監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
婚姻関係にある夫婦は、それぞれの資産や収入に応じて、婚姻生活を送るうえで必要になる費用=婚姻費用を分担する義務を負っています。
同居中は当然のことながら、別居中であっても、収入の少ない側から、収入の多い側に対して、婚姻費用の支払いを求めることができます。
婚姻費用は、夫婦で話し合って定めるほか、家庭裁判所の手続きを利用して取り決めることができますが、この際に参考とされるのが、婚姻費用算定表です。
今回は、婚姻費用算定表の使い方を中心に解説していきます。
ぜひ、ご参考ください。
Contents
婚姻費用算定表とは
婚姻費用算定表とは、婚姻費用の相場を調べるためのツールです。
家族構成や、夫婦それぞれの年収といった要素から、標準的な婚姻費用の金額を算定します。
家庭裁判所の手続きを利用して婚姻費用の取り決めをする際にも使用されていて、裁判所のホームページに公開されている算定表は、どなたでも閲覧することができます。
2019年に、現代の社会実態に合わせて改定されていて、より現状に沿った婚姻費用を算定できるようになりました。
婚姻費用算定表の使い方
ご自身の家族構成に応じた婚姻費用算定表を用いて、夫婦それぞれの年収から、婚姻費用を算定していきます。
以下、詳しい手順をみていきましょう。
お互いの年収を調べておく
夫婦の年収は、婚姻費用算定表においてベースとなります。
これを誤ってしまうと、適正な婚姻費用が算定できなくなってしまうので、しっかりと調べておきましょう。
なお、年収には、給与のほかに、賞与や税金、社会保険料など控除される金額も含まれます。
給与所得者の年収の調べ方
給与所得者の年収は、源泉徴収票の支払金額(控除される前の金額)を当てはめます。
確定申告をしていない収入が別にある場合は、その収入額を支払金額に加算した額を年収とします。
源泉徴収票は、年1回(12月~翌年1月頃)勤務先から発行されますが、手元にない場合は、勤務先に発行を依頼しましょう。
源泉徴収票の入手がむずかしい場合は、市区町村役場で取得できる、課税(所得)証明書の給与収入を当てはめます。
課税(所得)証明書は、住民票が同じ親族であれば、本人の同意・委任状なく取得が可能です。
自営業者の年収の調べ方
自営業者の年収は、確定申告書の課税される所得金額(控除された後の金額)に、次に挙げるような実際に支出されていない費用を加算して求めます。
なお、確定申告書の控えが手元にない場合は、給与所得者と同様に、市区町村役場で、課税(所得)証明書を取得して調べることが可能です。
《実際に支出されていない費用》
雑損控除、寡婦・寡夫控除、勤労学生控除、障害者控除、配偶者控除
扶養控除、基礎控除、青色申告特別控除
裁判所のHPから最新版の婚姻費用算定表をダウンロードする
婚姻費用算定表について(裁判所HP)
夫婦それぞれの年収が把握できたら、裁判所のホームページより、最新の婚姻費用算定表をダウンロードします。
裁判所のホームページでは、養育費・婚姻費用の算定表を含め、表1~表19までが公開されていて、婚姻費用の算定表は、表10~表19の10種類です。
この10種類の算定表から、ご自身の家族構成(子供の人数と年齢)と一致する算定表を選びましょう。
【例】子供が2人(第1子が16歳、第2子が12歳の場合)➡ 表14
支払う側と受け取る側の年収が交わる箇所を探す
ダウンロードした婚姻費用算定表から、実際に婚姻費用がいくらになるのかをみていきましょう。
基本的に、収入が多い側が義務者、収入の少ない側が権利者となります。
給与所得者と自営業者で、見る軸が異なるため、ご注意ください。
例) 子ども2人(第1子が16歳、第2子が12歳)の場合
①算定表の表14のたて軸から、義務者(支払う側)の年収を探します
【例】給与所得500万円
②算定表の表14のよこ軸から、権利者(受け取る側)の年収を探します
【例】給与所得100万円
③交わる箇所が、婚姻費用の金額です
【例】婚姻費用 10万~12万円
婚姻費用算定表が自分のケースに当てはまらない場合
- 子供が4人以上いる
- 義務者と権利者、それぞれに養育している子供がいる
- 年収が表の上限を超えている
上記ケースのように、算定表が当てはまらない場合、算定表の元となる計算式から、婚姻費用を算出することができます。
とはいえ、複雑でややこしい式になるので、誤った計算で請求漏れがないよう、弁護士に相談することをおすすめします。
《婚姻費用の算出方法》
① | 権利者の基礎収入を算出する ➡総収入×基礎収入割合 ※基礎収入割合は収入額によって異なります |
---|---|
② |
義務者の基礎収入を算出する ➡総収入×基礎収入割合 |
③ |
子供との同居状況に応じた、権利者側の生活費指数を確定する ※生活費指数 義務者・権利者は100、子供は14歳までは62、15歳以上は85 |
④ | 子供との同居状況に応じた、義務者側の生活費指数を確定する |
⑤ | 権利者が必要とする婚姻費用を算出する ➡(①+②)×{③/(③+④)) |
⑥ | 義務者が支払うべき婚姻費用の分担額を算出する ➡⑤-① |
婚姻費用算定表に関するQ&A
婚姻費用を算定表より多くもらうにはどうしたらいいですか?
当事者である夫婦で話し合って、双方が合意できれば、算定表以上の婚姻費用を受け取ることが可能です。
また、裁判所の手続きを利用する場合には、算定表以上の婚姻費用が必要な事情が証明できれば、算定表より高額な婚姻費用が認められる可能性があります。
《考慮される特別な事情の一例》
●権利者や子供の怪我や持病で、高額な医療費が必要な場合
病院の診断書や領収証などを証拠として用意しましょう
●子供が私立学校に通っている、塾・習い事に費用がかかる
学費の納付書や請求書を証拠として用意しましょう
年収350万~450万は婚姻費用相場が6万~8万となっているのですが、年収450万円に近ければ8万円という考え方で良いのでしょうか?
夫婦のみの算定表(表10)を参照すると、義務者の給与所得が「350万~450万円」で、権利者が専業主婦(主夫)=年収ゼロだとすると、交わる箇所は「6万~8万円」となります。
したがって、義務者の年収が450万円に近い場合、ご質問のとおり、「6万~8万円」の幅から高い方の、8万円の婚姻費用が認められる可能性は高くなります。
もっとも、算定表はあくまで目安にすぎないため、それぞれの生活状況や実際の経済状況、子供の事情などによって、8万円以下となることも考えられます。
婚姻費用算定表の金額に、子供の学費は含まれていますか?
婚姻費用算定表には、高校までの公立学校を前提とした平均的な学費(学校教育費)は含まれています。
そのため、私立学校に通う場合や、塾や習い事の費用などは、別途、父母の間で話し合う必要があります。
裁判所の手続きにおいては、夫婦双方の学歴や収入を考慮して、私立学校の学費の分担について、取り決めがなされることもあります。
専業主婦は収入0のところを見ればいいでしょうか?年収100万円として考えることもあると聞いたのですが
専業主婦(主夫)であっても、働けるのに働いていない状況で、年収をゼロと考えるには不公平と思われる場合、一定の収入があるとみなして、婚姻費用算定表を用いることがあります。具体的には賃金センサスの短時間労働者の平均賃金を参考に、年収120万円程度を総収入とするのが一般的です。
年収がゼロと考えられるのは、子供(概ね4歳以下)の世話や、家族の看病、自身の怪我・病気などの、やむを得ない事情があって働けないケースであることがほとんどです。
年金生活者です。年金を収入と見なして婚姻費用算定表を使えばよいでしょうか?
婚姻費用を算出するにあたり、年金と給与は別物として扱われます。
というのも、年金生活者の場合、職業費がかからないためで、年金を収入として、そのまま給与収入に当てはめて婚姻費用算定表を用いてしまうと、正しい婚姻費用を求めることができないのです。
年金を収入として、婚姻費用算定表を用いる場合、年金を給与へ換算する必要があります。
少し複雑なので、具体的な計算方法や、年金を収入とした婚姻費用をお知りになりたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
弁護士がそれぞれの事情を考慮して婚姻費用を算定します
婚姻費用算定表を用いることで、おおよその婚姻費用の相場を調べることができます。
とはいえ、標準的なケースを想定して作成された算定表からは、具体的な婚姻費用を求めることがむずかしい場合があります。
ご自身のケースに合った、具体的な婚姻費用が知りたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、それぞれの経済状況や生活状況、お子様の状況に応じて、婚姻費用を算定することができます。
経済的な負担や不安を解消するためにも、疑問や不安なことは、弁護士法人ALGにぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)