監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
裁判所の手続きをとおさずに、夫婦の話し合いだけで離婚を成立させる協議離婚の場合、「離婚協議書を公正証書で作成しておくとよい」といいます。
これはなぜかというと、将来、取り決めた約束が、万が一守られなかった場合に備えておくためです。
離婚の際に取り決める約束は、離婚後の生活や子供に、大きく影響のある事柄ばかりです。
将来的な不安を軽くするためにも、ぜひご検討いただきたい離婚時の公正証書について、作成方法や記載する内容を詳しく説明いたします。ぜひ、ご参考ください。
Contents
離婚の公正証書とは
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書のことです。
法律実務に携わった有識者から選ばれる公証人は、中立・公正な立場から、法律に従い、公正証書を作成します。
離婚に際して作成される公正証書は、多くが養育費や財産分与について記載されることから「離婚給付等契約公正証書」や「離婚公正証書」とよばれます。
公正証書の必要性
離婚時に公正証書を作成する、具体的なメリットをみてみましょう。
- 強制執行が可能
公証人が、法律に従って作成するため、個人間で作成した合意書などの私文書と異なり、公的文書として極めて強力な証明力を有しています。
そのため、公正証書に強制執行認諾文言を付けておけば、調停調書や判決書と同等の効力が生じ、直ちに強制執行が可能となります。
養育費など、未払いが生じた際に、相手の給与や財産を差押えて強制的に金銭の回収ができます。 - 第三者からの情報取得手続き・財産開示手続きを利用できる
離婚時に取り決めた養育費や慰謝料、財産分与などの未払い・不払いが生じた場合、公正証書を作成していれば、強制執行に先立ち、裁判上の手続き(第三者からの情報取得手続き、財産開示手続き)を利用して、相手の財産についての情報を得ることができます。 - 原本は公証役場で保管される
公証役場で20年間保管されるので、紛失、改ざんといったおそれがなく、安心です。
離婚時に公正証書を作成する手順と費用について
ここからは、離婚時に公正証書を作成するための費用と、具体的な手続きについてみていきましょう。
作成にかかる費用
| 目的価額(養育費の総額) | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
| 1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
| 3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
| 5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5000万円までごとに13,000円を加算した額 |
| 3億円を超え10億円以下 | 95,000円に超過額5000万円までごとに11,000円を加算した額 |
| 10億円を超える場合 | 249,000円に超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額 |
引用元:日本公証人連合会(https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12)
公正証書を作成するにあたり、公証人に対して支払う手数料が発生します。
手数料の金額は、上記の表のとおり、公証人手数料令によって定められていて、離婚に際して発生する養育費や慰謝料、財産分与などの合計金額=目的価額に応じて支払うことになります。
【例】
- 養育費:月額4万円×12年間
※10年間が上限のため、目的価額となるのは480万円 - 財産分与:離婚時に500万円を支払う
➡目的価額が980万円となるので、上記表より、手数料は【1万7000円】となります
※上記のほか、公正証書の枚数による手数料の加算や、交付手数料が必要です
①公正証書の作成に必要な書類
離婚に際して公正証書を作成する場合、一般的には、次の書類が必要です。
- 本人確認書類
実印と印鑑登録証明書
または、認印と写真付き身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど) - 戸籍謄本
離婚届の提出前であれば、現在の家族全員が記載された戸籍謄本
離婚届の提出後の場合は、離婚後の、当事者それぞれの戸籍謄本が必要です。 - 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)など
財産分与として、不動産の所有権を夫婦の一方に移転する場合に必要です。
「固定資産税納税通知書」や「固定資産評価証明書」でも差し支えありません。 - 年金手帳など
年金分割をする場合、当事者の年金番号を公正証書に記載するため、年金番号の分かる資料が必要です。
②公証人役場の公証人と面談
公正証書に記載する内容をまとめ、必要な書類が揃ったら、まずは、利用を希望する公証役場に、離婚に際する公正証書を作成したい旨を問い合わせてみましょう。
一般的には、後日に設けられる公証人との面談で、必要書類を提出し、公正証書にしたい内容を伝えることになります。この際、離婚協議書があるとスムーズです。
事前に書類を送付することが可能な場合もあるので、確認するとよいでしょう。
これらをもとに、公証人が公正証書案を作成します。
なお、原則として、公証役場へは、夫婦が揃って出向く必要があります。
どうしても困難な場合は、代理人を立て、公証役場に事前に伝えておくようにしましょう。
③公正証書の作成
公正証書案を夫婦それぞれが確認し、問題がなければ、公正証書の作成が行われます。
指定された作成日に、印鑑と必要書類を用意して、夫婦揃って公証役場へ出向きます。
公証人が、夫婦の面前で最終的な内容確認をしたうえで、公正証書の原本に、夫婦それぞれが署名・押印をすることで、公正証書が完成します。
公証人手数料を支払うと、公正証書の正本、または謄本を受け取ることができます。
この時点で、将来、養育費や財産分与を支払う側に対して強制執行が必要な場合に備えて、公正証書の正本に執行分を付与する手続きと、送達証明書の取得手続きを行っておきましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
公正証書に記載すべき内容
離婚時に作成する公正証書には、どんなことを記載すべきなのでしょうか?
一般的な内容は次のとおりです。
- ①離婚への合意
- ②親権者・監護者について
- ③養育費の支払い
- ④慰謝料
- ⑤財産分与
- ⑥面会交流
- ⑦年金分割
- ⑧強制執行認諾文言
- ⑨清算条項
離婚への合意
前提として、離婚する旨の合意を明記し、離婚届の提出方法(提出日・誰が提出するのかなど)についても記載しておきましょう。
【記述例】
- 甲と乙は、協議の上、協議離婚することに合意する。
- 本公正証書作成後、各自離婚届に署名押印して、乙において、速やかにこれを届出する。
親権者について
夫婦に未成年の子供がいる場合、離婚後の親権者を夫婦どちらか一方に定める必要があります。間違いのないように、次の内容を明記しておくと安心です。
- 子供の名前、生年月日
- 戸籍上の続柄
- 親権者と監護者(あえて別表記にしておく)
【記述例】
甲と乙は、甲乙間の未成年の長女▲▲(平成▲年▲月▲日生、以下「丙」という)と
長男■■(令和■年■月■日生、以下「丁」という)の親権者・監護者を
乙と定めて、乙において監護養育することとする。
養育費の支払い
養育費とは、子供が経済的・社会的に自立するまでに必要な費用のことで、子供の衣食住に必要な生活費や、教育費、医療費が含まれます。
養育費は、一般的には月額払いとすることが多く、未払いが生じた場合に備え、記載すべき内容を確認しておきましょう。
- 支払期間(特に支払いの終期については曖昧な表記を避ける)
- 支払金額(月額、子供1人あたりの金額)
- 支払期日
- 支払方法・手数料
- 支払先
- 将来、養育費の増額・減額が生じた際の対処方法
【記述例】
- 甲は乙に対し、丙と丁の養育費として、令和〇年〇月〇日から
丙と丁が満22歳を迎えた日を経過後、最初に到来する3月まで
1人につき毎月末日限り、各金〇万円を、乙の指定する以下の口座へ
振込送金の方法により支払う。
※口座詳細 - 振込手数料は、甲の負担とする。
- 上記の養育費は、物価の変動、その他の事情の変更に応じて甲乙協議の上で増減できる。
慰謝料
離婚時の慰謝料は、必ずしも発生するものではありません。
夫婦どちらか一方に、不貞行為や暴力などの離婚原因となった不法行為があった場合に、精神的苦痛を受けた側が請求できる権利です。
慰謝料の支払いに合意できた場合に、公正証書に記載すべき内容は、次のとおりです。
- 慰謝料の支払義務があること
- 慰謝料の総額
- 支払方法や支払期限(一括、あるいは分割、分割の場合の月額)・手数料
- 支払先
- 未払いが生じた際の対処方法
【記述例】
- 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として、金〇〇〇万円の支払義務があることを認め、これを〇〇回に分割して、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで
毎月末日限り、金〇万円を、乙が指定する普通口座へ振込送金する方法で支払う。
※口座情報 - 振込手数料は、甲の負担とする。
- 甲が、分割金の支払いを1回でも怠ったとき、当然に期限の利益を喪失し乙に対して残金を直ちに支払う。
財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた共有財産を、それぞれの貢献度に応じて、離婚時に、公平に分け合う制度です。
公正証書には、次のような内容を記載しておきましょう。
- 対象となる財産(預貯金、不動産、自動車、家財道具、有価証券など)
- 財産の分け方(原則は2分の1ずつですが、夫婦で割合を決められます)
- マイナスの財産について(誰が負担するのか、所有者を変更するのか、手続きの費用負担など)
【記述例】
甲と乙は、財産分与につき、以下のとおり合意した。
- 不動産
甲は乙に対し、甲所有名義の下記不動産を譲渡し
令和〇年〇月〇日までに、乙のために財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする。
登記手続きにかかる費用は、乙の負担とする。
本件離婚成立後、下記不動産には、乙が丙・丁と共に居住することとする。
※不動産の詳細 - 預貯金
甲と乙は、婚姻中に各自の名義で保有していた預貯金について
本件離婚後も引き続き、甲名義のものは甲に、乙名義のものは乙に
それぞれ帰属することに合意する。 - 家財道具・家電製品
甲と乙は、本件離婚に伴う財産分与として、以下のとおり動産を取得することに合意する。
※動産ごとに、どちらが取得するのかの詳細
面会交流
面会交流とは、離婚後、子供と離れて暮らす親が、直接会うほか、メールや電話などで子供と交流することです。
子供に悪影響がないかぎり面会交流は行うのが望ましいとされていて、将来約束が守られなかったときに備え、次の内容を記載しておきましょう。
- 面会交流を行う子供
- 面会交流を行う頻度、日時、場所、方法
- 面会交流以外の連絡方法
- 面会交流の待ち合わせについて
- 立会人の有無
【記述例】
乙は、甲が月に1回、丙及び丁と面会交流することを認める。
その具体的な日時、場所、方法などの必要な事項は、丙・丁の福祉を害することがないように甲乙互いに配慮し協議決定する。
年金分割
年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が納めた厚生年金や旧共済年金の実績を公平に分け合い、受給できる金額を調整する制度です。
年金分割の方法のうち、合意分割をする場合、按分割合(上限0.5=50%)を夫婦で話し合い、公正証書に記載しておきましょう。
- 年金分割について合意していること
- 合意した按分割合
- 第1号改定者(納付実績が多く、年金分割で年金が減る側)の氏名、生年月日、基礎年金番号
- 第2号改定者(年金分割で年金が増える側)の氏名、生年月日、基礎年金番号
【記述例】
甲(第1号改定者)と乙(第2号改定者)は、厚生労働大臣に対し厚生年金分割の対象期間にかかる被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意し、乙は、離婚届提出後2ヶ月以内に厚生労働大臣に対し、合意内容を記載した公正証書の謄本を提出して当該請求を行うこととする。
甲(昭和〇年〇月〇日生)(基礎年金番号 〇〇-〇〇〇〇〇)
乙(昭和〇年〇月〇日生)(基礎年金番号 〇〇-〇〇〇〇〇)
公正証書を作成することへの合意
裁判手続きを経なくても公正証書だけですぐに強制執行ができるように、あらかじめ離婚協議書に、強制執行認諾文言付き公正証書を作成することに合意した旨を記載しておきましょう。
なお、公正証書に記載される文章は次のとおりです。
【記述例】
甲は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
清算条項
清算条項とは、公正証書に記載した条項以外には、夫婦が相互に債権債務が一切生じないことを確認する文言です。
公正証書の最後に清算条項を入れることで、万が一合意内容以外の事項が発覚した際のトラブルを防止できます。
【記述例】
甲及び乙は、本件離婚に関し、以上をもって円満解決したものとし
今後、本公正証書に定めた事項以外に、財産分与、慰謝料等名目を問わず
相互に何らの請求を行わないことを相互に確認した。
公正証書に書けないことはあるか
公文書である公正証書には、たとえ夫婦間の合意があったとしても、記載できない内容があります。次で確認しておきましょう。
- 法律上、無効であること
養育費や面会交流は子供の権利であるため、養育費を一切支払わない、面会交流を一切認めない、または養育費を支払わない限り面会交流を認めないといった内容は夫婦が合意していても認められません。
また、将来の親権者の変更についても、裁判所の手続きを必要とするため、夫婦が変更の条件を取り決めても、公正証書には記載できません。
このように、法律上無効となる内容は記載できないので、注意が必要です。 - 公序良俗に反すること
夫婦どちらか一方の謝罪を強制する、無期限に再婚を禁止するなど、公序良俗に反する内容についても、公正証書に記載することができません。
離婚の公正証書は弁護士にお任せください
離婚時の公正証書は、ご自身で作成することも可能です。
もっとも、離婚に際して取り決めておくべき条項は多岐に渡り、話し合いが不十分だと、離婚後にトラブルとなりかねません。
そのため、少しでも不安がある場合は、一度弁護士にご相談ください。
公正証書を作成する際に、公証人がアドバイスをしてくれるケースもありますが、あくまで中立的な立場としてです。
その点、弁護士はご依頼者様の味方となって、ご依頼者様が困らないように、取り決めた約束が適正か、見落としていることはないか、アドバイスができます。
「公正証書を作成したいが、相手と同席するのは避けたい」
そんな場合にも、弁護士であれば代理人として公証役場へ出向くことも可能です。
まずはお気軽に、弁護士法人ALGへお問い合わせください。

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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
