監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 広島法律事務所 所長 弁護士
離婚には、「協議離婚」、「離婚調停」、「審判離婚」、「離婚裁判」の、4つの方法があります。 このうち「協議離婚」は、夫婦の話し合いだけで離婚が成立するので、手間も費用も最低限ですむことから、多くの方が「協議離婚」を選択しています。 夫婦が合意さえすれば、どんな条件であっても離婚が成立してしまうので、養育費や慰謝料を、相場よりも大きく外れた金額で同意してしまい、後々トラブルとなることも少なくありません。 後悔しないためにも、「協議離婚」の進め方を事前に確認し、ポイントを押さえておきましょう。
Contents
協議離婚の進め方や流れ
最初に、協議離婚の進め方や流れについてみていきましょう。 大まかな流れは次のとおりです。
①相手に離婚を切り出す
②離婚や、離婚条件について話し合う
③合意できたら、離婚協議書(必要に応じて公正証書)を作成する
④離婚届を役所に提出する
相手に離婚を切り出す
協議離婚を進めるためには、まず相手に離婚を切り出す必要があります。
感情的にならず、落ち着いて、離婚したいという意思を相手に伝えましょう。
そのためにも、次に挙げるような事前準備をしておきましょう。
《離婚を切り出す前の事前準備》
●離婚したい理由を、具体的に書き出してみる
●離婚後の生活を計画し、準備しておく
●希望する離婚条件を書き出しておく
●夫婦の共有財産を確認しておく
●離婚原因が、配偶者の有責行為(不倫や浮気、DV、モラハラなど)の場合、証拠を集めておく
●緊急の事態に備えて、家を出て生活する準備をしておく
《離婚を切り出す直前の準備》
●包丁などの危険物を隠しておく
●子供がいる場合、あらかじめ預けておく
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきこと
夫婦双方が離婚に合意できたら、具体的な離婚条件について話し合いましょう。
《子供に関すること》
●親権
夫婦の間に未成年の子供がいる場合
離婚後にどちらが子供の親権者となるのかを定めておかなければ、離婚が成立しません
●養育費
子供が社会的・経済的に自立するまでの間に必要な養育費は
子供を実際に養育する親が、子供と離れて暮らす親に対して請求することができます
金額や支払方法、支払期日、支払期間などを、あらかじめ取り決めておきましょう
●面会交流
子供が健全に成長するために、子供と離れて暮らす親と定期的に交流する、面会交流は
子供と離れて暮らす親が、子供を養育する親に対して求めることができます
面会交流の頻度や場所、待ち合わせ、連絡方法などを取り決めておきましょう
《そのほか、お金に関すること》
●財産分与
結婚後、夫婦で協力して築き上げた共有財産を公平に分け合います
どんな財産があって、どのように分け合うのか
離婚後の生活のためにも、きちんと取り決めておきましょう
●年金分割
結婚後に、厚生年金や旧共済年金を夫婦が納めていた場合
結婚期間中の納付実績を夫婦で分け合って、将来の年金支給時にそれぞれが受け取れるように
年金分割についても話し合っておきましょう
●慰謝料
不貞行為やDVなどの離婚原因を作った有責配偶者に対して、精神的苦痛を受けた側が慰謝料を請求することができます
金額や支払方法、支払期日などを取り決めておきましょう
離婚協議書の作成と公正証書の作成
協議離婚で合意できた内容は、離婚協議書を作成し、証拠として残しておきましょう。
口約束だけでもかまいませんが、離婚後に約束が守られないといったトラブルは往々にしてよくあることです。
こうしたトラブルに備えるためにも、合意内容は書面化しておくことが大切です。
万が一、養育費や慰謝料の支払いが滞った場合に、離婚協議書があれば、それを根拠に、裁判所の手続きを利用して、支払いを求めることができます。
とはいえ、離婚協議書はあくまで個人間で交わした契約書にすぎず、相手の給与や財産を強制的に差し押さえる=強制執行することはできません。
強制執行するためには、公証役場で、強制執行認諾文言付きの公正証書(離婚給付等契約公正証書)を作成することをおすすめします。
公正証書は、強制執行が可能になる分、作成する時間を要することと費用の負担が生じることに、ご注意ください。
離婚届けを役所に提出する
離婚の準備が整ったら、離婚届を作成して、役所に提出しましょう。
離婚届が受理されたら、離婚が成立します。
なお、離婚届の提出には、次のようなものが必要です。
- 離婚届(未成年の子供の親権者を指定し、夫婦以外に証人2名の署名が必要)
- 届出人の本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
- 夫婦の戸籍謄本(離婚届を、夫婦の本籍地以外の役所へ提出する場合)
- 離婚の際に称していた氏を称する届(離婚後も婚姻中の名字を継続して名乗る場合)
- 子供の入籍届一式(未成年の子供が、離婚後に新しい戸籍へ移る場合)
離婚届を提出するタイミングに注意
協議離婚の場合、親権さえ決まっていれば離婚届は受理されます。
そのため、親権以外の離婚条件は、離婚後に取り決めることも可能ですが、話し合いに応じてもらえない、連絡すら取れないといったケースも少なくありません。
離婚条件の中には、請求期限が定められているものもあるので、可能な限り、離婚条件について合意し、離婚協議書を作成した後に、離婚届を提出するようにしましょう。
離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
「相手が離婚に応じてくれない」
「離婚条件について折り合いがつかない」
このように、協議離婚が成立しない場合、どのような対処方法があるのでしょうか?
別居を考える
協議離婚がすんなり成立しない場合、別居することを考えましょう。
折り合いがつかない場合、お互いが感情的になっていることが多く、物理的に距離を置くことで、冷静になって、考えをまとめる時間をもつことができます。
相手が離婚に応じてくれない場合にも、別居することで本気度が伝わり、離婚に対する考えを改めてくれる可能性もあります。
また、別居期間が長くなるほど、夫婦関係が破綻しているとみなされ、裁判に発展した際に、離婚が認められる可能性が高くなる点でもおすすめです。
なお、自分の収入よりも、相手の収入が上回る場合、別居期間中の生活費=婚姻費用を請求できることがあります。
離婚調停を視野に入れる
夫婦の話し合いで解決できない場合、離婚調停の申立てを検討しましょう。
離婚調停とは、裁判所の調停手続きを通して離婚する方法です。
調停委員が夫婦それぞれから事情を聞き取り、助言や解決案が提示されるため、夫婦だけで話し合うよりも、意見がまとまる可能性が高くなります。
離婚調停を申し立てるとなると、それなりの手間がかかりますし、相手が世間体を気にする方であれば、裁判所の手続きは避けて通りたいと考え、協議離婚に応じてくれる場合があります。
まずは相手に、調停を視野に入れていることを伝えてみるのもよいでしょう。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
離婚を切り出す前にすでに別居している場合、相手と話し合うことが困難なケースがあります。
相手からDVやモラハラを受けている場合には、話し合うことで危険がおよぶリスクがあります。
こうしたケースでの、協議離婚の進め方について確認していきましょう。
別居している場合
別居していて、直接会って話し合うことがむずかしい場合、メールやLINE、ビデオ通話、手紙、電話などのツールを利用して、協議離婚を進める方法があります。
やりとりの記録は、証拠として残すこともできます。
夫婦だけで話し合うことが困難なケースでは、弁護士が代理人として交渉することが可能です。
別居中の婚姻費用請求についても、あわせて対応が可能なので、不安な方は、弁護士に依頼することもご検討ください。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
相手からDVやモラハラを受けている場合、おひとりで協議離婚を進めることは大変危険です。
身の安全を確保するために、まずは別居することを視野に入れましょう。
弁護士や第三者の協力を得ることも有効です。
弁護士であれば、代理人となって相手と交渉することができますし、離婚全般の悩みについてもアドバイスが可能です。
調停に発展した場合のサポートもお任せください。
また、切迫する危険性があるケースでは、警察や公的機関への相談もご検討ください。
協議離婚を進める際の注意点
協議内容を録音しておく
協議離婚の際、話し合いの一部始終を録音しておくことをおすすめします。
議事録になるほか、調停や裁判に発展した際に証拠として利用することができます。
録音することを相手に伝える必要はありません。
録音データを第三者に漏らすなど、悪用しない限り、違法性が問われることはありませんので、ご安心ください。
もっとも、あえて録音することを相手に伝えることで、お互いが意識して感情的になることを防げる効果も期待できます。
離婚届不受理申出を提出しておく
協議離婚中に、相手が勝手に離婚届を提出するおそれがある場合、離婚届不受理申出をしておきましょう。
夫婦一方の合意がなくても、書式上に不備がなければ、夫婦双方の離婚意思を確認しないまま、離婚が成立してしまいます。
こうしたトラブルを防ぐためにも、事前に役所へ離婚届不受理申出をしておくことで、申出した本人の意思が確認できない限り、離婚届が受理されることを防ぐことができます。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
相手の不貞やDVといった有責行為の証拠は、相手に知られないように集めることが重要なように、証拠を出すタイミングも重要です。
最初にすべて開示してしまうと、相手が逆上するおそれや、証拠隠滅をはかるおそれもあります。
調停や裁判に発展することを視野にいれつつ、適切なタイミングで、必要に応じた証拠を提示するようにしましょう。
協議離婚の子供への影響
協議離婚は少なからず子供に影響を与えます。
まだ幼いから大丈夫だろうと思っていても、子供は敏感です。
子供の前での話し合いは避けましょう。
また、親権をどちらが持つのかによって子供の名字や住む場所が変わるといった影響も、考慮する必要があります。
男性でも有利に協議離婚を進められるのか
一般的には、主に子供の育児を行うのは女性で、男性の方には資力があると言われています。
そのため、離婚後の親権は女性が持つことになり、男性は養育費や婚姻費用を払うことになります。
養育費を払っているのに、面会交流を拒まれるといったトラブルも後を絶ちません。
こうした事情から、離婚は男性が不利になりやすいといわれています。
もっとも、協議離婚は、夫婦が合意さえすれば、一般例や相場から外れた内容でも離婚が成立します。
少しでも自分が有利になるよう、根気強く話し合うことが大切です。
ただし、協議が長引くことで婚姻費用の負担が大きくなるため、ある程度で折り合いをつけ、協議を長引かせないことも重要です。
内縁関係の証明に関するQ&A
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
協議離婚を経ることなく、いきなり離婚調停することはできます。
相手が話し合いに応じない場合は、協議のしようがありませんので、調停の申立てを行いましょう。
また、相手からDVやモラハラを受けているケースでは、接触を避け、当事者が直接顔を合わせずに手続きが進められる調停を利用しましょう。
もっとも、相手が調停を欠席し続けるようであれば、調停不成立となって終了して、離婚裁判の手続きを行うことになります。
また、調査をしても、相手の行方が分からない場合には、調停ではなく、最初から離婚裁判をすることもできます。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
個別の事情によって異なりますが、一般的な手続きは、次のとおりです。
《家庭裁判所での手続き》
子供に関する手続き | 子の名字の変更 |
---|
《役所での手続き》
戸籍や住所に関する手続き | 住民票の移動 |
---|---|
世帯主の変更 | |
婚氏続称の届出 | |
社会保険や年金に関する手続き | 国民年金の加入手続き |
国民健康保険の加入手続き | |
子供に関する手続き | 子の入籍届 |
児童手当の受給者変更の申請 | |
児童扶養手当の受給手続き | |
ひとり親家庭等医療費助成の手続き | |
そのほか、日常生活に関する手続き | 印鑑登録証明書の変更手続き |
《年金事務所での手続き》
社会保険や年金に関する手続き | 年金分割 |
---|
《その他の手続き》
子供に関する手続き | 子の転入学手続き |
---|---|
そのほか、日常生活に関する手続き | 運転免許証の書き換え手続き |
パスポートの書き換え手続き | |
預金通帳の変更手続き | |
クレジットカードの変更手続き | |
不動産の所有権移転登記 | |
自動車の名義変更手続き | |
水道・光熱費の名義変更手続き |
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚の場合、離婚届の証人欄に、2名分の署名が必要です。
証人は、署名時に、成人(18歳以上)であれば、誰でもかまいません。
一般的には、親や友人にお願いすることが多いようですが、頼める人がいない場合は代行サービス業者を頼る方法もあります。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
基本的に、協議離婚を進める際に、第三者の立ち合いは必要ありません。
もっとも、夫婦だけでは感情的になって、冷静な話し合いができない場合や、身の危険がある場合には、第三者の立ち合いを検討してもよいでしょう。
なお、第三者には、客観的な判断のできる人を選ぶようにしましょう。
夫婦それぞれの親や親族、友人にお願いすることも可能ですが、どちらか一方の肩を持ち、過度に口を挟むなど、話し合いがこじれる可能性が高くなります。
この点、弁護士であれば、法的なアドバイスを得られますし、円滑な話し合いが期待できます。
内縁関係を証明できるか不安なときは弁護士にご相談ください
協議離婚は、夫婦が話し合って、合意できれば成立します。
だからこそ、「知らなくて損をした」、「こんなつもりではなかったのに」と、後悔する方も少なくありません。
協議離婚の進め方について、少しでも悩みや迷いがある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
ご依頼者様に合った進め方や、適切な離婚条件について、法的な視点からアドバイスいたします。
また、ご依頼いただければ、代理人として、相手と交渉することも可能です。
夫婦だけでは難航した話し合いも、弁護士が介入することでスムーズに解決したという例も多くあります。
離婚協議書の作成のサポートについてもお任せください。
まずはお気軽に、弁護士法人ALGへお問い合わせください。
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保有資格弁護士(広島県弁護士会所属・登録番号:55163)