監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
離婚について、まずは夫婦間で話し合いを行います。
夫婦だけでの話し合いで解決することがむずかしければ、家庭裁判所で、調停委員会を介して話し合いによる解決をこころみます。
日本では、大半がこの話し合いにおいて、離婚が成立しています。
ですが、ごくまれに、話し合いで解決できない場合があります。
そんな時は、裁判所に法的な強制力を持つ判断をしてもらう「離婚裁判」(離婚訴訟)という方法があります。
離婚方法の最終手段と言われる「離婚裁判」について、詳しくみていきましょう。
Contents
離婚裁判とは
離婚裁判とは、「離婚するのかどうか」と「離婚の条件」を、最終的に裁判所が決定する手続きのことです。
「離婚したいけど、相手と話し合うのは時間の無駄だから、裁判で決めてもらおう」
と、いきなり裁判を起こそう(訴訟提起)とお考えの方、少しお待ちください。
日本では調停前置主義といって、原則、離婚裁判の前に調停をすること、とされています。
家庭の問題は、当事者同士の話し合いで解決しましょう、という意図があるからです。
離婚をしたい場合は、まず夫婦で話し合い、そこで合意できなければ、調停手続きの中で話しあいを行い、それでも解決できなければ、離婚裁判を提起することになります。
他の離婚方法と離婚裁判の大きな違いは、離婚が認められるためには法律で定められた離婚理由が必要になるほか、原則として裁判が公開されるため、第三者による傍聴が可能な点が挙げられます。
離婚裁判以外の離婚方法
離婚裁判は、離婚方法の最終手段です。
離婚裁判に行きつくまでの、ほかの離婚方法についてみてみましょう。
①協議離婚
夫婦で話し合って、離婚や離婚条件について合意できれば、役所に離婚届を提出することで 離婚が成立する方法です
②離婚調停
協議離婚が成立しない場合に、家庭裁判所で調停委員会が夫婦の間に入って
離婚や離婚条件について話し合う方法です
③審判離婚
離婚調停で、離婚や離婚条件について、夫婦の間で大筋は合意できているのに
些細な問題のために調停が成立しない場合に、裁判所の職権による判断のもと
調停に代わる審判が行われ、裁判所が離婚や離婚条件を決定する方法です
離婚裁判で争われること
離婚裁判での争点は、離婚するかどうか、離婚理由(原因)の有無以外にも、子供のことや、お金のことがあります。
《子供についての争点》
●親権者の指定
未成年の子供がいる場合、どちらが親権者となるのか
●子供の養育費
子供を育てるための費用を、子供と離れて暮らす親が、いくら、いつまで、どうやって支払うのか
●子供との面会交流
子供と離れて暮らす親と子供の交流について、方法や頻度、場所など
《お金についての争点》
●財産分与
婚姻期間中に夫婦で築いた共有財産を、どうやって分け合うのか
●年金分割
婚姻期間中に納めた厚生年金(または旧共済年金)の、按分割合
●慰謝料
不貞やDVなどの離婚原因を生じさせた有責者への支払い義務の有無と、金額、支払い方法
裁判で離婚が認められる条件
協議離婚や離婚調停では、夫婦双方が合意さえすれば、どんな理由でも離婚が成立しますが、離婚裁判で離婚を認めてもらうためには、法定離婚原因が必要です。
5つある法定離婚原因の、どれか1つでも立証ができれば、相手の同意がなくても、裁判で強制的に離婚が認めてもらえます。
《離婚が認められる5つの法定離婚原因》
- 相手の不貞行為(浮気や不倫)
- 相手による悪意の遺棄(正当な理由のない別居、生活費の未払いなど)
- 相手の生死が3年以上不明
- 相手が強度の精神病で回復の見込みがない
- そのほか、婚姻を継続しがたい重大な事由(婚姻関係の破綻)
※DV・モラハラ、性格の不一致、性的な不一致、親族との不和などとそれらを原因とする相当長期間に及ぶ別居
離婚裁判の流れ
離婚裁判は、以下の流れで進んでいきます。
- 夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所に、離婚を求める人(原告)が訴状を提出します
- 裁判所から、原告と相手方(被告)に、第1回口頭弁論期日を指定した呼出状が届きます
- 被告が訴状の内容を認めない場合、その理由を答弁書に記載して、裁判所と原告に提出します
- 第1回口頭弁論(訴状提出から約1ヶ月後)
⇩ ※第2回以降も判決まで、口頭弁論期日や、弁論準備、尋問手続きが繰り返されます - 離婚裁判の終了
夫婦双方が主張立証を尽くした段階で、和解の見込みがない場合には、裁判官より判決が下され、裁判が終了します
途中、裁判官から和解をすすめられ(和解勧告)、双方が応じると和解離婚が成立します
被告が、原告の主張をすべて認めて離婚を承諾すると、認諾離婚が成立する場合もあります
離婚裁判にかかる費用について
離婚裁判に必要となる、一般的な費用をご紹介します。
①収入印紙(申立手数料)
裁判で争う内容によって変動します
裁判で争う内容 | 申立手数料 |
---|---|
離婚のみ | 1万3000円 |
離婚+財産分与 | 1万3000円+1200円 |
離婚+年金分割 | 1万3000円+1200円 |
離婚+養育費 | 1万3000円+(1200円×子供の人数) |
離婚+慰謝料 |
①1万3000円 ②慰謝料請求額に対する手数料(確認はこちら:裁判所) ※①と②、どちらか高額の方 |
②郵便切手
各家庭裁判所によって必要額が異なるため、事前にお問い合わせください
③戸籍謄本の取得
戸籍謄本1通につき450円
④弁護士費用(弁護士へ依頼した場合)
弁護士によって異なりますが、一般的な相場は、以下のとおりです
- 相談料:1万円程度
- 着手金:20万~40万円程度
- 成功報酬:30万~60万円程度(事案に応じて異なります)
- そのほか、裁判所への交通費や日当など
費用はどちらが負担するのか
離婚裁判の費用は、どちらが負担することになるのかをご紹介します。
収入印紙や郵便切手などの、離婚裁判の手数料(訴訟費用)は、申立てをする際に、原告が一旦負担することになります。
その後、判決で、訴訟費用の負担割合が決定します。
一般的には、敗訴した側の負担割合が高くなります。
なお、弁護士費用については、訴訟費用に含まれないため、勝訴したと場合でも、基本的にはご依頼者様の自己負担となります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚裁判に要する期間
離婚裁判に要する平均的な期間は、約1~2年といわれています。
個別の事情や、争いの内容によりますが、はやければ半年ほど、長期化すると2年以上かかる場合があります。
最短で終わらせるためにできること
長期化しがちな離婚裁判を、なるべく短期間で解決するためのポイントをご紹介します。
●確実な証拠をそろえる
法定離婚理由があることを証明するための画像や動画、音声データや、メール・LINE、日記や医師の診断書など裁判官を納得させられる、確実な証拠があればあるほど、裁判の期間を短くできます
●和解することを目指す
裁判官が提示した和解案に納得できる場合は、受け入れることで早期解決が可能になります
●争点を必要最低限に絞る
協議離婚や離婚調停で話し合った内容をまとめて、争うポイントを絞っておくことも大切です
●離婚問題に強い弁護士に依頼する
どのような証拠をもとに、どのような主張をすればいいのか、効率的に裁判を進めることが可能です
長引くケース
なぜ離婚裁判は長引いてしまうのでしょうか?具体的なケースをみてみましょう。
●離婚の事情が複雑なケース
さまざまな事情が絡み合っていると、証拠の準備に通常より時間を要することがあります
●離婚以外の争いが多い
財産分与や慰謝料、養育費、親権者の指定といった争点が多い場合は、当然ですが、主張・立証すべきことが離婚だけを争う場合に比べて多くなるため、裁判に必要な時間が増えます
●決定的な証拠が少ない
客観的にみて、法定離婚理由の存在を裏付ける、確実な証拠が少ない場合
裁判は長期化する可能性があります
離婚裁判で認められる別居期間
別居したからといってすぐに離婚できるわけではありませんが、長期間(目安として3~5年程度)の別居は、婚姻関係が破綻していると捉えられることが多く、法律上の離婚原因である「婚姻を継続しがたい重大な事由」と認められる可能性があります。
ただし、客観的に婚姻関係の破綻を証明しにくい家庭内別居は実務上、「別居」とみなされない可能性が高いです。なお、仕事上の都合でのやむを得ない単身赴任の場合は、正当な理由のある「別居」であるため、婚姻関係の破綻は認められませんので、ご注意ください。
離婚裁判の欠席について
原告側も被告側も、1~2回の欠席で、裁判が不利になることはほぼありませんが、欠席を繰り返すと、裁判官の心証を悪くする可能性があるほか、欠席した場合でも手続きは進められるため、欠席した分、進行が不利になる場合もあります。
可能な限り日程を調整して、裁判に出席できるようにしましょう。
ただし、被告が第1回口頭弁論期日を欠席する場合には注意が必要です。
答弁書も出さずに欠席した場合は、「争う意思がない=原告の主張をすべて認める」と判断されて、一般的には、原告の請求通りの判決が下されることになります。
やむを得ない事情で欠席する場合は、答弁書さえ提出すれば、第1回期日に限り、被告本人が陳述したことにしてくれます(擬制陳述)。
離婚裁判で負けた場合
離婚裁判で負けた(敗訴)としても、判決内容に不満がある場合には、判決書を受け取ってから2週間以内に控訴することで、上級裁判所(高等裁判所)に対して、改めて審理を求めることができます。
日本では三審制度が取り入れられているため、当事者が望む場合、最大3回まで反復審理を受けることが可能です。
控訴審でも負けてしまった場合は、最高裁判所に不服の申立て(上告)をすることになります。
確実な勝訴をめざすのであれば、離婚問題に精通した弁護士に相談して、証拠収集や、主張・立証方法の改善をこころみましょう。
離婚裁判のメリット、デメリット
メリット
離婚裁判には、以下のようなメリットがあります。
- 証拠があると有利になる
- 判決には法的な強制力がある
デメリット
離婚裁判のメリットがある一方で、デメリットも多くあります。
- 時間と費用の負担が大きい
- 公開法廷で行われる
- 精神的な負担が大きい
- 決定的な証拠が必要
離婚裁判についてQ&A
裁判の申し立てを拒否することは可能なのでしょうか?
離婚裁判の申立てを拒否することはできません。
相手(原告)が訴訟提起すると、裁判所から呼出状と訴状が届きます。
呼出状と訴状を受け取ったことで、裁判がはじまります。
離婚裁判の場合、面倒だから、離婚したくないからと、裁判所からの呼び出しを無視して、裁判を欠席し続けてしまうと、訴状の内容を認めたと判断されて、原告の請求とおりの判決が下される可能性が高くなってしまいます。
離婚を回避したいのであれば、必ず裁判に出席して、相手の主張が不当であることの反論・立証をしましょう。
他人が離婚裁判を傍聴することはできますか?
裁判の公平を確保するために、法廷で行われる裁判の手続きは公開されていて、非公開にすべき特別な事情がある場合を除いて、原則は、当事者以外の第三者でも、だれでも自由に傍聴することができます(公開法廷)。
傍聴券が必要な裁判を除いて、傍聴するための特別な手続きは必要ありません。
離婚裁判においても、口頭弁論期日や証人尋問期日、判決期日など、法廷で公開されているものに関しては、他人であっても傍聴可能です。
もっとも、離婚裁判の手続きは多くの場合、公開法廷ではなく、会議室のような部屋で、裁判官と弁護士、当事者が話し合いを行う弁論準備手続で進行されます。この手続きは原則非公開で行われるため、第三者は傍聴することができません。
このように、離婚裁判のすべての手続きが傍聴できるわけではなく、また、書面の閲覧には手続きが必要となるため、傍聴にきた人が、裁判内容を詳細に知ることはむずかしいといえます。
配偶者が行方不明でも離婚裁判を行うことはできますか?
配偶者の所在が不明な場合でも、離婚裁判で離婚を成立させることが可能です。
「所在が不明だと、相手に訴状を送ることができないのでは?」と思われるかもしれませんが、
相手が所在不明でも、相手に訴状を送ったとみなす、公示送達という方法を利用すると、相手が不在のまま訴訟を進めることができます。
この場合は相手を呼び出しても応じないことが明らかなため、調停前置主義の例外として、調停を経ずにいきなり訴訟提起が可能です。
適切な主張と立証ができれば、基本的には、原告の請求とおりの判決がなされ、離婚が成立します。
ただし、公示送達が認められるためには、まずは、原告において相手の所在調査をしっかりと行う必要があります。調査を行っても相手の所在が分からなかった場合に、公示送達が認められる可能性があります。
たとえば、最後に消息のあった日から3年以上が経過していて、心当たりを探したり、捜索願を出すなどの調査を尽くしても、所在どころか、生死すらもわらない場合には、公示送達を利用して訴訟を進め、判決で民法で定める5つの離婚原因の1つ「3年以上の生死不明」が認められる可能性があります。
生死不明が3年に満たない場合でも、「悪意の遺棄」や「婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められる可能性もあります。
離婚裁判で敗訴した場合、すぐに調停の申立ができるのか?
離婚裁判で敗訴し、離婚が認められなかった場合、離婚調停に回数や期間の制限はないので、すぐに離婚を求めて調停を申立てること自体は可能です。
しかし、裁判手続きで主張立証を尽くした事実を前提に、裁判所から離婚を認めない判決が出されているので、裁判後に、法定離婚理由の存在を裏付ける、新しく決定的な証拠が揃うなどの、事情の変更がないかぎり、判決の内容を調停でくつがえすことは困難でしょう。
そもそも相手が呼び出しに応じない可能性もあります。
改めて調停を申立てるのであれば、どちらかに新しいパートナーができたり、離婚が認められる相当期間の別居を経てからなど、効果的なタイミングを見計らう必要があります。
離婚後すぐに再婚することはできるのか?
離婚後の再婚は自由ですが、女性の場合、民法で、離婚してから100日間は再婚できないと規定されています。
この期間を再婚禁止期間といい、女性だけに設けられている理由は、再婚後に生まれた子供の父親が、前の夫の子供なのか、再婚相手の子供なのか判別できなくなってしまうことを防ぎ、誰の子供なのかを明確にするためです。
もっとも、例外として、100日以内に再婚できるケースもあります。
《再婚禁止期間の例外で再婚できるケース》
●前の夫の子供だとはっきりしている場合
離婚前に妊娠していて離婚後に出産した、など
●前の夫の子供を妊娠している可能性がない場合
離婚した時点で妊娠していない、前の夫が行方不明、など
●妊娠する可能性がない場合
高齢女性、子宮の全摘出手術を受けている女性、など
●離婚した前の夫と再婚する場合
相手が離婚を拒否し続けたら裁判でも離婚することはできない
相手がかたくなに離婚を拒否していても、法的な離婚原因が立証されて、裁判所が離婚を認める判決を下せば、離婚は成立します。
離婚裁判は、話し合いで解決できないために、裁判所に決定を委ねる手続きです。
裁判所の決定には法的な強制力があるため、控訴せずに離婚が確定した場合、双方の意思に関係なく、離婚することが可能になります。
離婚裁判を考えている場合は弁護士にご相談ください
話し合いで解決をめざす協議離婚や離婚調停と異なり、離婚裁判は、いかに離婚原因を法的に、的確に主張・立証できるかが重要になります。
離婚裁判をご自身だけで行うと、弁護士費用がかからないというメリットはありますが、望まない結果となった場合に従わなければならないというデメリットのほうが、リスクが大きいといえます。
とくに裁判ともなると、相手も弁護士をつけるケースが多いので、おひとりで対応するのは、ご自身が不利になる可能性を高めることになってしまいます。
法律に従って判決がなされる離婚裁判において、法律の専門家である弁護士は、ご依頼者様の心強い味方となります。
どんな証拠が必要なのか、相手の主張にどう反論すべきなのか、和解できそうなのか、適切に見極めて、ご依頼者様が納得のいく判決を勝ち取るために、弁護士が力をつくします。
離婚裁判を検討されている方、お悩みのある方は、一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)