務供給者が、恒常的に自らの判断で利益を得る機会があって、自らリスクを引き受けて事業を行う者とみられるか
団体交渉の流れ及び留意点
団体交渉の流れは、主に以下のようなものです。
- 事前の交渉で日時や場所、主な議題等を取り決める
- 団体交渉の場では、会社側の主張を冷静に伝えて、可能な限り根拠等を示す
- 労働組合側が考えている妥協点等を探る
- なるべく協議内容を持ち帰り、妥協できる点については次回期日に提示する
特に気をつけるべき点として、交渉の場で繰り返し妥協するべきではないということが挙げられます。そのような交渉態度だと、労働組合側の要求が次第に増えていき、最終的には使用者側が譲歩しすぎてしまった状態に陥るリスクが高くなります。
団体交渉時の対応・注意点
団体交渉時には、まずは労働組合の要求について交渉しなければならないのかを見極めましょう。
また、何らかの文書への署名を求められても応じないようにしましょう。たとえ「覚書」等の名目であったとしても、文書に署名することによって「労働協約」が成立し、労働組合に重大な権利が発生してしまうおそれがあります。
義務的・任意的団交事項の条項
労働組合の要求については、必ず交渉するべき「義務的団交事項」なのか、交渉に応じる義務のない「任意的団交事項」なのかを見極めましょう。
「義務的団交事項」と「任意的団交事項」として、それぞれ主に以下のようなものが挙げられます。
【義務的団交事項】
- 賃金
- 退職金
- 労働時間
- 休憩時間
- 休日
- 解雇
- 懲戒処分
- 配置転換
- 職場の安全衛生
【任意的団交事項】
- 会社の経営戦略
- 無関係な労働者のプライバシーに関すること(賃金や退職金等)
ただし、会社の経営戦略が労働者の賃金や解雇などに影響する場合がある等、明確な線引きは難しいため、なるべく団体交渉の申入れに対する門前払いは行わないようにしましょう。
労働組合からの不当な要求への対応法
労働組合から不当な要求を受けた場合、基本的には拒否しましょう。ただし、感情的にならず、理由を明確に伝えることが重要です。
例えば、「すべての要求を受け入れろ」等の要求については、使用者側にそのような義務がないことを伝えましょう。
また、「事前に交渉事項として伝えられなかった事項の交渉・受け入れ」を要求された場合等では、その場で回答せず、1回は会社に持ち帰るようにしましょう。
交渉後の和解・決裂時の対応
団体交渉が和解によって終わる場合には、労働協約を作成して紛争の蒸し返しを防止するとともに、他の労働者との紛争を発生させないための対策を行いましょう。
また、団体交渉が決裂してしまった場合には、労働組合が使ってくる戦術を予測して、慌てないようにしましょう。そして、最終的には労働審判等によって解決することを考慮しながら、弁護士等の専門家と対策を考えておきましょう。
労働協約作成の注意点
労働協約とは、使用者と労働組合との間の取り決めを書面にまとめたものであり、双方が署名することによって法的な効力を持ちます。
労働協約を作成するときには、会社が不当なダメージを受けないようにしなければなりません。そこで、特に以下の点には注意しましょう。
- 合意した内容を正確に記載する
曖昧なことや誤ったことを記載してしまうと、予想外の義務が発生してしまうおそれがあるため、文面は慎重に確認しましょう。
- 特定の組合員に関係のある労働協約には、当該組合員にも署名してもらう
組合員が労働組合から脱退したときに備えて、関係者には署名してもらいましょう。
- 清算条項を盛り込む
未払い賃金の問題等について交渉した場合には、紛争の蒸し返しを防ぐために、お互いに他の債権債務がないことを明記しましょう。
- 他の労働者に知られたくない事項については口外禁止条項を盛り込む
賃金の引き上げ等の事項については、他の労働者に知られると、そちらからも要求されるリスクがあるため口外させないようにしましょう。
交渉決裂時の対応
団体交渉が決裂すると、労働組合は以下のような手段を用いるおそれがあります。
- 街頭宣伝
- ビラ配り
- ストライキ
- 労働委員会への不当労働行為の審査申立て
- 労働委員会の個別労働紛争のあっせん手続き
- 労働審判の申立て
- 訴訟提起
これらのような手段が用いられないことが望ましく、状況によっては妥協も必要となりますが、あらゆる要求を受け入れるわけにはいかないため、労働組合が用いる手段を念頭に置きながら団体交渉に臨みましょう。
労働組合が過激な言動をするおそれがあるときには、事前に弁護士等の専門家に相談しておくようにしましょう。
争議行為における正当性
争議行為の正当性は、主に以下のような点から判断されます。
- 主体
争議行為の主体は、団体交渉によって問題を解決できる労働組合等である必要があります。そのため、労働組合としての意思決定を無視して、組合員の一部が行うストライキ等は正当性を欠いている可能性が高いです。
- 目的
争議行為の目的は、基本的に使用者の意思によって決められる物事でなければなりません。そのため、使用者には決められない物事について争議行為が行われると、正当性を欠いている可能性が高いです。
- 手続
争議行為は、基本的に団体交渉の後で行われる必要があります。そのため、使用者側が団体交渉に応じようとしているのに、その前に争議行為が開始されてしまうと正当性を欠いている可能性が高いです。また、争議行為が行われる前には、使用者側が回避に向けて交渉するだけの時間的な余裕があるタイミングで予告されなければ正当性を欠くことになります。
- 手段
争議行為は、基本的にはストライキ等の消極的な手段のみ認められます。そのため、暴力や破壊行為を伴うものや、組合員でない労働者を強制的に追い出す等の行為については正当性を欠いている可能性が高いです。
民事免責
民事免責とは、正当な争議行為については損害賠償請求を受けないということです。
争議行為は労働契約による労働の義務を履行していないため、形式的には債務不履行になります。また、不法行為に該当すると考えられる争議行為もあり、本来であれば損害賠償請求を受けるおそれのあるものです。
しかし、正当な争議行為については、会社側からの損害賠償請求が認められていません(労働組合法8条)。
なお、会社の内部においても、正当な争議行為を行った労働者について解雇や懲戒処分を行うことは認められません。
刑事免責
刑事免責とは、正当な争議行為については刑罰を科されないということです。争議行為は、形式的には強要罪や建造物侵入罪、威力業務妨害罪等に問われるおそれのある行為ですが、正当なものについては刑罰を科されません(労働組合法1条2項、刑法35条)。
刑事免責があることによって、労働組合は刑罰を受けることを心配せずに争議行為を行うことができます。
ただし、労働組合の人間が使用者側の人間を殴打したり、会社の設備を故意に破壊したりすれば、争議行為のときの出来事であっても刑事免責が適用されなくなるため、刑罰を受けるおそれがあります。
労働組合との団体交渉を弁護士へ依頼するメリット
今や、労働者が1人も労働組合に加入していないという会社も珍しくありません。しかし、そのために労働組合への対応に慣れておらず、突然の交渉の申込みによって動揺し、事態を悪化させたり譲歩しすぎたりしてしまう事態に陥る可能性も考えられます。
労働組合の結成や今後の団体交渉に備えて、まずは弁護士にご相談ください。そして、労働組合の要求について検討し、十分に対策を練ることができる体制を整えましょう。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
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