労務

業務命令が無効になるケースとは?業務命令権の濫用を判断する基準

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

  • 業務命令

会社は、労働者に対して指揮命令権を有しますが、どこまでの範囲で業務命令を出せるものなのでしょうか。また、どのような場合に無効になるのでしょうか。
以下では、業務命令が権利濫用として無効になる場合を中心として、会社の業務命令権について見ていきます。

業務命令が無効になるケースとは?

労働者は、労働契約上、使用者の指揮命令を受けながら労務を提供する義務を負います。しかし、労働者の指揮命令権にも限界があり、無効になるケースもあります。
具体的には次のとおりです。

法令や社内規則に違反するケース

業務命令は労働契約に根拠が求められますから、社内規則に違反する命令は労働契約の範囲内でなされたものとはいえず、無効となる可能性があります。
また、違法行為を命じるなど法令に違反する場合も無効となります。

権利の濫用に該当するケース

業務命令が労働契約の範囲内でなされた場合でも、権利の濫用(民法1条3項、労契法3条5項)に当たる場合は無効となります。
例えば、懲罰目的でなされる場合や労働者の人格権を侵害するような場合がこれに当たります。

そもそも「業務命令」とは?

使用者は、労働者に対し、労働契約上の指揮命令権を有しますが、それだけでなく、広く企業の業務全般について労働者に指示・命令を行うことができるといわれています。
このような指示・命令を業務命令と呼びます。

業務命令権の範囲はどこまで認められる?

業務命令権は、労働者の本来的な職務を超え、出張や研修、健康診断、自宅待機などにも及びうるとされています。

業務命令が権利の濫用にあたるかどうかの判断基準

業務命令が権利の濫用に当たるかどうかにつき、転勤命令が権利濫用に当たるかが問題となった東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)で、最高裁は、次のような考慮要素をあげています。

①業務上の必要性

業務上の必要性がないにもかかわらずなされた業務命令は権利濫用と認められると思われます。

もっとも、必要性の程度について、前記東亜ペイント事件では、転勤命令に関する業務上の必要性につき、「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではな」いとし、「企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべき」としています。

②不当な動機・目的

不当な動機・目的としては、組合活動の封じ込めや退職追い込み、内部通報者への報復等が典型的です。
これらを動機・目的としてなされた業務命令は権利濫用と評価されます。

③労働者への著しい不利益

労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせる場合も権利濫用と評価されることになります。重度の病気・障害を抱える家族の介護・看護などがある場合等の例外的な場合に限られ、容易には認められていません。

業務命令権の濫用について争われた裁判例

転勤命令の有効性が争われた裁判例(ケンウッド事件・最高裁平成12年1月28日判決)を見ていきましょう。

事件の概要

本件は、共働きで3歳の子の保育園への送迎を夫と分担して行ってきた妻が、転勤により通勤時間が約50分から約1時間45分になるという状況でなされた転勤命令を権利濫用として争った事案です。

裁判所の判断

裁判所は、「転勤命令は、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、権利の濫用になるものではない」とし、①業務上の必要性を認め、②不当な動機・目的や③著しい不利益は認めず、権利濫用ではないと判断しました。

ポイント・解説

本件では、本件転勤命令による不利益は必ずしも小さくはないとしながらも、なお「通常甘受すべき程度を著しく超える」とまではいえないとしています。「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がある場合については、裁判所は容易に認めない傾向にあると言われています。

しかし、今日では、育児介護休業法26条において、就業場所の変更を伴う異動については、育児や介護の状況に配慮しなければならない規定が設けられていることから、育児・介護の状況への配慮が全く欠ける転勤命令については、会社に厳しい判断がなされる可能性もあります。

業務命令違反があった場合の懲戒処分について

業務命令違反を理由として、会社が労働者に対し懲戒処分をするというケースを考えてみましょう。

懲戒処分をするには業務命令が有効であることが前提

業務命令違反を理由とする懲戒処分については、その前提として、業務命令が有効でなければなりません。例えば、配転命令や出向命令を拒否したことに対する懲戒処分をするに当たって、配転命令や出向命令が無効であれば、その拒否を理由とする懲戒処分もまた無効になります。

業務命令の違法性が疑われた場合の企業リスク

業務命令が違法である場合、それを前提とする後続の処分も無効となるように、企業の業務遂行に大きな影響が生じます。また、適法な業務命令も違法の可能性があるとして、労働者がこれに従わないなど、会社の指揮命令権にも重大な影響を生じさせるリスクがあります。

業務命令についてお悩みなら、労務問題に詳しい弁護士にご相談下さい。

これまで見てきたとおり、業務命令が無効となってしまった場合の会社のリスクは大きいといえます。
もっとも、業務命令の有効性は、裁判例等を踏まえた法的な判断が必要であるため、重要なものであればあるほど、その判断は慎重にならざるを得ません。

業務命令についてお悩みなら、早期に、専門家である弁護士に相談することが重要です。
ぜひ、弁護士法人ALG&Associates広島法律事務所にご相談ください。

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広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
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