
監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
- 解雇
「辞めさせたい社員がいるがどうすれば良いのか分からない」、そのような悩みをお持ちの企業は多いのではないでしょうか。
もっとも、会社側から社員を辞めさせることは、法的には容易ではありません。
以下では、辞めさせたい社員がいる場合の対処法と、法的な注意点について紹介していきます。
Contents
社員を辞めさせるには高いハードルがある
会社側から社員を辞めさせる方法としては、解雇と退職勧奨があります。
解雇は、労働契約法や労働基準法といった法律が適用される上、解雇権濫用法理が適用されるなど有効であると判断されるのは多くのハードルがあります。
他方、退職勧奨は、社員との間で交渉を行い、社員に対して自発的な退職の意思を示してもらうというものになります。
このように交渉で社員との間で退職の合意を目指すという性質上、社員が退職に応じる意思があまりないような場合には自発的な退職の意思を示してもらえるように多大な労力がかかるというハードルがあります。
不当解雇と判断された場合の会社のリスク
仮に、会社側が社員を解雇したものの、この解雇が無効(不当解雇)である場合、会社は解雇した社員に対して「バックペイ」の支払義務を負います。
バックペイの支払とは、当該社員を解雇していた期間についても給与の支払いを行うことを指します。
不当解雇と判断されてしまうと、会社が不当解雇したために当該社員は働くことができなかったということになり、法律上、当該社員が働くことができなかった期間について給与の支払義務が生じてしまいます(民法536条2項前段)。
なお、バックペイは上述の通り解雇期間中の給与を払うというものですから、不当解雇と判断される時期が遅くなればなるほど金額は大きくなってしまいます。
解雇事由になる具体例とは?
一般的な解雇事由としては、普通解雇の場合は私傷病により業務を行えなくなった場合等、懲戒解雇の場合は服務規律への違反が著しい場合が挙げられるでしょう。
ただし、解雇事由は就業規則に規定されているものに限られます(労働基準法89条3号)。
したがって、解雇をしようとする場合は、就業規則のどの項目に該当するのかについて事前にしっかりと確認する必要があります。
社員に会社を辞めさせる2つの方法
会社から社員を辞めさせる方法としては、解雇と退職勧奨があります。
解雇は会社側から一方的に辞めさせるのに対し、退職勧奨は社員に自主的にもしくは合意により辞めさせるというものです。
したがって、これらの違いは、一方的に辞めさせるのかどうかという点にあります。
以下、詳しく見ていきます。
①解雇
解雇の理由や事由によって、次のとおりいくつかの種類があります。
普通解雇と懲戒解雇の違い
普通解雇は、私傷病により業務を行えなくなったなどの理由で引き続き業務を行えなくなった場合に社員を辞めさせるものです。
他方、懲戒解雇は、服務規律等に違反したことを理由として社員を辞めさせるものです。
もっとも、いずれにしても、就業規則に記載された解雇事由・懲戒事由に基づかなければ解雇を行うことはできません。
人員削減を目的とした整理解雇について
解雇の理由が、会社側の都合(人員削減等)による場合、その解雇は整理解雇となります。
整理解雇を行う場合、その有効性は裁判例上極めて厳しく判断されます。
具体的には、社員を解雇する前に、代表者や役員が自らの報酬額を下げるとか、人件費以外の経費を抑えるといった、解雇を避けるために行うべき努力をすることが強く求められます(解雇回避努力義務と言います)。
このような裁判例を踏まえると、事業継続に関わる重大な事態でなければ有効に整理解雇を行うことは難しいと考えられます。
②退職勧奨
退職勧奨は、社員に対して退職を提案するものになります。
したがって、退職勧奨をしたとしても、社員が自主的に会社との間で退職の合意をする必要があります。
なお、一般的には、退職勧奨に当たって、当該社員に対し一定の金員を支払うことが多いですが、これはあくまで一定の金員を支払うことをもって当該社員に自主的に退職の合意をしてもらうためになされるものです。
したがって、必ずしも金員を支払う必要はありません。
解雇の前に退職勧奨をするのが基本
ここまでに解説したように、解雇については解雇権濫用法理など実際に解雇を行うに当たっては高いハードルがある一方、退職勧奨については、当該社員との間で退職の合意ができさえすれば当該社員を辞めさせることは可能です。
そうすると、いきなり解雇を行うよりも、まずは退職勧奨、すなわち話し合いにより当該社員を退職させることを検討した方が良いでしょう。
退職勧奨せずに解雇できるケースもある
なお、辞めさせたい社員が、違法行為を行っており服務規律に違反したように、違法性の高い行為を行っていたような場合には、退職勧奨を経ることなく懲戒解雇を行ったとしても不当解雇として争われることは少ないと考えられます。
退職勧奨が違法になることもあるため注意
ここまで述べたように退職勧奨は、あくまで話し合いによって双方の合意により退職の実現を目指すものになります。
したがって、無理やり社員の合意をとるような行為を行ってはいけません。
例えば、「退職合意書にサインするまでは帰さない」等と言って社員を軟禁することは、退職強要として損害賠償を求められる可能性があります。
社員を辞めさせる際に考慮すべきこと・注意点
社員を解雇する場合、その解雇が有効であるためには以下のような高いハードルをクリアする必要があります。
就業規則には解雇事由の規定が必要
解雇事由は就業規則の必要的記載事項であるため(労働基準法89条3項)、就業規則に解雇事由の記載がないと、解雇をすることができません。
したがって、解雇を検討する場合は、就業規則の解雇事由のどれに該当するのかを確認する必要があります。
問題社員がいる場合は改善を促す対応をとる
解雇を行う場合には、解雇を行うことがやむを得ないこと、すなわち解雇を行うにつき客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければなりません(労働契約法16条)。
これを解雇権濫用法理とも言います。
なお、このように解雇についてやむを得ない理由が必要であることは懲戒解雇であっても同様です(同法15条)。
なお、社会通念上相当であるか否かは、「解雇の前に改善の機会を与えたか」、「もはや改善の余地がなく解雇するしかない状況と言えるか」という観点でチェックされます。
そこで、解雇をする前に必ず、「二度と同じことをしないように。」と注意・指導を行い、社員に改善の機会を与える必要があります。
事案にもよりますが、このような注意・指導をしながらも、当該社員が同じことをしたような場合は、「もはや改善の余地がなく解雇するしかない状況」として、解雇を行うことが社会通念上相当と認められる可能性が高くなります。
いきなり解雇ではなく軽い内容の懲戒処分から科す
上述のように、懲戒解雇を行うに当たっても、解雇を行うことがやむを得ないことは必要です。
したがって、懲戒解雇においても、「懲戒解雇の前に改善の機会を与えたか」、「もはや改善の余地がなく懲戒解雇するしかない状況と言えるか」が重要になります。
懲戒解雇よりも軽い懲戒処分を先行して行った場合、「二度と同じことをしないように。」という注意・指導をしたという実績を積み重ねることができます。
それにも拘わらず、同じようなことを繰り返した場合には「もはや懲戒解雇をするしかない状況」であることが認められやすくなり、解雇を行うことがやむを得ないと認められやすくなります。
解雇予告や解雇予告手当の支払いを怠らない
なお、普通解雇の場合に限らず、懲戒解雇の場合も、原則として30日前までの解雇予告を行う必要があります(解雇予告を行わずに即日解雇する場合は30日分以上の給与の支払が必要です。)(労働基準法20条1項本文)。
「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には解雇予告は例外的に不要となりますが(労働基準法20条1項ただし書)、懲戒解雇だとしても、直ちにこれに該当するとは限らないことには注意が必要です。
具体的には、労働者の非違行為の悪質性が高く、雇用を継続することが企業経営に支障をもたらす程の事情が認められる場合に初めて「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当すると考えられています。
解雇の有効性が問われた裁判例
営業成績の不良を理由とした解雇の有効性が争われた裁判例を紹介します。
事件の概要
本件で解雇された従業員は、営業社員として入社しました。
3ヶ月間の試用期間を経て営業手法を学んだ後、会社からノルマを課されながら、そのノルマ達成を目標に営業活動をするも、試用期間終了後は1度もノルマを達成することができませんでした。
そこで、会社は就業規則上の解雇事由のうち、「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みが無く、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき」に該当するとして、その従業員を解雇したという事案です。
裁判所の判断(大阪地判令4.1.28)
裁判所は、試用期間終了後一度も当該従業員が営業ノルマをクリアすることができなかったという事実を認めつつも、会社が当該従業員を解雇した時点では勤務成績や業務能率について改善の兆しが見え始めていたと認定し、将来的にも当該従業員の勤務成績や産業能率が著しく不良であるという状況が継続する可能性が高いとまでは言えないとして、本件解雇を無効と判断しています。
ポイント・解説
本裁判例では、会社がノルマを課したことと、解雇された営業社員がそのノルマに達していなかったことは事実として認定しました。
また、そのノルマ自体が不適切なものとは認定していません。
すなわち、裁判所も、当該従業員について、会社が求める営業成績に達していないことについては事実として認めています。
もっとも、上述のように、裁判所は、「当該社員の勤務成績又は業務能率には改善の兆しが見え始めていた」と評価し、「解雇せざるを得ない程の事情」として「勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かった」とまでは認められないと判断し、解雇は無効であるとしています。
このような裁判所の判断を踏まえれば、会社の要求するノルマに達していなければすぐに能力不足による解雇が認められるのではなく、将来にわたってそのような状況が継続する可能性が高いことが必要になってきます。本裁判例のポイントは、このように単に会社が要求するノルマに達しなかったというだけでは、能力不足を理由とした解雇は認められないとしたことにあります。
なお、このような判断を踏まえると、能力不足による解雇を検討する場合には、対象となる従業員について今後も能力不足の状況が改善される見込みがないのかといった点が極めて重要になっていると分かります。
会社を辞めさせたい社員の対応について弁護士がアドバイスいたします。
このように、ある社員について会社を辞めさせたいと考えたとしても解雇については厳しいハードルが課されます。
会社側としてはその厳しいハードルをクリアできるように、入念な準備と証拠収集が必要となります。
仮に解雇が難しい状況のときは、いきなり解雇に踏み切る前に、より軽い懲戒処分を積み重ねることや、退職勧奨を行う等、別の方法を検討する必要があります。
このように複雑な対応等が求められますので、一度労働紛争・裁判実務の経験がある弁護士への相談をお勧めします。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
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