監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
- 法定休日
- 法定外休日
法定休日と法定外休日という言葉を聞いた際、その違いを正確に理解されておられるでしょうか。どちらも同じような意味とお考えの方も、実は多いのではないでしょうか。
しかし、これらを正確に押さえておかないと以下で解説するように特に割増賃金の割増率の支払いの際に大きな差異が生じ、労働者との間で大きな紛争となってしまう可能性があります。
Contents
「法定休日」と「法定外休日」の違いとは?
冒頭で述べたように、法定休日と法定外休日とでは割増賃金の支払い義務の額に差異が生じてきます。そこで、まずは法定休日と法定外休日の違いについて明らかにしていきます。
法定休日の定義
法律上、「使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回以上の休日を」又は、「4週間を通じ4日以上の休日を」与えることが要求されています(労働基準法35条)。この、法律上要求される一定の休日のことを法定休日といいます。
法定外休日の定義
上で述べた休日以外にも、一般的にお休みがある会社は多いのではないでしょうか。このような、お休みは、使用者が労働者に対して付与する上記法定休日以外の休日となります。このような休日のことを法定外休日といいます。
法定休日を与えなかった場合の罰則について
法律上、このような法定休日を与えなかった場合には、使用者は6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法119条1項)。
就業規則に法定休日を記載していない場合
法律上、一定の使用者は就業規則を作成する義務を負います(労働基準法89条)。そして、当該就業規則について、休日に関する事項を定めることが必要とされます(労働基準法89条1項)。もっとも、この休日に関する事項については、就業規則において法定休日を特定することまで要求しているものではありません。したがって、就業規則に休日に関する事項の記載はあるが、法定休日の特定がされていないという場合には、労働基準法上の罰則を受けることはないでしょう。
36協定を締結せずに休日労働させた場合も罰則の対象
なお、使用者が休日に労働者に対し労働を命じるにあたっては、その大前提として「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」が不可欠となります(労働基準法36条1項)。このような協定を一般的に36協定といいます。
仮に、36協定を締結せずに使用者が労働者に対し休日労働を命じてしまった場合、実質的には使用者が労働者に対し休日を与えていないことになりますので、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
「法定休日」と「法定外休日」の割増賃金における違いとは?
ここまで、「法定休日」と「法定外休日」の違いについて述べてきましたが、これらは割増賃金の計算に当たっても違いが生じてきます。
法律上、「法定休日」に労働者に労働をさせた場合の割増率は、35パーセントとされます。他方、「法定外休日」に労働者に労働をさせた場合、上記35パーセントの割増率の支払いは基本的には不要です。ただし、「法定外休日」の労働が時間外労働に該当する場合(1日8時間・週40時間を労働時間が超えるケース)には、時間外労働の割増率として、25パーセント以上の割増率の支払いが必要になってきます。
深夜労働をさせた場合の割増賃金について
深夜労働(原則、午後10時から午前5時まで)を行わせた場合、法律上割増率を25パーセント以上積んで割増賃金を計算しなくてはなりません(労働基準法37条4項)。この割増率の積増しについては、法定休日の場合と法定外休日の場合で差異はありません。つまり、法定休日に深夜労働をさせる場合には、割増賃金の計算にあたって、35パーセント+25パーセントもの割増率を生じることになるので注意が必要です。
「代休」と「振替休日」の違いとは?
続けて、「代休」と「振替休日」の差異についても解説していきます。
まず、「代休」とは、先に労働者に対し休日労働を行わせた後に、労働日であった別の日を代わりの休日とするような場合をいいます。他方、「振替休日」とは、労働者に対し休日労働を行わせる前に、予め別の労働日を代わりに休日とするような場合をいいます。
つまり、これらの違いは、
「労働者が、休日労働を行う前に、予め別の労働日を休日として指定したかどうか」
にあるといえるでしょう。
「代休」や「振替休日」で労働させた場合の割増賃金の違い
それでは、「代休」及び「振替休日」で労働させた場合に、割増賃金の割増率に何らかの差異が生じることはあるのでしょうか。
上で述べたように、「代休」と「振替休日」の差異は、事前に労働者に対し、別の労働日を休日として指定したかどうかです。別の労働日を予め休日に指定した場合には、当初の休日は、法律上休日ではなくなります。したがって、「振替休日」の場合には、休日労働という意味での割増賃金の割増率が問題になることはありません。
他方、「代休」の場合には、あくまで休日に労働しているという事実には変化がないので、「振替休日」の場合と異なり、休日労働という意味での割増賃金の割増率が問題になります。そして、その割増率については上述の通り、当該休日が法定休日であれば35パーセントの割増率の支払いが必要となり、法定外休日であれば25パーセント以上の割増率の支払いが必要になる場合があります。
法定休日は必ず特定しておく必要があるのか?
最初に述べたように、法定休日を特定することまでは法律上要求されていないとされます。しかし、休日を具体的に特定することは労働者の生活設計に重要な事項ですし、行政通達上も休日を具体的に特定することを要請していると考えられます。このようなことからすれば、法律上要求されているとまではいえないものの、法定休日を具体的に特定することが望ましいでしょう。
法定休日はどのように決める?
まずは、就業規則等で具体的な法定休日を特定するということが考えられます。仮に、就業規則で法定休日を特定していないような場合には、暦週の中で確保されている1日の休日が法定休日となります。
祝日は法定休日になるのか?
上述のように、法定休日は就業規則で定めることが可能ですから、仮に使用者が祝日を法定休日にすると定めたような場合には、その祝日が法定休日となり得ます。
就業規則にはどのように規定すべき?
就業規則上、特定の日が法定休日であることを規定するに加え、
- 会社が指定する日も法定休日となる旨
- 業務の都合により会社が必要と認める場合には、予めその法定休日を他の日に振り替えることがある旨
を規定しておくのが望ましいでしょう。
法定休日や法定外休日が争点となった裁判例
法定休日か法定外休日かが争点になった裁判例として、ファニメディック事件(東京地判平成25.7.23)を紹介します。
事件の概要
この事件において、就業規則上、休日の定めについては「休日は原則として週休2日制とし、各人の休日について事前にシフトで定めるものとする」旨規定されているに過ぎず、雇用契約書上も「週休2日」と記載されているだけでした。このように、就業規則上も、その土日のいずれが法定休日となるのか特定されていないという事案でした。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、以下のように述べて、土日の内一方について勤務日でない場合には、他方を出勤していても法定外休日に当たらないと判断しました。
すなわち、全証拠を総合しても、週休とされていた土曜日及び日曜日のいずれか一方に法定休日が特定されていたとは判断できない。このような場合、2日の休日は全く同じ法的性質を持つ休日であるから、いずれも法定休日となりうることができ、どちらか一方が休みであれば労働基準法35条違反は生じず、したがって、労働基準法37条の休日割増賃金の問題は生じない。
このような判断をしています。
ポイント・解説
当該事案は、上に述べた通り、週休2日制を採用していることは明らかであるものの、就業規則上はそのどちらが法定休日であるか特定していないケースでした。このため、裁判所としては、週休とされた2日間はいずれも法的に差をつけることができないとして、いずれか一方を法定休日とした上で、法定休日としなかった方については法定外休日と判断したと考えられます。
逆に、就業規則上、法定休日を毎週日曜日とすることを特定したケースでは、日曜日の出金についていずれも法定休日と扱われています(東京地判平成26年8月26日)。
この東京地判平成26年8月26日の事案を踏まえれば、今回の事案においても就業規則上特定させしておけば、就業規則で特定された日が法定休日と判断されていたといえるでしょう。
法定休日となるか法定外休日となるかでは、ここまで解説してきた通り、特に割増賃金の割増率において大きな差が生じてくるため、労働者側が強く争うことが想定されます。このような争いを避けるためにも、就業規則で法定休日について特定しておいた方が良いでしょう。
法定休日と法定外休日の違いで不明点があれば、労務問題に強い弁護士にご相談ください。
ここまで述べてきた通り、法定休日と法定外休日は紛らわしい上に、特に割増賃金の割増率の算定に当たって大きな差が生じ、労働者との対立が激化してしまう可能性が十分にあります。このため、使用者としては、これらの違いを正確に意識しつつ就業規則を整備していく必要があるといえるでしょう。
もっとも、就業規則の整備と一言で言っても、ここまで述べたように様々な注意点を踏まえ整備していく必要があり、複雑なものとなります。このため、整備された就業規則にご不安な点があれば、是非一度弁護士にご相談ください。弁護士法人ALG&Associatesは日々労務問題への対応を行っており、今回解説した法定休日・法定外休日の取扱いについても習熟しており、的確なサポートをご提供できます。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
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