熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

離婚問題

熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士

熟年離婚は、法的に明確な定義はありませんが、一般的には、20年以上の結婚生活を経た夫婦が離婚することを指します。
厚生労働省の離婚に関する統計では、平成15年以降、日本における離婚件数は減少傾向にありますが、同居期間が20年以上の夫婦が離婚する割合は年々上昇傾向にあって、令和2年には全体の約21.5%を占めています。

なぜ、長年連れ添った夫婦が離婚に至るのでしょうか? 今回は、熟年離婚の原因や、離婚後に後悔しないように知っておいていただきたいことを中心に解説していきますので、ぜひご参考ください。

熟年離婚の原因

熟年離婚の場合、配偶者に対する長年の不満が積み重なり、定年退職や子供の自立などを転機に、新しい人生をスタートしたい!と、離婚を選択する夫婦が多いのが特徴といえます。
以下、いくつか具体的にみていきましょう。

相手の顔を見ることがストレス
定年退職や子供の自立によって、夫婦だけの時間が増えることになります。
「価値観にズレがある」、「家事や育児に協力してくれない」などのように、もともと配偶者に対して不満を抱えている場合、常に相手と顔を合わせなければならない状況は苦痛でしょう。
また、一緒に過ごす時間が増えることで、生活習慣のズレや、相手の言動に対して、新しく不満を募らせることもあるでしょう。
こうしたストレスから、熟年離婚に至るケースがみられます。

価値観の違い、性格の不一致
熟年離婚に限らず、夫婦が離婚に至る原因としてよく挙げられるのが、価値観の違いや性格の不一致です。
結婚当初から、「金銭感覚にズレを感じる」、「趣味に理解を示してくれない」と、不満を抱えていたものが、定年退職や子供の自立をきっかけに限界を迎えてしまった、そんなケースも少なくありません。

また、「相手に合わせることに限界を感じた」、「一緒に過ごす時間が増えたことで、性格が合わないことに気付いた」といった不満から、離婚に踏み切るケースもあります。

夫婦の会話がない
夫婦生活に、必ずしも会話が必要というわけではありませんが、夫婦の一方が、会話が少ないことに不満を持っている場合、離婚に至ることも考えられます。
子供を育てている間は、育児や学校のことなど、夫婦の協力が欠かせないことも多いですが、子供が自立してしまうと、夫婦だけの時間が増え、会話のない生活に苦痛を感じ、離婚という言葉が頭をよぎるのです。

子供の自立
直接の離婚原因ではありませんが、子供の自立をきっかけに、熟年離婚に至るケースは少なくありません。
いくら相手に不満があっても、「子供が親を必要とする間は我慢しよう」と、子供が受ける悪影響を考慮して、離婚を踏みとどまっている方も多いのではないでしょうか?
夫婦の間をつないでいた子供が自立することで、我慢する必要がなくなってしまうのです。

また、子供の自立後、自分の第二の人生を考えたときに、「ひとりでのんびり老後を過ごしたい」と、離婚を決意する方もいらっしゃいます。

借金、浪費癖
配偶者の借金や浪費癖といった、金銭的な問題を抱えている場合、老後の生活に不安を覚え、離婚に至るケースがあります。
これは、熟年離婚に限らず、どの夫婦にとっても、離婚を考える要素のひとつですが、定年退職後は、安定した収入が見込めない点から、より切実な問題となります。

とはいえ、相手よりも自分の資産や収入が多い場合には、離婚することで、かえって不利益となるおそれもあるため、安易に離婚に踏み切ることのないよう、注意が必要です。

介護問題
寿命が延び続ける現代において、配偶者や、夫婦双方の両親の介護問題をきっかけに、離婚に至ることもあります。
たとえば、配偶者の親(舅・姑)と関係がうまくいっていないケースでは、数々の我慢を強いられてきたうえに、介護という重責を負うことは、苦労することが目に見えているため、「舅(姑)の介護をするくらいなら離婚する」と、決断する方もいらっしゃいます。

配偶者自身に不満を抱えている場合も同様です。
また、献身的に舅・姑の介護を終えた後、長年の介護疲れから、ひとりで生きていくことを決意して、離婚に踏み切るケースもみられます。

熟年離婚に必要な準備

「離婚後パートナーの協力なく、ひとりで生きていけるのか」
「離婚後も生活を維持できるのか」

熟年離婚の場合、離婚後の生活面や経済面の基盤を整えるために、計画的な準備が重要になります。
婚姻期間を重ねた熟年夫婦という点における留意事項を含め、どんな準備が必要なのか、具体的にみていきましょう。

就職活動を行う

離婚後、財産分与や年金分割だけで生活していける人は少ないのではないでしょうか?
多くの場合、安定した収入を得るために、就職する必要に迫られることになるでしょう。
まずは月々の収支を把握し、見合った就職先を探しましょう。

とはいえ、就職先の選択肢は決して広いとはいえません。
これまでの仕事の経験や、主婦(主夫)や介護のキャリアを活かせる仕事がないか、探すところからはじめてみるとよいかもしれません。

新しく資格やスキルを身につけるのもおすすめです。
離婚後の経済的な不安は、少しでも解消しておきましょう。

味方を作る

離婚前後にかかわらず、自分の味方をしてくれる存在は、大きな支えとなるでしょう。
そもそも離婚すること自体、大きなストレスになりますし、離婚後は急に心細くなって孤独を感じやすくなります。
子供、親族、友人、だれでも構いませんので、気軽に話せて、アドバイスを求められる、「自分の味方」を作っておきましょう。

日頃からひとりで抱え込まず、味方のサポートを得られるようにしておきましょう。

住居を確保する

離婚後の、新しい住居を確保することも重要です。
熟年離婚の場合、実家に戻るという選択肢がないケースも想定されます。
新たに住居を確保するとなると、年齢が高くなるにつれ、民間の賃貸住宅を借りることがむずかしくなるので、介護施設や老人ホームに入ることも視野に入れる必要があります。

夫婦の持ち家に、夫婦の一方がそのまま住み続けるというケースでは、家を出る他方配偶者に財産分与をしなければならないという問題も発生します(詳細は後述します)。
限られた収入の中で、離婚後の生活が維持できるよう、慎重に検討しましょう。

財産分与について調べる

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産を、離婚の際に、夫婦それぞれの貢献度(基本的には2分の1ずつ)に応じて分け合うことをいいます。
婚姻期間が長いほど、財産分与の額は大きくなる傾向にあって、熟年離婚において、離婚後の生活費に直結することから、離婚前にしっかりと調べておきましょう。

財産分与の対象となるのは、夫婦の共有財産(預貯金、持ち家(不動産)、車など)のほか、住宅ローンや借金といった、いわゆるマイナスの財産も含まれます。
なお、離婚が成立した場合、財産分与の請求ができるのは、離婚成立後2年以内という期限があるため、忘れないよう注意しましょう。

専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく

年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が納付した厚生年金や共済年金を、納付実績の多い方から少ない方へ分割する制度のことです。
専業主婦(主夫)にとって、年金も貴重な収入となります。
年金分割でいくら受け取れるのかは、年金事務所で確認することができるので、離婚前に調べておくとよいでしょう。

ただし、国民年金加入者や、納付期間が25年に満たない場合には、そもそも年金受給資格が発生しないため、年金分割を行うことができません。
また、年金分割は、離婚が成立した翌日から2年以内に年金事務所へ請求しなければ実行されず、自動的に分割されるものではないので、注意が必要です。

退職金について把握しておく

熟年離婚は、定年退職が迫っているタイミングで行われることが多く、退職金が、財産分与の対象となる可能性が高くなります。
まずは、退職金が支払われるのかどうかを、就業規則などで確認してみましょう。
退職金の支払いが確実であれば、支払われる時期や金額を把握しておきましょう。

基本的に、就労期間のうち婚姻期間に相当する分を、2分の1ずつ財産分与することになるので、離婚後の貴重な資金になりえます。
なお、すでに退職金が支払われている場合は、手元に残っている金額が財産分与の対象となります。

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熟年離婚の手続き

熟年離婚の手続きは、一般的な離婚手続きと同じ手順で進めていきます。

①協議離婚
 まずは当事者である夫婦で話し合います
 この段階で合意できれば、離婚届を役場に提出し、協議離婚が成立します

②離婚調停
 夫婦間で合意できない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます
 調停委員会を介した話し合いで合意できれば、調停離婚が成立し、調停調書が作成されます

③離婚裁判
 調停の場でも解決できない場合、訴訟を提起することで
 離婚の可否と離婚条件の決定を、裁判所に委ねることになります 

熟年離婚で慰謝料はもらえるのか

  • 相手が不貞行為(肉体関係のある、いわゆる浮気や不倫)をしていた
  • 相手から家庭内暴力(DVやモラハラ)を受けていた
  • 悪意の遺棄(一方的に別居し生活費を渡さないなど)があった

上記のような離婚原因が相手にある場合、一般的な離婚同様に熟年離婚の場合も、慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料の金額は、こうした行為によって受けた、肉体的・精神的苦痛の大きさによって変動するため、苦痛を受けた期間や、婚姻期間が長いほど、高額になる傾向にあります。
慰謝料を請求するために、客観的な証拠を集めておきましょう。

退職金は必ず財産分与できるわけではない

離婚の際、退職金は、必ずしも財産分与の対象となるわけではありません。
原則として、勤続年数のうち、婚姻期間(別居期間を除く)に応じた割合が、財産分与の対象となります。
以下、支払われるタイミング別に詳しくみていきましょう。

退職金が既に支払われている場合

退職金が既に支払われている場合、退職金は財産分与の対象となります。
基本的には、手元に残っている退職金の中から、就業期間のうち婚姻期間に相当する分を、2分の1ずつ分け合うことになります。例えば、勤続年数40年、婚姻期間30年の場合は、支払われた退職金の3/4が財産分与の対象となります。

一方で、すでに退職金を使いきってしまい、手元に残っていない場合は、財産分与として請求ができなくなってしまいます。
もっとも、相手が無断で費消したケースでは、財産分与の際に考慮される可能性もあります。

離婚を考えていて、相手が退職金を勝手に使ってしまうおそれが高いことが証明できる場合は、裁判所に退職金の仮差押えを申し立てることができます。ただし、仮差押えの申立ての際には裁判所に担保として保証金を納める必要があるので、注意が必要です。

退職金がまだ支払われていない場合

退職金がまだ支払われていないケースでは、将来確実に退職金が支払われると判断できる場合に限り、「離婚時を退職日とした場合の見込額」あるいは「定年退職時の退職金を基準に、婚姻期間に応じて算出した金額」が、財産分与の対象になることが一般的です。

《将来の退職金が財産分与の対象として考慮される事情》

  • 会社の就業規則や賃金規程に、退職金を支払う具体的な規定がある
  • 勤続年数(あまりにも短いと、十分な退職金が望めない可能性があります)
  • 退職金が支払われるまでの期間(財産分与の対象となるおおよその目安は10年以内です)
  • 経営状況が良好か
  • 勤務態度に問題がないか

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熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください

熟年離婚をテーマにしたテレビドラマが放送されたことで世間の認知度が上がったことや、年金分割の制度がスタートしたことで、離婚に対するハードルが下がり、団塊世代が定年を迎えたことも加わって、年々、熟年離婚の件数は増加しています。

とはいえ、熟年離婚には、「相手が亡くなったときに相続権を失ってしまう」、「経済的に困窮するおそれがある」、「サポートしてくれるパートナーを失う」といったデメリットが大きいのも事実です。 事前準備をせず、感情のまま離婚をして後悔したという話しも少なくありません。

そうなる前に、熟年離婚したいとお考えの方は、一度弁護士にご相談ください。 弁護士がご依頼者様の味方となって、離婚後の生活を維持することは可能かどうか、安定した生活を送るためにはどうすべきか、これまでの経験と知識を駆使して、アドバイスをさせていただきます。

広島法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長
保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)
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