労務

解雇無効の訴訟を起こされたら?会社側の適切な対応方法について

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

  • 解雇無効

解雇した従業員から、訴えられたという話をニュース等で聞くことは多いのではないでしょうか。
もっとも、訴えられたといっても実際にどのような内容で訴えられているのか、訴えられたときどのように対応すべきなのかといった点についてはあまりわからないという方も多いと思います。
この記事では、解雇無効の訴訟を起こされた場合の会社側の対応方法について解説していきます。

そもそも労働訴訟とは?

訴訟とは、裁判のことを意味します。
したがって、労働訴訟とは、労使間の労働トラブルについて解決するための裁判のことを意味しています。

労働訴訟に多い「地位確認請求」とは?

「地位確認請求」とは、企業が普通解雇等により雇用関係を終了させた労働者が、企業に対し当該普通解雇等が無効であるから現在も引続き当該企業の従業員であるということの確認を求める訴えをすることを指します。

この訴えについては、労働審判や訴訟等のかたちでなされることが多いです。

解雇無効の訴訟を起こされた場合の対応

それでは、解雇無効の訴訟を起こされた場合どのように裁判手続きが進行していくのでしょうか。
以下では、裁判手続きの流れについて解説していきます。

①訴状内容の確認

まずは、原告となる労働者が裁判所に対し訴訟を提起することになります。
訴訟を提起する場合には、訴状と呼ばれる書面の提出が必要になりますが、この訴状については被告となる会社にも届きます。具体的には、原告が裁判所に対し訴訟を提起したのちに、裁判所を通じて会社に対しても送達されます。

訴状には、原告である労働者がどのようなことを求めているかといった内容が記載されています。

②答弁書の提出

訴状の内容を確認したら、次は裁判所に対し答弁書の作成及び提出を行うことが必要になります。
答弁書とは、第1回口頭弁論期日の為に被告が提出する書面で、内容面としては原告が提出した訴状に記載された事実等に対し反論等を行うためのものになります。

答弁書には、訴状に記載された事実を認めるのか、それとも否認するのか、原告の主張に対し反論等があるのかといった事項について記載を行う必要があります

③口頭弁論期日

第2回目以降の口頭弁論期日においては、原告・被告がお互い交互に書面(主張書面)等の提出を行うことになります。

なお、場合によっては口頭弁論期日ではなく、弁論準備手続期日という形で原告・被告の書面の提出が行われていくこともあります。

④当事者・証人の尋問

ここまでで原告・被告双方の主張・立証が尽くされたものの、双方が和解に至ることができないといった場合には判決をするために当事者・証人への尋問が行われることがあります。
尋問とは、裁判の当事者や証人等が、裁判官の目の前で事実関係等について証言等を行う手続きのことです。

このように尋問は、裁判官の目の前で事実関係等について証言等を行う手続きですから、どのような人物が証人になるのかについては、会社の代表者や会社の担当者など当該事案に深く関与していた人物がなることが多いでしょう。

⑤和解の検討

なお、ほとんどの訴訟手続きでは裁判所が当事者双方に和解を勧めてきます。
和解を勧めてくるタイミングとしては、既述の通り、当事者及び証人の尋問の前や同尋問の後が多いです。
もっとも、裁判所としては、尋問の前後で当該事案に対する考えが変化してきますので、一どちらのタイミングで和解する方が有利になるかといったことはケースバイケースとなります。

当事者双方が和解することに合意した場合は、当該裁判は終了になります。

⑥裁判所による判決

上述した和解に当事者双方が応じない場合には、裁判所は判決といった形で当該事案に対する最終判断を示すことになります。
裁判所は、これまでの当事者の主張、提出された証拠関係、及び当事者や証人の証言等を踏まえ、判決を下すことになります。

なお、仮に判決の内容に不服がある場合には、控訴という不服申し立てを行うこともできます。
控訴を行う場合には、判決書を受け取った日から2週間以内に控訴状を裁判所に対し提出することになります。控訴を行った場合には、上級裁判所に判断が委ねられることになります。

解雇無効を訴えられたらなるべく早く弁護士に相談を

解雇無効を訴えられた場合、ここまで解説してきたように裁判所に対し適切な時期に適切な主張を書面で行う必要があります。
いかなる主張が適切か否か等については、専門的な判断が必要になります。このため、できるだけ早急に労務問題に精通した弁護士に相談をすることを強くお勧めします。

裁判で不当解雇と判断されるとどうなるのか?

仮に裁判で不当解雇と判断された場合には、以下のように解雇した従業員を復職させる必要等が生じることになります。

解雇した従業員を復職させる必要がある

不当解雇と判断された場合には、当該従業員に対する解雇が無効となってしまいます。
すると、当該従業員は、従前のまま解雇されずに従業員の地位を持っていたということになってしまいますから、当該従業員を復職させる必要が出てきます。

解雇期間中の給与を遡って支払わなければならない

また、当該従業員を復職させるだけではなく、解雇期間中のバックペイの支払いが必要になってきます(民法536条2項)。

このバックペイとは、会社が労働者を解雇した後、解雇が無効と判断された場合に、裁判所が会社に対して当該従業員に向けて支払を命じる解雇期間中の賃金のことをいいます。
なお、通常は解雇の時点から判決日までの期間についてバックペイの支払いを命じられます。

損害賠償の支払いを命じられることもある

その他にも、不当解雇の結果、当該従業員が精神的な損害を被ったような場合には、損害賠償の支払いが命じられることもあります。

ただし、不当解雇を行ったから直ちに損害賠償の支払いが必要になるのではなく、特に悪質性の高い行為と判断されたような場合に損害賠償の支払いが命じられるケースがほとんどです。

解雇無効の訴訟を有利に進めるためのポイント

解雇無効の訴訟を有利に進めるためのポイントとしては以下の点に注意した方が良いでしょう。

まず、訴訟の前提である事実関係について詳細な調査や検討を行う必要があります。
調査・検討の結果、解雇に合理的な理由がなかったり、社会的な相当性が認められないようなケースでは、解雇に固執することなく、従業員の主張を認めて早期の和解を目指す方が会社の利益となる場合があります。

つぎに、調査・検討の結果、解雇に合理的な理由がある、社会的な相当性もあると判断される場合には、それらの調査結果や証拠等を資料としてまとめた上で、訴訟においてしっかりと主張できるようにしておくことが必要になります。
このような証拠等を十分に収集できない場合、訴訟において会社の正当性を主張できず、結果として不当解雇と判断されてしまう可能性があります。

不当解雇として訴えられることを未然に防ぐには?

ここまで、従業員が不当解雇として訴訟を起こしてきた場合の対応を解説してきましたが、訴訟となってしまうと会社に多大な負担が生じるため、基本的には訴訟に至る前に対応を行うことが重要となります。

不当解雇として従業員が会社を訴えるのは、多くの場合、会社が解雇を行うため必要な手続きを踏まなかったような場合や、当該社員を解雇するに当たり当該従業員の言い分をしっかりと聞かなかったなど、従業員との間のコミュニケーションが不足し一方的に解雇をしてしまったような場合です。

したがって、不当解雇として訴えられることを防ぐには、解雇を行うために必要な手続きをきちんと踏んだり、当該従業員からのヒアリングをしっかり行うなどの対応が必要でしょう。

解雇の有効性について争われた裁判例

事件の概要

業務過誤、業務遅滞を長年継続して引き起こしてきた従業員に対し、必要な指導・教育を何度も行ったものの改善されなかったため、当該従業員の作業能力等が著しく不良であって、今後においても能率等の向上が認められないとして解雇した事案です。

裁判所の判断(東京高判平27.4.16)

裁判所は、上司の度重なる指導にも拘わらず当該従業員の勤務姿勢が改善されなかったことや、当該従業員の起こした過誤や業務遅滞のために、かえって上司や他の職員のサポートが必要になり、会社全体の事務に相当な支障が生じていたこと、及び会社が、解雇に至るまでに、当該従業員に対し繰り返し必要な指導や配置換えをしており、当該従業員の雇用の継続のための努力を尽くしていたことを認定し、本件解雇は有効と判断しました。

ポイント・解説

裁判所は、解雇の有効性を判断するにあたって、①客観的な合理的理由があること、②社会通念上相当性があることの2点をその判断基準として挙げています。

この内、特に②が問題になりますが、本件では、当該従業員が起こしていた業務遅滞等による影響は、他の職員のサポートが不可欠なもので会社全体の事務に相当なものでした。
このため、本件で当該従業員を解雇する必要性は比較的大きかったと考えられます。

この上で、本件では、会社は、当該従業員の勤務姿勢を改善するために上司が必要な指導を何度も行って能力の向上を図ったり、当該従業員が効果的に業務を行えるように配置換えを行ったりしていました。

このように解雇回避の努力を尽くしたものの、依然として業務に重大な支障を生じさせていたため、解雇はやむを得ないとして、社会通念上の相当性が認められています。

このように、能力不足による解雇の場合には、改善の見込みがあるか否かが重要な要素となり、継続的な指導が欠かせません。
仮に継続的な指導等の解雇回避努力を行わずに解雇を行っていたとしたら、本件のような場合でも解雇が無効と判断された可能性はあります。

解雇無効の訴訟を起こされたら、法的知識を有する弁護士にお早めにご相談下さい。

解雇無効の訴訟を起こされた場合、会社としては、解雇の判断に至った経緯について証拠の提出を含め、しっかりと主張していくことが必要になります。そして、主張に当たっては、ここまで解説してきたように、ポイントにしたがって適切な主張を行うことが必要になります。

もっとも、そのような適切な主張を行うことは、いかなる証拠を提出するかも含めて専門的な判断が要求されますから、一度労務訴訟に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

関連記事
広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
広島県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

来所・zoom相談初回1時間無料

企業側人事労務に関するご相談

  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
  • ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)

顧問契約をご検討されている方は弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

ご相談受付ダイヤル

0120-406-029

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メール相談受付

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません